「私達の選んだ1コマ」大賞2022②

それぞれの会員の「私の選んだ1コマ」2022

 では早速前回の続きです。前半はこちらから。

 

 

ユンの選んだ「1コマ」:『ラブライブ! スーパースター!!』

ラブライブ! スーパースター!!』2期9話

 

【作品説明】

 『ラブライブ! スーパースター‼』はラブライブシリーズの第4作。今年・2022年は去年の1期に引き続いて2期が制作されました。同じく2期が2022年に放送された『ラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』がラブライブシリーズの攻めた新しさを見せてくれたのとある意味対照的に、スーパースターの方は王道のラブライブシリーズの要素を多分に含んでいて、特に2期は特定のカップリングについて描く要素が若干控えめだったニジガクに比べて特定のカップリング(四季-メイ、可可-すみれ、などなど)を強く押し出している印象があり、百合アニメとしてより見やすい作品だったとも言えます。その中でも選ばれた1コマで描かれた可可とすみれの関係性は2期でも特に印象的で、2022年の百合アニメを語る上で外せないカップリングだといえます。

 

【状況説明】

 唐可可(銀髪の方)と平安名すみれ(金髪の方)の2人は普段は喧嘩することも多いながらもその分互いを思っている、というのを地で行くカップリング。普段は口論ばかりしているけれど時折このシーンのような泣かせる関係性が描かれる。ラブライブで優勝できなかったら留学生である可可は中国に帰らなくてはいけないという事情を誰よりも早く察し、誰よりも可可のために優勝にこだわり、可可のために他のメンバーと少し険悪な雰囲気になってから可可達がすみれの本当の思いを知った直後の1コマが今回選出されたこちら。

 

可可:「可可の言うことにいつも反対してきて、可可のすることにいつも口を挟んできて、本当、大嫌いです。……大嫌いで、大好きです」

 

 互いのことを思っているけれど大好き以外は字面的には肯定する言葉はありません。でも状況や表情と相まって、このような言葉以外の部分でより多く互いを思っていることを表すのが2人の間柄らしいといえばらしいといえます。

 

【最後に__2期だからこその選出理由】

 この2期9話の可可-すみれ回は明らかに1期10話と対応していてある意味クゥすみの1つの到達点だと言えます。1期10話が2人にとってはじめて明確な互いを憎からず思っていることが直接的に描写された回だとしたら、それを前提として互いに互いのことを「大好き」だということを直接的に描写したのが2期9話、というわけです。その違いは2期が互いに抱き合う、「大好きです」という直接的な言葉からも伺い知れます。

 そして2人の関係性の変化は2期全編を通しても見えてくることがあります。2期の9話以外でも可可とすみれのじゃれ合い・掛け合いは多々入れ込まれていますが、1期ほど互いに対する当たりがきつくなく、かなりマイルドになっていることに気付くでしょう。その2人の関係の2期段階での終着点が、この1コマには込められているのです。

 

 

他の会員のコメント

3期のクゥすみ回は何やるんだろうね。接吻でもするのかなぁ。あと、私はかのん‐すみれのカップリングの可能性を見いだせた大富豪シーンが好きでした。(白雪)

 

1期のクゥすみは当たりきつすぎね?って思ったけど2期でひっくり返りました。(うりあ)

 

ユンの選んだ「1コマ」:『咲 saki』

『咲 saki』23巻

 『咲-Saki-』は日本を代表する超次元麻雀百合漫画。特に二次創作で多くの人を百合沼に引きづりこんできました。

 今回選んだ1コマは2022年に発売された最新刊から、部長×キャプテンのカップリングをめぐる1コマ。このコマで(直接は描かれていないものの)言及されているのは清澄高校麻雀部部長・竹井久と風越女子高校麻雀部キャプテン・福路美穂子のカップリング。このカップリングが本作における発表者の推しカプなのはさることながら、本人たちが映ってないながらも久の台詞から久と美穂子の深い関係性が伺い知れる名シーン。

 

 

他の会員のコメント

なんか今年はいかに当該カプ2人がうつってない1コマを引っ張ってくるかが流行ってる……?(白雪)

 

ステルスモモっぷりを活かして上埜さん(久)とキャプテンの百合を魅せるいい演出だと思います。それにしてもモモの胸はどうなってるんだ???(うりあ)

 

 

 

無理数の選んだ「1コマ」:『機動戦士ガンダム 水星の魔女』

機動戦士ガンダム 水星の魔女』1話

これ(水星の魔女)を2022年振り返り企画で出さないのは、やっぱ違うと思うんですよ。

 

 ということで。2022年の振り返り企画に満を満たして2022年で一番世間を騒がせた百合アニメの一角・『機動戦士ガンダム 水星の魔女』からです。1話放送直後、このシーンも含め1話に散りばめられた幾つものカットが話題となり、一時#百合アニメがTwitterのトレンドに上がるまでの事態となりました。百合文研内での反応はブログの他の記事に譲りますが、基本的には男児をメインターゲットとしている作品でここまで百合を前面に出した作品であるという点から、今回の企画にもねじ込ませていただきました。

ku-yuribunken.hatenablog.com

 

 1話の中だけでも「責任、とってよね!」など百合を感じるシーンは多かったのですが、そのなかでもこの1コマは鮮烈。「水星の魔女」の百合シーンの中でも最初に提示された、最も「強い」1コマを選出させていただきました。

 

 

他の会員のコメント

企画者も水星からやってきたばかりでこの台詞は胸が痛かったので、これが審査員特別賞ってことで。(白雪)

 

リアタイで1話を見ていたんですが、該当シーンの瞬間「パーーーーーーーッフェクトアニメーーーーションッッ!!!!」と叫んでしまいました。2022秋アニメの中でも百合おん最高瞬間風速を叩き出したのは確実にこのシーンです。(月海)

 

京大ってお堅いのね。ブンピカはもっと自由よ。(レニ)

 

無理数の選んだ「1コマ」:『さよなら幽霊ちゃん』

『さよなら幽霊ちゃん』1巻

この1コマも「強さ」で選びました。

 

 『さよなら幽霊ちゃん』は芳文社から刊行されている『まんがタイムきららフォワード』にて連載されていた作品。周囲と馴染むことができずに幽霊部員化してしまった各部の少女達が自然と集まった学校の一角。そこには幽霊が居て……というお話。幽霊部員のJK3人+幽霊が駄弁ったりというのが基本ですが、幽霊のゆうちゃんがただのモチーフに終わっておらず、真剣に生きることと死に向き合うのが印象的です。また、散りばめられた伏線がきれいに回収されていく過程も見事。

 

 その上で選出した1コマはこの作品を代表している1コマかと言われると微妙ですが、コマの強さだけで言えばトップクラスです。言っている内容がハチャメチャに重い! 1コマ大賞なら、やっぱインパクトは必要ですよね……?

 

 

他の会員のコメント

ゆうちゃんに脳をくちゅっとやられたい人生だった。(白雪)

 

このコマだけ切り取るのはずるいので皆さん全巻買って読みましょう。(うりあ)

 

ヤンデレ幽霊ちゃんに死ぬほど愛されて眠れないASMR。(レニ)

 

 

月海の選んだ「1コマ」:「ペンステモンが咲いた」

「ペンステモンが咲いた」2話

 百合なのにキャラが1人しかでていない、その時点でまず"強い"。

 

 ―――ここは空前のきららゾーンです。

 

 と、いうことできらら派閥から選出させていただく最初の1コマは「ペンステモンが咲いた」。こちらは『Liliology Vol.1』の方でもご紹介しましたが、『まんがタイムきらら』(無印)の方で今年の9月号・10月号・11月号と3カ月連続でゲスト掲載された作品です。残念ながら連載には至らなかったものの、特に印象深い作品だったのでここでも紹介させてください。

 2話はかえでの「顔にある大きな傷」という"秘密"をあかりが知ってしまった後。自分だけ秘密を知っているのは不公平だから、ということからあかりが思わぬ行動にでて"おそろい"になる、というお話です。

 

 選出した1コマは2話のクライマックス。かえでの秘密に対応するような秘密がないあかりはそれを意図的に作り出そうとする。その中で彼女が選んだのは舌にピアスを開ける、という"秘密"。選出した1コマは"秘密"が生まれ、まさにあかりとかえでが"おそろい"になった瞬間をとらえています。しかし、ここで描かれるおそろいは普段百合作品に多くの読者が期待する"おそろい"のようにただ美しく尊いものではなく、ましてやきらら作品に一般的に付与される"きらきらしたもの"とはかなり距離があります。コマには口元に流れる唾液や血液が逃げることなく克明に描き込まれており、"お揃い"を作ることが苦痛を伴い、綺麗なものでないことを隠そうという意図もないのです。

 

 そんな、少し、いやかなり歪んだ思いの表し方・"おそろい"の作り方はまさにこの作品オンリーワンの魅力で、そしてこの2人ならではの唯一無二の関係性を醸し出す貴重なスパイスになっています。

 

 

他の会員のコメント

歪んだ愛情表現はなんぼあってもいいですからね~。(白雪)

 

きららで連載するには「強すぎ」たのかな……。(うりあ)

 

連載に至らなかったので百合姫は容赦なく引き抜いてください。(レニ)

 

 

月海の選んだ「1コマ」:『きもちわるいから君がすき』

『きもちわるいから君がすき』6話

百合なのに女の子が1人も映ってない、その時点で(以下省略)

 

相関図

【作品解説】

 『きもちわるいから君がすき』は『まんがタイムきらら』で連載されているクソデカ感情百合漫画(この表現は公式より)で、コミックス1巻は今月26日に遂に発売されました。下手にあらすじを自分で生成するとネタバレになりそうなので、以下、まんがタイムきららWEBのコミックス1巻書誌情報を引用。

1話目から(いろんな意味で)話題沸騰の
クソデカ感情百合漫画、ついにコミックス化!

親友である依子(よりこ)のことが好きな司(つかさ)は、
今日も気持ちを隠して日常を送る。
一方依子も司に対してトクベツな感情を持っているようで…?

 

 まあ、要するに相関図(線の太さが何を意味しているかどうかについては触れない)の感じで思い合っている女の子達の物語、と思っていてくれればいいと思います。

 

【選出したコマについて】

 選出したコマはコミックス1巻に収録される予定の第6話から。この前のエピソードでは3人目のメインキャラ・透も登場し、はじめて三者三様の心理模様が明確に描かれるエピソードでもあります。

 6話の前半では傍目から見たらあくまで「仲良し」の範疇で司と依子は2人きりで雪だるまを作って遊びます。それぞれの特色の出た雪だるまというキーアイテムを軸に、後半にかけて三者三様の物語が展開されていきます。

 選出した1コマはそのうち、透と雪だるまについての物語から。1人でいることを好み「青春ごっこ」を極端に口では嫌いながらも5話でのやりとりで依子に特別な感情を抱いてしまった透。そんな透は帰り際に雪だるまづくりに興じる司と透を見かけてしまいます。

 2人が帰った後。雪だるまなんてどうせ解ける、くだらない青春ごっこだと雪だるまづくりを口では一蹴しながらも、残された依子の雪だるまの隣に自分も雪だるまを作って並べてしまう透。その並べられた依子の雪だるま(大きい方)と透の雪だるま(小さい方)が並べられているのがこの1コマです。口ではいろいろ言いながらも青春ごっこを一蹴しきれない、本当は透も依子と遊びたいけれどもそれを言い出せない透の哀愁が伝わってくる1コマです。そして比較対象としてその前のコマで描写される司と比べると、無骨さと言う観点で透の雪だるまは少し依子の雪だるまと共通する部分があります。それでありながらもやっぱり作った人が違うから歪さや形に違いが出る。雪だるま1つとっても一辺倒でなく思いを寄せる相手に似せられるところ・違いが出てしまうところまで描写されている点は非常に秀逸です。

 

【おまけ__他の2人の物語】

 このように企画では透と雪だるまの向き合い方についてフォーカスを当てて見ていきましたが、それでは他の2人はどうなのでしょう。

 3人のうち、この作品唯一の良心(だと思われる)司は帰宅後、「雪だるまなんて何度でも作ってあげるんだから」と妹たちに言います。雪だるまに永遠なんてないという現実を見ながら、それでいてポジティブに未来の話をする。それが本来最適解で、当たり前で、実に司らしい結論だと思います。

 一方、依子は司の作った雪だるまを"お持ち帰り"して冷蔵庫で永遠に保存しようとします。普通にしていたら永遠がないのならば人工的にでも永遠を創り出せばいい。実にこの作品の主人公(?)らしい結論です。

 

 

他の会員のコメント

1巻出たら脳死で買うつもりだけど編集の都合できららベースで読める分は大急ぎで読みました。結論→「なんだよこの神漫画! 」(白雪)

 

構図のオサレさで競う発想、カブりますねぇ。(レニ)

 

 

うりあの選んだ「1コマ」:『きたない君がいちばんかわいい』

『きたない君がいちばんかわいい』5巻

 


【作品解説】

 みなさんご存じ?の作品、まにお先生が「コミック百合姫」で連載していた『きたない君がいちばんかわいい』です。

 中学で初めて出会ってから、仲を深めていく瀬崎愛吏と花邑ひなこ。ある日、持久走で嘔吐してしまい汚れたひなこの姿を、愛吏は一番「かわいい」と感じるようになります。高校に入学すると二人はクラス内では疎遠になってしまいますが、放課後の空き教室などで密かに会い、愛吏がひなこを「きたなく」て「かわいい」姿にする日々を送ります。しかし、それも長くは続かず……というお話。嘔吐描写や食虫描写で百合姫のやべー作品として話題になりましたね。

 

 

【選出したコマについて】

 物語も終盤になり、愛吏とひなこは家を出て宿を転々としながらその日暮らしの生活を送ることになります。そんな日々を長く続けることができないことはわかっているため、愛吏は日に日に追い詰められていき、ひなこに対して最後にして最大の「お願い」を言います。

「ひなは…わたしたちを永遠にしてくれる?」

最後まで自分勝手でわがままな愛吏ですが、そんな愛吏が大好きなひなこは、完全にひなこだけの物になっている今の愛吏を「永遠」にすることを選択します。愛吏に手をかけるひなこの姿は皮肉にも「きれい」であって、愛吏は自分だけがひなこをそのような姿にできることを嬉しく思います。そしてその後、2人は文字通り「永遠」になります。

 正直、「きたかわ」はどのコマも破壊力があって1コマだけ選ぶって難しいのですが、その中でも最終回のこの1コマは「強い」ですよね……。二人の愛をそのままに、永遠にする心中をここまで強く、美しく描いた百合作品って後にも先にも無いんじゃないかっていうくらいの衝撃を受けました。

 

 

他の会員のコメント

王道が来ましたね……。私も就活が終わってから少し経ってからようやく読めたんだけど、これは「追ってきてよかった」と思える終わり方だった。やっぱ永遠なんて、みんな死ぬしかないじゃない! (白雪)

 

この話の載った百合姫、ちょうど京大入試の直前だったんですよね。今読んだらヤバい、と思ってその時は読まなかったのは今ではいい思い出。(無理数)

 

大胆な永遠は女の子の特権(レニ)

 

 

 

総括!

 以上、12名全16コマ(!?)の紹介でした。白雪自身も数え直して困惑しています、ええ。

 

 そして今年も出席者による投票の結果

 

 1位 レニの選んだ「1コマ」 :『MADLAX

 

 2位 ユンの選んだ「1コマ」 :『ラブライブ! スーパースター‼』

 2位 うりあの選んだ「1コマ」:『きたない君がいちばんかわいい』

 

が2022年の「私達の選んだ」1コマ大賞、と言うことにさせていただきました。去年同様、これらの1コマは2023年の百合文化研究会の活動に顔を出すことがあるかもしれませんという予告をしておきます。

 

 ですが、このブログをまとめている最中、白雪はこんなコマを見つけてしまいまして。

『きもちわるいから君がすき』6話より

 これは「2022年最強の1コマ」を決めるべくスタートした1コマ大賞含め研究会の活動すべてに通じるスタンスだと思います。

 今回紹介された16コマ。そのどれもが興味深い考察や発表者の熱い思い・「好き」が伝わるものでした。作品よりもより小さな瞬間である「1コマ」だからこそ、選び出すのは難しい。でもだからこそ、よりじっくりとアイテムやこれまでの文脈に注目し、丁寧に向き合うことができる。そしてそのように向き合った先に「これまで好きだった作品の魅力の再発見」、更には「自分達百合オタクが惹かれる百合の本質」が「理解っちゃう」ことにつながるのではないでしょうか。

 実際、皆さんの発表を聞いて2022年の活動や百合作品を振り返るだけでなく、私自身も百合の深淵を更に覗き込むきっかけになりました。レニさんの研究ほどガチガチなものではないですが、この記事が、少しでも読者の皆さんが百合を考えるきっかけにつながったならば、百合文化「研究会」のブログの1記事冥利に尽きます。

 

 

 

 そして最後の最後に。

みんな2022年っていう時代・"強いコマ"にこだわりすぎだろーw!

これだけは声を大にして言いたい。それはそれで楽しかったんですけど、2006年の王道百合アニメを持ってきた主催者の立場がねぇ……。

 まあ何はともあれ、無事に企画を終え、このようにブログにまとめられてよかったです。来年誰かがこの企画を引き継いでくれると嬉しいけど……ここで言うことじゃないですね。

 

 ではでは。ここまでお読みいただき、ありがとうございました~。

「私達の選んだ1コマ」大賞2022①

はじめに

(編集責任:白雪)

 

 ごきげんよう。もう今年も終わりですね。年の瀬と言えば、百合文研では1コマ大賞の季節です。

 

 と、いうことで本稿は2022年12月7日に開催した百合文研歳末恒例(?)の「私達の選んだ1コマ」大賞の開催内容についてまとめたものです。

 去年も開催したこのイベントですが、今年は発表者数も、発表者の準備の度合いも一段と気合が入っていたように感じます。会員一人一人が選んだ強すぎる「1コマ」の数々。これを見て、皆さんも2022年の百合ライフを振り返りませんか。

 

 なお、本記事は白雪の書いた伝聞調の章と発表者が自ら書いた章が混在しているため文体が箇所によって異なりますが、その点はご了承ください。

 

 

「私達の選んだ1コマ」大賞とは?

 本編に入る前にまず今回の概要について簡単にご説明しましょう。企画者の白雪の出発点としてネット流行語大賞みたいなのを百合文研内で行いたいという思いがありました。そして、漫画読みサークルが前身となっているサークルであるから、流行「語」よりも印象に残った「1コマ」に注目する企画に落ち着きました。

 

 1コマといっても、媒体は漫画に限らず、百合作品の一部ならそのメディアはアニメでも小説でも良い、として会員から「私の選んだ1コマ」を募りました。特に今年はアニメの1コマ、というより1カットからの投稿も多く、そのようなところは前身の漫画読みサークルから少しずつ巣立ち始めているのかな、といった気もします。

 

 また、作品の発表年も一応、「会員が今年触れた百合(だと自分では思っている)作品ならば何でもよい」としていたのですが2022年に出たもの縛りで押さえるべきところを押さえてくれる会員も多く、結果として2022年と言う時代を振り返ることもできました。

 

 

それぞれの会員の「私の選んだ1コマ」2021

 さて、能書きはこれくらいにしてそれぞれの会員に熱い推しコマ・推しシーンを語ってもらいましょう。

 

 

レニの選んだ「1コマ」:『MADLAX

MADLAX』26話

 

 皆さん、2022年に一番熱かった美少女ガンアクションって何だったと思いますか? 『リコリス・リコイル』? 実は違うんですよ――。

 

 引継ぎをしても会長の座も譲らなければ1コマ大賞の座も譲らない。圧倒的トーク力と映像を巧みに使った構成で参加会員全員の興味をかっさらっていったのは今年も会長のレニさんでした。

 

 『MADLAX』は2004年に放送された、美少女ガンアクション三部作の第2作目。

運命で結ばれた2人の少女の謎と、情報犯罪組織との対決を描いた作品で、「美少女ガンアクション」「オサレポーズ」等のオサレな演出や、挿入歌「ヤンマーニ」はあまりにも有名とされています。

 

 本作にはマーガレットとマドラックスという2人のヒロインが登場します。出身地も何もかもが正反対な2人の関係は、語れば即ネタバレという作品紹介の鬼門になるのですが、高度に抽象的な表現をすると「マーガレットの罪をマドラックスが背負っている」という関係にあります。そして、この最終話で披露されたマーガレットのオサレポーズは1話のマドラックスの初戦闘シーンと対比的に描かれており、マーガレットがこれまでマドラックスに負わせてきた罪を受け入れたシーンであることが、今まで作品を見てきた視聴者ならばすぐに分かるのです。

 ただ、それだけで終わらないのがこの作品の恐ろしいところで。

 

 件のオサレポーズでマーガレットが発した「見つめてるよ」の言葉は、この場面でも流れている処刑ソング、通称「ヤンマー二」の歌詞に対応していることがわかります。即ち、「ヤンマー二」自体がマドラックスからマーガレットに対する呼びかけの歌と解釈することができます。そして、「2人を結んでる」の歌詞でマーガレットは引き金を引き、曲が終わります。即ち、この銃撃によってマーガレットはマドラックスに応え、ようやく2人は一緒になれたことを示唆しているのです。

 

他にも、

  • 枚挙に暇のないバチクソオサレ演出
  • 絶対に2回見たくなる(2回見ないと分からん)伏線の数々
  • 魂で結ばれた2人、主従愛、殺し愛、隣のお姉さん、実質ほむらと杏子、「妹になってくれる?」、少女革命

     


     

などの要素が含まれており、非常に興味深い作品となっています。皆も『MADLAX』を見よう!

 

他の会員からのコメント

上回生はゼロ年代の百合アニメについて語る流れができつつある。(白雪)

 

2022年の覇権百合ガンアクションアニメは『リコリス・リコイル』ではなく『MADLAX』でした(うりあ)

 

ヤンマーニ」だけはニコニコMADで知っていたけど、これ百合作品だったんだ……。(月海)

 

白雪の選んだ「1コマ」:『Liliology』

百合文化研究会 11月祭出店POPより

 

 えっ、今回の発表でネタに走ったの私だけですかぁ?

 

 ということで白雪からの今回のネタ枠はこれ。こちらは先月に11月祭で頒布され、今月末にはC101でも頒布する予定の弊サークル会誌『Liliology』Vol.1 に掲載されている会員自己紹介の前に配置された図を抜き出したものです。もちろん実際の百合文研の派閥はもっと入り組んだ図になるので、こちらはかなり単純化しています。それでもとっかかりとしてはある程度インパクトはあったようで、11月祭当日、この図の前で足を止めてくれる一般参加者も多かった印象がありました。

 本当に良い思い出となった11月祭。百合文化研究会の2022年の活動を振り返るにあたって、そんな11月祭を象徴する何らかの1コマもまたねじこみたい。その思いは決してネタに走りたいというだけではありませんでした。

 

 考えてみるとこの図で一際目を引く「右派」「左派」というのは去年の11月、漫トロピーさんの会誌をユリ裁判した時に出てきたものなんですよね。個人的にはあのユリ裁判が百合文研会誌作成の第一歩だと思っていて、そう考えると会誌作成はこの図の原型から始まったといってもいいのかもしれません。完全に内輪ネタではありますが、個人的には2022年を語る上では11月祭の思い出ともども、外せない1コマになりました。

 

 

他の会員からのコメント

確かに2022年の百合文研を語る上では外せない1コマ。改めて見てもよくできてますね。(うりあ)

 

ヤバ図(147いいね)(レニ)

 

 

白雪の選んだ1コマ:『ストロベリー・パニック

ストロベリー・パニック』26話

 

 百合作品史上最強の負けヒロインにして最強の友人キャラ、キマシタワー! たまりませんわ~!

 

 そしてこれが白雪の真打、ネタバレなんか知ったことか、ということでぶち込んだのがこの1コマ……なのですが、発表では時間の関係及びあまり全てを語ってしまうとネタバレになってしまうので本当にさっと流したので、この場ではもう少し詳しく語ってみたいと思います。

 

【『ストロベリーパニック』 あらすじ】

聖ミアトル女学園、聖スピカ女学院、聖ル・リム女学校とその共同宿舎であるいちご舎を舞台に、数組の乙女たちの百合色学園ライフを描く。美少女ゲーの系譜を受けた萌え文化と少女漫画的な女学校要素の初の本格的な結節点にして極の1つといっていい作品。

 

【相関図】

 

【状況説明】

 物語のハイライトもハイライト。細かい説明は省くが渚砂(赤髪の子)と玉青(青髪の子)が今まさに2人で学校の代表に選ばれようとしている時に、ようやく自分の渚砂に対する気持ちに気付き、乱入してきた静馬(白髪の子)が多勢の前で大胆な告白をする。

 それを受けた玉青は渚砂の気持ちを汲み、自分の気持ちを押し殺して渚砂の背中を静馬に向かって押す。

 

【考察と推薦理由】

 この作品は百合における負けヒロインが負けるシーンとしてだけでも十分に「1コマ」に値すると言えるかもしれません。でもそれ以上に興味深いのが玉青ちゃんには他の属性――そう、友人キャラという属性もまた付与されているポジションだということを考慮するとこのシーンを単なるヒロインレースの負けシーンだけでは片づけられないと思うのです。つまり、このシーンは片思いキャラとしては負けヒロインでも同時に主人公の友人キャラとしては主人公の幸せを願って積極的に背中を押すシーンでもあると捉えることができるのです。

 

 と、その前に。そもそも友人キャラとは何でしょうか。友人キャラと言うのは主に恋愛シミュレーションゲームに登場する男主人公の周りにいるモブ男キャラを想起してもらうのがいいと思います。大抵は主人公をかっこよく見せるために容姿や性格が残念に抑えられていることが多く、男同士の関係は物語のメインストリームにはなりづらいと言えます。その点、「友人キャラ」を百合作品に落とし込むとどのようになるのか、をはっきりと示したのがこの作品の特徴でもある、ということが見て取れると思います。つまり、百合作品における友人キャラはモブではなく主人公の恋愛を応援し、更にはヒロインレースに途中まで参加することができることを示したのです。

 

 このような役回りが玉青ちゃんに割り振ることができたのは『ストロベリー・パニック』自体がもともと美少女ゲームなどを扱う雑誌の企画から始まったことも関係がある可能性もあるのでしょうか。出自的に「友人キャラ」というものを観念しやすい土壌にあり、だからこそ友人キャラと恋愛ヒロインのハイブリットが生まれた、と。そして、ヒロインと友人キャラを兼ねられるというのも女性に求められるイメージ(負けヒロインだといっても『とらドラ』みたいにバチバチやり合うのは稀)や同性同士と言う、異性同士よりも「友人」が成立しやすい関係性だからこそ成し得たものなのかもしれません。

 

 しかし改めて見ると玉青ちゃんって負けるべくして造形されたヒロインではありますよね。秀才設定も、渚砂ちゃんに好意を抱くきっかけになったこれまでは1人部屋だった設定も、本来は物分かりが良くて最終的には相手のために諦めてしまえる人物だと示唆していたと振り返ってみると思えてなりません。だからこそ、本来の彼女からは離れているのかもしれない中盤などの変態的な渚砂への執着を引き出した渚砂という存在の大きさ・罪深さを考えずにはいられません。そんな2クール通して様々な表情を見せてくれたその全てが玉青ちゃんの魅力で、『ストロベリー・パニック』を神作品にしている重要な要素だと思います。玉青ちゃんの魅力はやっぱり見てもらわないと伝わらないので皆さんも『ストロベリー・パニック』を見ましょう。いちご舎でパーシバルも待ってるぞ!

 

 

他の会員のコメント

負けヒロイン爆誕。夜々ちゃんも好きです(レニ)

 

 

もりしの選んだ「1コマ」:『ブラックヤギーと劇薬まどれーぬ 完全版』

『ブラックヤギーと劇薬まどれーぬ 完全版』

レズビアンだからって言ったって女子のことを誰でも愛せると思うなよ、みたいな。

 

【あらすじ】

 もともとヘテロだった「あすか」と同性愛者だと噂されていた「めぐみ」の2人の物語。

 めぐみは同性愛嗜好であることから周囲から陰口を叩かれたりしていた。そんな中、異性愛嗜好のあすかは周囲などを気にせずにめぐみと交流していく。そんな中でめぐみはあすかの態度が友人にしては近すぎる気がしてきて、めぐみが同性愛者であるという噂は本当でめぐみは自分自身に恋をしているのではないか、と思うようになる。

 そんな最中、めぐみはあすかに「2人きりで会いたい」と言い出す。それは、めぐみからの「自分には彼女がいる」というカミングアウトだった。めぐみはあすかのことを友人だと思っていたからこそ本当の自分をあすかに知って欲しかったのだった。選ばれた1コマはそれに続く1シーン。

 

【考察と推薦理由】

 このカミングアウトであすかは女友達に恋をしていたのは自分の方だと気づき、「2人きりで会いたい」と言う言葉が相手からの告白だと期待していた分、片思い相手に彼女がいたことのショックが大きくて泣き出してしまう。それと対比するようにめぐみの方はカミングアウトが受け入れられたことで安堵しており、「ごめんね、軽蔑するよね」「友達でいてくれる? 」などとあすかの友情を確かめながら抱き着く。後ろから抱き着いているのであすかが泣いていることにめぐみは気づいていない。

 その対比が切なくて、届かない思いやすれ違っている思いが1つに込められた1コマだと言える。

 

 

他の会員からのコメント

今回の一コマ大賞の中でも「一コマ」の威力がずば抜けていて、セリフも相まって一瞬で心に突き刺さってしまいました……。買います。(月海)

 

最近『レスビアンの歴史』や性的マイノリティ当事者のエッセイなどをよく読んでいて性について考える機会が多い分、興味が惹かれました。レスビアンが女性になら誰にでも恋愛感情を抱くことがないって言うのは真実なんですよね。それはヘテロが異性なら誰にだってすぐに欲情するわけでないのと同じ。と、いうか寧ろゲイの方は比較的頻繁に相手を変えるのに対して、レスビアンの方は特定の相手と比較的長くお付き合いする傾向にあるようです。

 令和になってからはジェンダーダイバーシティが広まって思考実験的なものを除いて同性愛者を差別するのが当たり前の世界観は描かれづらくなってきたと思いますが、5年ちょっと遡るだけでそういう時代は普通にある、と発表年も考慮すると時代的変遷を考えるうえでもやっぱり読んでおきたい。(白雪)

 

 

 

あるごんの選んだ「1コマ」:『羽山先生と寺野先生は付き合っている』

『羽山先生と寺野先生は付き合っている』

NFで"出会っちゃった!"

 

 11月祭(NF)で自分もシフトが入ってないのに百合文研のブースに入り浸っちゃった口ですけど、あるごん君もそんな入り浸り仲間でした。だって1日中百合漫画が置いてあるんだよ? 読まなきゃ損じゃない?

 ということで11月祭の自分達のサークルのブースであるごん君が"出会っちゃった"、彼の平和主義に刺さってしまったのがこの作品だそうです。

 

【あらすじと推薦理由】

 あらすじはタイトルの通り、「羽山先生と寺野先生は付き合っている」、それ以上でもそれ以下でもない。しかしタイトルに「付き合ってる」と公言するだけあって1話1話の百合密度は胸焼けするほど高いので一度に摂取する量には要注意。

 そんな高い百合密度の秘訣の1つはヒロインである羽山先生と寺野先生のキャラの対照性にある。羽山先生(黒髪の女性)は学生時代、ずっと周囲の言われるままに過ごし、青春らしいことができなかったという過去があった。そして、「先生になっても青春出来るわけではない」と半ばあきらめているようなそんな人物だった。そんな彼女を連れだしたのが寺野先生。

 

 「今やりたいことはなに? 」「このままプールで泳いでみたい」そんな会話から着衣のままプールに入り込んだ2人はそのまま抱き締め合い、接吻する。この百合オタクを殺しにかかってる尊すぎるシーンが水中と言うシチュエーションで更に幻想的になって言うのもまたポイントが高い。

 

他の会員のコメント

百合密度……また新しい概念が生まれてしまった。(O.obscura)

 

12月に学校の図書館で女の子がキスしている画像をまとめスライドにペタペタ張ってると12月が来たなぁって気がしてる。来年になって純粋に読めなくなる前に読まないと。(白雪)

 

 

 

もりぃの選んだ「1コマ」:『Do It Yourself!! -どぅー・いっと・ゆあせるふ- 』

Do It Yourself!! -どぅー・いっと・ゆあせるふ- 4 話

「1 コマ大賞」とありますが、アニメを中心に触れている自分にとっては「1 カット大賞」と言うべきでしょうか。

 

【作品紹介】
2022 年秋アニメ。監督は米田和弘。アニメーション制作は PINE JAM。「DIY」を題材に女子高生の日常を描く。丁寧なカット割りや演出、キャラクターの魅力を引き出す可愛らしい動きなど、アニメーションとしての楽しみが強いオリジナル作品。


【場面紹介】
ジョブ子がぷりんの家にホームステイすることになり、ぷりんはハンモック作りを手伝う。
その後、部員集めに困っている DIY 部のために、ぷりんがぼそっとアイデアを出す。

 

【解説】
大好きなのに素直になれないぷりんは、主人公・せるふを意識して凝り固まる姿が強調されていたが、第四話でようやく一歩を踏み出した。選出した場面はまさに、DIY を頑張るせるふを応援し、きちんとせるふと向き合っていくというぷりんの宣言である。思春期の難しさを解きほぐすような、暖かさと期待感を感じる回であった。

 

 B パートでは、まず部屋作りのメインであるハンモック作りに対して、ジョブ子は”It’s easy.”と言っている。また、今までの DIY シーンと異なり、ハンモック作り自体はほとんど描かれない。ここで重要なのは、ハンモック作り=きっかけ作りはそれほど難しくないというメッセージだろう。つまり、ぷりんが作っていたのは、せるふと再び向き合い仲良くなるためのきっかけであり、この一連の流れは後のぷりんの行動を後押ししていると言える。加えてぷりんは、昔はせるふとはこんなに仲が良かったこと、せるふとは少し距離が離れてしまったこと、せるふがどんな子なのかなどをジョブ子に語りかけるシーンがある。返しの「あと少し」も、部屋の準備ではなく、「(せるふと仲良くなるのも)あと少し」という意味合いが含まれている。「寂しさ」を放っておけないジョブ子の姿が印象的。

 

 このように、ジョブ子がせるふとぷりん、互いの関係を仲介しながら、ぷりんに大きな影響を与える回であった。既にぷりんがせるふに特別な感情を持っていることは目に見えていたわけだが(属性的には幼馴染のツンデレヒロン)、このような視聴者の視点をジョブ子が担い、周囲を見渡して手を指し伸ばそうとする大人びた少女として描かれているのは、キャラクターを尊ぶ作り手の姿勢が見えていいね。 

 

 

他の会員のコメント

百合を意識したコメントを心掛けてくれたみたいで、もりぃさん含め参加者の皆さんのガチ具合と企画者である白雪の軽さのギャップが開きすぎてる。立つ瀬がない……。DIYはやっぱ1話のエッジのかかったせるふとぷりんの対比が印象的。(白雪)

 

DIYは毎回良質な幼馴染百合を供給してくれますよね。幼馴染百合しか勝たん。(O.obscura)

 

 

 

周回積分の選んだ「1コマ」:『酒と鬼は二合まで』

『酒と鬼は二合まで』

女の子が全く写っていないコマを使ったらインパクトあるかな〜と思いまして。

 

【あらすじ】

 祖父に憧れて、バーテンダーを志す大学生のナオリ。しかし家に呼べるような友人もおらず、いつもひとり寂しくカクテルを作って飲んでいた。ある日誘われた飲み会でお酒が飲めないギャルのひなたに出会う。なんだかんだでひなたはナオリの家に来たが、彼女は実は鬼で、人間に与えられたお酒しか飲めなかったのだ。そこでナオリはひなたのためにカクテルを作る。

 

【選んだコマの解説と1言】

 人外×人間の百合です。このタイプの百合は互いの種族の違いによるすれ違いが生むトラブルが話のテーマになります。ここのコマではひなたが風邪をひいたナオリのためにお粥を作って失敗してしまいます(右のお皿がひなたの作ったおかゆ、左はナオリの体調がちょっと良くなってひなたと狸のために作ったカクテル)。

 怪異の中では頂点にいる鬼であっても、大切な人の役に立ちたいという人間と変わらない悩みを持つという立場と感情のギャップが素晴らしいと思いました。

 星屑テレパスとか、上伊那ぼたんで出そうかなと思っていたんですけど、この2つは被るだろうな〜と思ってこの作品にしました。

 

他の会員のコメント

蓋を開けたら誰も星屑テレパスも上伊那ぼたんも選んでないよ……。(白雪)

 

初見時と解説聞いたあとでコマの見方が変わるの楽しい。(うりあ)

「女の子が全く写っていないコマならインパクトがある」完全にアイデアが被ってしまった……。(月海)

 

人外×百合なだけでなく、酒×百合というのもポイント高いですね。「上伊那ぼたん」もそうですが、お酒が物語にどのように効いているのか気になる作品です。(O.obscura)

 

O.obscuraの選んだ「1コマ」:『Citrus

Citrus』10巻

このコマに関して、これ以上私の貧弱な語彙で説明するのも憚られるので稲葉浩志の力を借ります。B'zのYOU&Iを聞いてもらって……。

 

【作品紹介とコマまでの状況説明】

 『Citrus』はアニメ化もした『コミック百合姫』の主力作品の1つで学園の理事長の孫である芽衣と今時の女子高生・柚子の2人が義理の姉妹になってお互いに惹かれ合っていく過程を描いた作品。

 コマの出典は本編最終巻の10巻。アニメ化された部分でもわかる通り、最初は芽衣と柚子の関係性は険悪だったり名の許嫁などの障害が多かったりなどしていた2人は2人での時間を重ねていくことで互いの気持ちに向き合い、わかっていく。

 しかし8巻・9巻になると芽衣の理事長の孫という立場上、2人の関係の雲行きは怪しくなっていき、引き離される芽衣と柚子。

 そんな中でも最終的に柚子は芽衣に会いに行くことを決意し、これまでCitrus全編通じて登場した様々なキャラの協力を得ながら柚子は遂に芽衣の前に姿を現し、芽衣にプロポーズする。選出した1コマは柚子と再会し、プロポーズを受けた芽衣の1言を切り取った1コマ。

 

Citrusの魅力__泣き顔の描写】

 泣き顔と言うものは人間らしい行動の最たるものの1つで、そこに含まれる様々な感情を反映して多様な面を見せる。そんな多様な「泣き顔」の描き分けが秀逸になされているのが『Citrus』という作品の特色にして魅力の1つ。

 そして選出した1コマもそんなサブロウタ先生の「泣き顔」の魅力が色濃く表れている。芽衣の台詞こそ「大嫌いよ」となっているが、それを字義どおりにだけとらえるのはもちろん早計だ。この直後に芽衣は「大好きよ」と答えており、このシーンの泣き顔及び涙には芽衣の柚子に対する愛憎入り混じった、などと言う言葉では言い表せない多くの思いが込められている。そこに、これまで10巻にわたり紡がれてきた柚子に振り回されつつもいろいろ思う所のあった芽衣の日々を読み込むとこの涙の意味は更に印象深くなる。

 そんな王道百合作品のハイライトから今回は「1コマ」を選出。

 

 

他の会員のコメント

これまで登場したキャラが再集結して主人公に協力してくれる展開って王道だけど燃えるよね。百合アニメだとけもフレ1期とか思い出した。(白雪)

 

B’zで百合作品を読み解くの斬新すぎて好き。(うりあ)

 

 

 

はたはたの選んだ「1コマ」:『魂の関所にて』

『魂の関所にて』

束縛・執着が描かれていますよねっ、素晴らしいですね!

 

【あらすじとコマに至るまでの経緯】

 本作は死後の世界を舞台に、前世での行いのせいで来世に転生することができない少女達2人の関係性を描く。

 白髪の子は前世で富豪のお嬢様の侍女をしていた。そして主人であるお嬢様から思いを向けられ、流されるままにお嬢様との心中を受け入れてしまい、侍女の少女だけが死んでしまう。そして死後の世界から、生き残ったお嬢様が自分以外の特別な相手をまた新しく作ったのを見て、「自分じゃなくても良かった」ことを悟り、絶望してしまう。そんな傷心しきった白髪の少女に黒髪の少女が向けた台詞が選出した1コマ。

 

【コマについての解説と選出理由】

 黒髪の少女がやっていることは言ってしまえば弱り切った白髪の少女の不安定な心理状況に付け込んでいることになる。でも白髪の少女は黒髪の少女の思いを流されるままに受け入れてしまう。生前含め、白髪の少女は流されるまま・受けに徹し、最後は絶望する役回りなのがポイント。そして向けられた思い、「すべて私にくださいな」が意味していることは相当重いが、その思いクソデカ感情がやっぱり百合好きにはたまらない。

 もう一言加えると、実は本作には冒頭に白髪の少女と黒髪の少女の構図を真逆にしたコマがあり、そことこのコマは対応している。それがこのコマの重要性を立証していると同時に最後は白い髪の少女は「執着される側に落ち着く」ことをより印象深くしているとも言える。

 

 

 

他の会員のコメント

すごく綺麗に纏まっている作品だなぁという印象。読んでみたい。(白雪)

 

 

 

 

 

休憩!

 とまあ前半戦は弊サークル1期生を中心に全9コマの発表内容をメインにまとめ、冒頭とラストの対称性の話ではじまり対称性の話で終わりになりました。

 後半戦は弊サークル2期生(2022年入会)・ブログ的にはニューフェイス中心の発表です。

 

 

 

【20か月】私達、あなたの望む最高の百合文化研究者になれたかな__京都大学百合文化研究会2年間の軌跡

(書いた人 猿渡白雪)

 

 今年に入ってからこのブログを私有地のように使ってしまっている気がする……。ということで皆さまごきげんよう、猿渡白雪です。

 あと1月で2022年も終わり、百合文化研究会も発足してから20か月が経ちました。11月祭における弊サークルの出店も大盛況の中幕を閉じ、会内ではそろそろ次期役員を決めるといった動きが出て参りました。そんな節目を感じつつある今日この頃、過去のブログ記事を読んでたら「そういえば去年は活動の振り返りみたいなことをしていたなぁ」ということを思い出しました。

 

 そこで、(今年度で卒業する都合上)役員決めに参加しないために暇を持て余している白雪がその続きを簡単にブログにまとめてみよう、と思って今回は筆をとりました。これが弊サークルを知ってもらうきっかけになると同時に来年度の、そしてそれ以降の弊サークルの運営に少しでも役に立てば幸いです。

 

 

 

百合文化研究会 2年間の軌跡

 各論に入る前にまずはざっと、発足以来に行った主だったイベントをタームごとにまとめてみました。下記のイベントのほか、随時「百合を見る会」を開催しています。下記のうち、「ユリ裁判」までは当ブログの下記記事をご参照ください。

ku-yuribunken.hatenablog.com

ku-yuribunken.hatenablog.com

 

◇2021年前期

・百合漫画大賞2021リレーレビュー

・GW鑑賞会企画 百合文化研究会・ゼロ年代研究会合同 『魔法少女まどか☆マギカ』鑑賞会

・私が選んだ百合作品大賞2021前期

・百合文研の百合文献検討会×2

・コミックFUZでこの作品は百合かどうか判定する会



 

◇2021年夏季休業

 

・8月夏休み鑑賞会企画 スタァライトされる会(座談会なし)

・9月夏休み合宿企画 謎合宿

・9月夏休み聖地巡礼企画 宝塚を見に行く会



 

◇2021年後期

 

・活動場所の整理

・『フラグタイム』鑑賞会

・『あさがおと加瀬さん』鑑賞会

文化の日鑑賞会企画『ユリ熊嵐』鑑賞会 

・拗らせろ! 百合妄想

・『京大漫トロピー会誌は百合か』ユリ裁判

・私達の選んだ1コマ大賞2021

・通常例会→20時から勃発した年末カラオケ忘年会

・百合スマス会

 

・CUE学入門

・劇場版にスタァライトされる会



 

◇2021年春季休業

 

・星野さん卒業記念企画『結城友奈は勇者である1期鑑賞会』

3月春休み鑑賞会企画『マリア様がみてる鑑賞会』


 

2022年前期

 

・紅萌祭 参戦

・新入生歓迎例会(含む百合文研入会テスト)

・GW鑑賞会企画 『桜(Trick)を見る会』

・推しカプについて語る会

・百合作品の表紙の魅力について考える会

・学振について意見交換する会

・百合ボドゲ

・プリパラプチ鑑賞会?

・会誌について考える会



 

◇2022年夏季休業

 

・9月夏休み鑑賞会企画『安達としまむら』鑑賞会

・9月夏休み聖地巡礼企画『安達としまむら聖地巡礼企画

 

 

 

◇2022年後期

・『水星の魔女』緊急座談会

・NF!!

・私達の選んだ1コマ大賞2022(開催予定)

 

 

 

活動の振り返り ~21年12月から22年11月祭まで~

①私達の選んだ1コマ大賞2021

 こちらは「百合文研の中で会員一人一人の今年1年の百合オタクライフを振り返る企画をしたい! 」という白雪の要望によって開催させていただいた企画。自分自身が今年1年を振り返る良い機会になったと共に、1コマや1節に凝縮された百合作品の重みなどについて考える機会になりました。詳しくはブログに各発表内容を載せているのでよろしければそちらも是非。なお、1コマ大賞2022も開催すべく準備を進めていたりします。

 

②忘年会(カラオケ)/百合スマス会

 私達のサークル、フツーのサークルっぽいこともしてるんです――ということで去年の12月には忘年会やクリスマス会のようなこともしました。カラオケで『星のダイアローグ』や『won(*3*)chu kissme』を大学生がみんなで合唱していた光景は、いま思い出してもカオス。反面百合スマス会はプレゼント交換と題した大布教大会が行われました。

 

③CUE!学入門

 2022年一発目の企画として行われた企画。2022年冬クールにテレビアニメ放送を控えた『CUE!』について、弊サークル所属にしてCUE!学非常勤講師のあるごん氏が90分にわたる濃密な講義を開催してくれました。

 

④劇場版にスタァライトされる会

 弊サークルの中で一番有名なイベントなんじゃないかと中の人は思ってるこの企画。その座談会をブログ記事に起こしたものは大反響を呼び、座談会記事をきっかけに弊サークルを知って入会してくれた1回生もいたそうです(なお本稿執筆者は未出席)。

 

 

⑤星野さん卒業企画『結城友奈は勇者である』1期鑑賞会

 百合文化研究会1期生唯一の卒業生にして勝手に百合文研のレジェンドだと執筆者が思っている星野さんの卒業を記念して、星野さん自身が一番思い入れの深い百合作品である『結城友奈は勇者である』の鑑賞会を開催してくれました。来年の春に巣立つ身として白雪も卒業企画として何をやるかを考え始めていたりします。

 

 

⑥3月春休み鑑賞会企画『マリア様がみてる』1期鑑賞会

 長期休みなら、ロックをやれじゃなくて鑑賞会をやれ、ということで3月には今日まで直接続く百合ブームの火付け役となった『マリア様がみてる』の鑑賞会が開かれました。参加者不足で日程が延期になるのトラブルにも見舞われましたが最後は充実した考察・座談会まで完遂し、ゼロ年代の百合の一端に触れることができました。初年度最後を締めくくるにふさわしい活動になったと思います。

 

 

⑦ビラロード・新入生歓迎例会

 京都大学では4月の入学式直前に各サークルが新入生勧誘ビラを一斉に配るイベントがあります。それがビラロード。去年はイベントもなければ正式に発足すらしてなかったのですが、2022年は私達のサークルもまっとうに新歓を、ということでこのような新入生勧誘イベントにも参加しました。当時無知すぎてビラに描かれたキャラすら知らずに白雪はビラを配っていたのはいい思い出。

 そしてそれと連動して4月いっぱいの通常例会は「新歓例会」と題して会員同士の自己紹介や弊サークルの説明に時間をとる特別な例会が開催されました。その中で何回かは2021年度1年間の百合文研の活動内容を基に「百合文化研究会入会非公式テスト」なるものを使わせていただきました。来年度版も作ってから卒業したいな。

 

 

⑧GW鑑賞会企画 桜(Trick)を見る会

 新歓イベントのオオトリにして毎年恒例(?)のGW鑑賞会企画として、今年はきらら作品きっての百合描写の濃密さで有名な『桜Trick』の鑑賞会を開きました。執筆者含め何回か見直した会員も多い中、改めて見直すことで百合作品全体の歴史の中での立ち位置など踏み込んだ点も考慮しながら鑑賞できました。また、各会員が初視聴時にどう感じたのかなどを聞けたのも面白かったです。

 

 

⑨推しカプについて語る会

 5月に2,3週にわたって開催されたそうです。結局白雪は一度も参加できなかったのですが熱量の籠もったプレゼン大会になったようです。

 

 

⑩百合作品の表紙の魅力について考える会

 前期に開催されたもう1つのプレゼン大会。だちさんの提案から。百合作品の表紙(ないしキービジュアル)について、その絵などからのみ読み取れる情報から予測される内容について語る、という一風変わった企画でした。こういった趣向も百合文研っぽい……?

 

 

⑪百合ボドゲ

 「ご注文はボドゲですかを買ったはいいけれど、ぼっちすぎて結局やる機会なかったんですよね」―――白雪のそんな言葉から開催してもらった、各人が百合にまつわるボードゲームを持ち寄って開催されたボードゲーム会。当日は百合の花だけでなく薔薇の花も咲いたようです。

 

 

⑫夏休み鑑賞会企画『安達としまむら』鑑賞会/夏休み聖地巡礼企画『安達としまむら聖地巡礼

 2021年度の「スタァライトされる会」及び「宝塚に行く会」をリスペクトした白雪の発案で開催させていただいた両企画。いずれも他の企画に比べると参加人数・規模ともに小ぶりでしたが、鑑賞会で事前に勉強した後に聖地巡礼に赴く流れは個人的にはなかなか良かったです。特に聖地巡礼では安達のバイト先のモデルになった中華料理屋でちゃっかり『安達としまむら』のコミカライズが置いてあるなどの発見があったり興味深かったです。

 また、必然的に長時間を参加者と共にしたことで私自身、通常の例会では見えてこない会員の皆さんの側面などを知ることができ、後期の活動に繋がりました。

 

 

⑬Liliology作成/11月祭当日/11月祭打ち上げ

 夏休み後半から後期の活動の中心は会誌作成及び11月祭準備が占めました。はじめてということもありめちゃくちゃ大変ではありましたが、作成の過程で会員同士が互いのことについてよく知れたのも事実。

 11月祭当日は100人近くの方が弊サークルのブースを訪れてくださり、百合文研外の百合愛好家の皆様とお話しする貴重な機会となりました。なにより百合文研の派閥の図が燃えなくてよかったね!

 そして11月祭翌日に行われた打ち上げカラオケでは10人近い大学生が『ふたりはプリキュア』のOPをみんなで熱唱するというカオスな一幕も……?

 

 

 

今後の活動と、展望

 ここまで前回の振り返りの後の1年間についてざっと振り返ってきました。前回の記事で目標とした会誌作成及び11月祭出店を達成した弊サークル。11月祭の反省会でも来年に向けた建設的な意見が続出し、来年以降も会誌作成及び11月祭出店は来年以降も活動の柱となるのではないかな、と思っています。また、今年のうちでも年末のコミックマーケットでも会誌を頒布することが決定してるため、年内の活動はその準備が中心になりそうです。

 

 と、まあ持続可能なサークル、と言うことについてはだいぶ明るい展望が見えてきているところだとは思いますが、なんの責任もない立場だからこその意見を1つだけ。それは、このサークルが会誌作成だけのサークルになって欲しくないな、という危惧。会誌作成が中心じゃない発足期から曲がりなりにもいたメンバーとして、(もちろん会誌作成や11月祭準備も楽しかったですが)、それ以外にも百合文化研究会では楽しかったイベント・勉強になったイベントが沢山あったことを改めて声を大にして言っておきたいのです。

 

 もちろん、ここ2年間の中で年中行事化しかけているイベントを全て残してほしいと言いたいわけじゃありません。年中行事化を目指したイベントは何が活動の柱となるかがわからなかったからの手探りの一面もあったので。というか年中行事がありすぎて遊びがないサークルもそれはそれであそびがなくて、つまらなくなりそう。

 

 だから、この記事の目的は来年以降もこの軌跡をなぞって欲しいということでは決してありません。来年、そしてそれ以降の運営代が「研究会らしさ」も残しつつより多様な活動をしていく、そのための1つの参考資料。そのようなものになればな、と思い今回筆をとりました。

 

 それでは最後に。来年以降の百合文化研究会がどうなるのかわかりませんが来年以降の更なる発展を祈念して筆をおきたいと思います。今後の京都大学百合文化研究会の行く末をこのブログを見てくださっている方・Twitterを見てくれている方も見守ってくださると幸いです。

 

 

【「水星の魔女」感想座談会①】

はじめに

 *本稿は10月5日の通常例会で突如発生した、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』1話感想を語り合う会を白雪が記憶だけを頼りに勝手に再現したものです。そんな雑な記事が10カ月ぶりの更新の記事でいいのか、と言われそうな気がしますが宜しければお読みいただけると幸いです。

 なお、本座談会は1話までのネタバレを多分に含みます。また、各会員の意見は当研究会の公式見解ではないのでその点にもご留意ください。

 

本編! の前に___参加者紹介

【白雪】水星から京都大学へやってきたため百合文化に対する知識が浅い。なおガンダムも今回が初視聴。

【無理】ガンダム歴は、初代、逆シャア、UC、ハサウェイ、ニジガク。

【月海】日常系百合を嗜む者。秋クールはDIY!!と新米錬金術師の馬連を購入。

【はた】今回の座談会唯一の京大漫トロピーからの刺客。百合の定義に厳しい。

 

 

前提___『機動戦士ガンダム 水星の魔女』とは?

A.S.122――数多の企業が宇宙へ進出し、巨大な経済圏を構築する時代。モビルスーツ産業最大手「ベネリットグループ」が運営する「アスティカシア高等専門学園」に、辺境の地・水星から一人の少女が編入してきた。名は、スレッタ・マーキュリー。無垢なる胸に鮮紅の光を灯し、少女は一歩ずつ、新たな世界を歩んでいく。(dアニメストア あらすじ欄(機動戦士ガンダム 水星の魔女 | アニメ動画見放題 | dアニメストア (docomo.ne.jp))から引用)

 

 日本のロボットアニメを代表するガンダムシリーズの最新作。1話放送直後からTwitter上でも「百合アニメ」としてのワードと共にトレンドに上がっていました。そんな作品を百合文化研究会の会員達はどのように見ているのか、それを次からお届けします。

 

 

はじめに ___「水星の魔女」は百合か

【白雪】Twitterのトレンドにも「百合アニメ」ってトレンドに上がってたし、まずはこれについてみんなの意見を聞きたいですね。

 

【はた】大々的に百合アニメって言われているのを見聞きしてから見た身としては、正直「言うほどか? 」って言う感想を抱いちゃったな。

 

【白雪】私も最後に決定的に「花婿」というキーワードが出てくるまでは、はたはたさんの意見に近いです。1話最後まで見たとしても「令和のガンダム」ひいては「20年代の百合」としては懐疑的です。

 

【無理】というと?

 

【白雪】他の所でも語るとは思うんですけど、映像作品における百合の展開を今のところ私は、ゼロ年代→美少女ゲー系統の百合と少女漫画由来の百合が結節し、百合ジャンルが見え始めるが、女性同士の関係性も「スール」「エトワール」「恋人」など名前の付いた関係性が多い/10年代→一言で言い表せない女性同士の関係性が多々見え始める「百合姫」作品のアニメ化も見え始め、許容性が増す/20年代→女の子同士でどんな関係になっていても自然なものとして捉えられ、それを特別な言葉で言い表す必要もなければ必要以上にクローズアップされなくても許容される、と整理していたので、そこからするとちょっとあてはめにくい作品なのかな、と。スレッタとミオリネの関係にも「花嫁」「花婿」っていう言葉が与えられちゃってるしね。令和の、20年代の女性同士の関係性としてはあまりに特別視しすぎじゃない? というのが正直あった。

 

【月海】良くも悪くもゼロ年代のラブコメとかにありそうな展開ではありますね。最悪の出会い、学園での決闘、などなど。

 

【無理】それはゼロ年代的っていうよりも、90年代の『少女革命ウテナ』を強く意識してるからじゃないかな、と。実際Twitterでも少女革命ウテナがトレンド入りしてましたし。「水星の魔女」のシリーズ構成の大河内一楼さんが『少女革命ウテナ』の小説版の執筆をしていたらしくて、それもあると思うんですけど。とにかく、それをこの現代においてガンダムでやるっていうのに意味があるんだと思います。その点で言うと「令和の百合アニメ」と言ってもいいと思う。

少女革命ウテナのキービジュアル。dアニメストアから引用。

 

【はた】なるほど。

 

【月海】まあでも僕はTwitterの動向を見る前に、ほとんど情報なしで見たから百合アニメとして期待値を段々と上げながら見ることができましたね。

 

【無理】僕は冒頭の「責任取ってよね」でもうキマっちゃいましたね。キービジュで百合だ!と決め打ちしてて、いざ見たら開始2分で百合になったので。

 

【はた】僕と白雪はTwitter上の反応を見てから視聴しちゃったからハードルが上がりすぎちゃったのかもね。世間の反響とか一切なく、百合アニメとして期待していない状態で見たとしたら自分も、「これは百合アニメになってくれるのでは……? 」と期待しながら見ていたかも。

 

 

スタッフについて

【白雪】まだ1話だから今後どうなるか、っていう思いはどうしても出てしまうけれど、スタッフ的に安心していい作品なんでしょうか? アニメーション制作のサンライズの子会社が作った分割2クールアニメ『境界戦機』がちょっと微妙な出来だったので。

 

【月海】あの作品は……。や、あれはもうガバガバなシナリオを笑いながら見る作品でしたからね。

 

【無理】さっきも指摘したシリーズ構成の大河内一楼さんは他に『コードギアス 反逆のルルーシュ』や『プリンセス・プリンシパル』、『SK∞ エスケーエイト』『アイの歌声を聴かせて』とかの脚本をやってる方なので大丈夫だと思いたい。

 

【月海】『SK∞ エスケーエイト』! それは信用できる。

 

【白雪】『境界戦機』ではバトルシーンで味方側のアメインが実剣で敵アメインを豆腐でも切るようにバッタバッタ切っていたけれど、そういう設定だとかメカニックの所はどうかね。

 

【無理】また『プリンセス・プリンシパル』ですけど、リサーチャーをやっていらっしゃった白土晴一さんが設定考証で参加してるんですよね。じゃあ世界観とかの部分も期待できるんじゃないか、と。

 

【白雪】確かに『プリンセス・プリンシパル』は(設定が)カッチリしてた印象があるからね。

 

 

ジャンルから見た「水星の魔女」

【白雪】あともう1つ、「特撮百合」っていうジャンルとの関係でも今回の作品は記念碑的になりそうだと思ってるんですよね。漫画だと『ヒーローと元女幹部さん』『ニチアサ以外はやってます! 』等々があると思うけれど、特撮を1つのメタとして描く作品のアニメ化は百合以外でも『怪人開発部の黒井津さん』『恋は世界征服のあとで』など、最近になってからだっていう肌感覚があって。

 

【無理】搭乗者は美少女ですけど、バトルシーンで戦っているのはかっこいいロボットである、という意味では「特撮百合的」っていうのは言えてると思いますね。『セーラームーン』や『アサルトリリィ』みたいな美少女バトルものじゃなく。というか、むしろロボットにしっかり寄せていかないと旧来のガンダムファンから完全にそっぽ向かれる気がします。

 

【はた】ただ、「水星の魔女」はまだ百合かどうか怪しいから……。

 

【白雪】確かにその判定は緩かったかもしれないですね。でも『ヒーローさんと元女幹部さん』も作者のそめちめ先生もあんまり百合を意識して書いてないって仰ってましたから特撮百合において百合の定義は緩くて許され……ないですかね。

『ヒーローさんと元女幹部さん』pixivコミックから引用

 

【はた】だから(『ヒーローさんと元女幹部さん』を)読むのを辞めちゃったんだよなぁ(苦笑)。

 

【無理】あと、ジャンルということだと男児向けに夕方(17時台)にやってるというのも大きいと思って。ウテナのくだりでも言及しましたけど、子供向け、しかもメインターゲットが男児の作品でこれをやっていくんだ、っていうのは重要ですよね。

 

【白雪】子供向けアニメで政治的メッセージの強い作品をやるのは少し危険かな、という気もしますがそれについてはどうでしょうか。たとえばプリキュアシリーズだとジェンダーに踏み込んで「男の子でもプリキュアになれる! 」というところまでやった『HUGっと! プリキュア』の人気が伸び悩んだって話も聞きますが。

 

【無理】ガンダムって3大特撮やプリキュアを卒業した年代の子が入る作品だと思うので、より受け入れやすいんじゃないかと思います。そのぐらいの歳なら百合も理解できると思うし、それが未来の百合オタクを発掘したり、もっと言えば今後の社会でジェンダーや多様性の問題を解決していくことにつながったりするといいのかな。

 

【はた】まあメインターゲットの男性児童視聴者は百合だって意識して見てなくて、あとから振り返ったら百合だった、と発見することになりそうですね。百合遍歴*1で何人かの人が指摘していた、「百合フィルターを獲得する前に出会っていた百合」として。

 

【白雪】百合の英才教育!

 

 

 

今後の展開についての期待

【月海】やっぱりスレッタとミオリネの関係性がどうなるかですよね。PROLOGUEの内容にはなるんですけど、スレッタとミオリネの関係って一悶着ないとおかしい因縁があるんですよね。宿敵関係みたいな。

 

【白雪】じゃあ2人が殺し合う展開もあると?

 

【無理】殺し合う関係って百合ですからねぇ。

 

【月海】ただスレッタはパイロットだけどミオリネはパイロットじゃないからなぁ。

 

【無理】(MSに)搭乗しないでとかもあり得るんじゃないですか? アムロとシャアも白兵戦したり生身で取っ組み合ったりしてましたし。

 

【はた】でも最後は一緒になって欲しいな。

 

【無理】形だけの関係ってところも今後どう動くのか楽しみですよね。「花嫁」「花婿」という形式だけがあって、その2人の距離は心理的にはまだまだある。トマトのシーンとかの、憎からず思ってるんだろうなという描写は1話時点でもありはしましたけど、前の相手だったグエルよりはマシ、っていう程度で接しているような印象でしたからね。それから、現状のスレッタは学園に来たのも母親に言われたから、と主体性がないので、自分の意志でミオリネに対してクソデカ感情を持ったら最高じゃないですか?

 

【月海】2クールあるから1クール終盤でどうオチを付けてくるのかにも期待が膨らむ。やっぱり何らかの引きを作ってくると思うけど。早く2クール目のキービジュが見たい。

 

【はた】まだ1話が終わった段階なのに?

 

【無理】あと、僕はエアリアル込みの百合が見たい。3人からがカップリング…… 

ガンダムエアリアル。『機動戦記ガンダム 水星の魔女』アニメ公式サイトから引用

【無理】百合の間に入るガンダムは新しすぎる。でもエアリアルってこれまでのガンダムシリーズでは類を見ないくらい自我がありそうな雰囲気(『ゆりかごの星』参照)なんですよね。だからワンチャン……?

 

【月海】話はズレますけど最後に一つ。本作って宇宙世紀シリーズじゃないからこの作品のために世界観を起こしてくれていて、政治方面の物語も大きく動かしてくれそうなんですよね。それと2人(ないし2人+MS1体)の関係性の変化をうまく関連付けて描いてくれると思うのでその視点からも今後見守っていきたいと思います。

 

 

 

終わりに

 このような感じで1話の座談会はおしまいとなりましたが、2話以降もこんな風に毎週話せるんじゃない? という意見も出たので、もしかしたら来週もこの記事の続きが更新されているかもしれません。

 また、百合文化研究会でHGエアリアルを組む会をやってみても面白いのではないかと言う話も出たので、その際はブログなりTwitterで状況を報告するかもしれません。ではでは、本稿が少しでも皆さんが「水星の魔女」、ひいては百合作品を楽しむ一助になったらいいな、と願いつつ、今週はこのくらいにしたいと思います。

 

*1:百合文研会誌の企画として会員1人1人の百合オタクとしての歴史を振り返った企画

【劇ス座談会🍅】私たちももう舞台の上

【だち】……これもう始まってるんですか?

【レニ】既に録音してます。

【いし】私たちはもう座談会の上!?

 

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参加者紹介

レニ【レニ】:自分を神楽ひかりだと思い込む一般大学院生。

146B【いし】:漫画とエロゲを摂取して生きている。

だち【だち】:今日はマリア様はみていないぞ。

あるごん【ある】:『CUE!』学非常勤講師。

上村なびあ【なび】:神絵師。スタァライトジャンキー。

YoT【よっ】:幽霊だったが最近実体を取り戻しつつある。

 

 

感想

【レニ】鑑賞会お疲れ様でした。初めに、皆さんの感想を聞いていきますか。

【いし】では言い出しっぺから。

【レニ】見るのは2回目なんですけど、アニメって何やってもいいんだなっていうのは、やっぱり思いました。『ユリ熊嵐』の時も同じこと言ったと思うんですけど。キリンが突然野菜になって燃えたりね。レヴューも、舞台装置っていう言い訳で何でもかんでも出してくるけど、世界観が構築されているから面白く見れる。そういうことを改めて思いました。内容については後で話すと思うんで、次の人にパスします。

 

【ある】映画を見るのは1回目で、直前にアニメをざっと履修しました。「何やってもいい」っていうのは本当にそうですね。スプラッタというか、R18Gじゃないかっていうくらいの描写を入れてきたり。一番最初のトマトもそうですよね。血液の入った袋みたいなもので。

【レニ】あれ劇場で見た時ビックリしたんよな。

【いし】一気に観客の興味を引いてくるよな。

【ある】ずっと引き込まれっぱなしでした。具体的には、部屋の寒さを忘れたぐらいです。

【いし】極寒だったもんね……。

 

【なび】僕は「ロンド・ロンド・ロンド」からハマって、この劇場版もリアルタイムで、確か12回ぐらい見たんですけど……。

【レニ】12回!?

【なび】「スタァライト」って、自分自身を新しい自分に生まれ変わらせる「再生産」というテーマが最初から一貫してるんですけど、今回の劇場版は「私たちはもう舞台の上」というように、新しい自分からさらに未来に向けて新しい選択肢を皆で決めて行くとか、時には戦いながら自分の進路を考えていこうっていうテーマで、自分とも重なって感激しました。「将来に悩んでいる人がこれを見て、背中を押される内容であれば」ということを、監督がコメントされていたんですけど、自分の将来とか進路に悩んでる人が見た時に感銘を受けるような映画だなと、実体験としても思いました。

【レニ】なるほど……後で議題にしたいですね。では次の方。

 

【よっ】自分はサークルの鑑賞会でアニメを見て、今回映画を見ました。公開された6月から最近まで、Twitter でずっと話題になり続けていて気になってたんですけど、今回見てみて、リアルタイムで劇場で観れなかったのが悔しく感じます。あの音響とか演出とかを、画面いっぱいに浴びたかったなって。

【レニ】劇場で見た人は分かってくれると思うんですけど、すごく楽しかったですよね。

【なび】「“劇場”でしか味わえない{歌劇}体験」って宣伝されてましたよね。

【レニ】音響と光とでトランス的なものを感じさせに来てるなって思いました。

 

【だち】自分は初めて見たんですけど、内容に関してはよく分からなかったので、百合的に見ようと努めました。

【レニ】是非聞かせてください。この人たち百合的な話全然しないから。

【いし】お前じゃい!

【だち】それぞれ2人ずつカップリングできるように、レヴューが2人ごとに行われるというか、公式もちょっと百合を狙ってるのかなとか感じながら見ていました。主人公の2人も……。

【なび】かれひかーっ!!

【いし】突然どうした。

【なび】推しなので……。

【だち】あと、そうすると「負けヒロイン」枠になるまひるちゃんの立場も面白いなとか思って。

【なび】いやいや、まひるは負けヒロインじゃないんですよ!

【レニ】じゃあこれも後でバトってもらいましょうか。

 

【レニ】じゃ最後146Bくん

【いし】見るのは3回目なんですけど、最初見た時は「舞台少女というのは舞台に立つ運命なんだ」というテーマだと思ってたんだけど、改めて見ると、常に前を向いていて未来への意志に満ちている作品だと気づきました。ようやく自分の解釈が固まった気がして、それに沿って各場面に意味が見出せたので、やっと納得のいく視聴ができたなって感じです。

 

 

舞台少女の進路選択

【いし】さっき進路の話が出ましたけど、どういう風に後押しされるかとか、どういう展開によってそれを感じたかっていうのありますか?

【なび】一番刺さったのは、星見純那ですね。アニメ本編から堅実な人間として描かれているので、最初は大学進学という、舞台も学業も両立させたいという意志表示をするんですけど、それは舞台少女という観点からみたら、つまり大場ななからみたら、覚悟ができていない。演劇をやりたいという意思があるのなら、遠回りせずに、ストレートに挑戦していけっていうわけですよね。それが「狩りのレヴュー」で、大場ななの挑発に対して純那は正面から立ち向かう。ここで意志の変化があって、最終的にはニューヨークに留学するっていう思い切った選択ができた。そういったところが、自分の心に響くところがあったと思います。

【いし】印象的ですよね。ずっと偉人の言葉を借りてたのが、「他人の言葉じゃダメなんだ、自分の言葉でないといけない!」って。あそこが一番意志を感じる。

【ある】アニメで過去に1回、ばななをそれで救っているっていうのもありますし。

【よっ】最後に純那の意志を引き出せたことで、ななもそれを眩しいと思えた。

【いし】ななはずっと再演を繰り返しているから、舞台少女に対する固定観念で凝り固まって、諦念を抱いていたと思う。でも純那が変わって、自分の再演も終わったんだ、っていうケリをつけられた。だから純那が自分の言葉で言うっていうのは、ななにとっても変化の象徴なんですよね。

【レニ】そういう意味では、他のレヴューもそうだなって思う。劇場版のレヴューって、別れの物語なんですよね。別れが必要なのは、今までのある意味共依存的な二者関係を断ち切って、自立した一人の舞台少女として自分の人生という舞台に挑まなければならないから。今までの関係を後腐れなく断ち切って、自律した個人同士の関わりに移行するための場なのかなって見ていました。

 

――――――――

 

【いし】でも、真矢クロの「魂のレヴュー」だけちょっと違う気がする。これからもライバルとして競い合っていくという結末で終わっている。

【なび】クロディーヌ側はライバルと思ってたけど、真矢は特に何も思ってなかった、それを互いにライバルとして認めさせるためのものだったのかなと。

【いし】あのレヴュー、クロディーヌは動物将棋の時点で後腐れなさそうなんですよね。でもレヴューが始まる。では何が駄目だったかというと、真矢の側が「私は空っぽだ」って諦めていたことなのかなと。レヴュー前、真矢にとってクロは「演じるべき役をやっている」だけであって、だから自分もそれによってあてがわれた役を演じているに過ぎないと言う。そういう意味合いで一歩引いて見ていた。でもクロに「お前には中身があるんだ」と突き付けられる。

【なび】役から卒業したってことですね。「ライバル役」から「ライバル」になった。美しいって言ったのはライバルとして認めたからなんですね。

【いし】いや、自分の解釈は違って。あれは『ファウスト』なんですよ。

【なび】というと?

【いし】ゲーテの『ファウスト』では、悪魔メフィストフェレスファウストに対して、欲望を叶えてやる、もし叶えられたらファウストの魂を頂く、という賭けを始める。その決着のセリフが「時よ止まれ、お前は実に美しいから」。これをファウストが言ったら賭けは成立で、悪魔はファウストの魂を得られる。これって、魂のレヴューと似てるんですよね。魂のレヴューも、最初に悪魔が出てきて舞台人と賭けを始める、それを閉じるのが「西條クロディーヌ、お前は実に美しい」というセリフ。かくして悪魔は魂を獲得する。

【なび】だから最後にクロは「このレヴューは私の勝ちね」って言う、と。

【いし】そう。あの悪魔の賭けってのはそういう話だと思う。ファウストってのは努力する人の象徴で、真矢も努力してあの位置にいる。それに対して悪魔が囁きかける。ファウストメフィストフェレスの関係を、ライバル的なものに当て嵌めて魂の名前を冠しているのかな。で、最終的に終わったあとに「私たちのこの賭けのやり取りはここで終わったけど、明日も明後日も」って。それはレヴュー前のクロのセリフにも回収される。「私たちはまた満足のいくレヴューをした。でも次がある。次もまた満足のいくレヴューをしよう。」っていう話。この話を通して、真矢は自分に中身があることを知って、お互いが強いライバルとして結びつく。でもそう考えると、この話はキャラクターたちが自立していく話ではないから、さっきの話と少しズレる。

【なび】あの2人はもとから自立しているのではないかと考えていて。自我と自我がぶつかりあってつながっている、お互いが強烈な個性を持っている。それで自立と共存が同時に成り立つような関係なのかな。

【いし】なるほど。対比的に表すなら、華恋はひかりがいなければトップスタァになれないけど、真矢とクロは一人でもトップスタァになれると思っている。その2人がぶつかりあって切磋琢磨していく。華恋が依存してトップスタァになろうとしてるのに対して、この2人は相互に影響しあって、「私が」トップスタァになろうとしているから、始まりから自立している。

【なび】それこそアニメ10話で、関係性の対比されるもの同士でレヴューをしていたよね。終盤の舞台装置というか。

【いし】他の舞台少女は共依存的な関係から自立していくけれど、この2人は始めから自立をしている。自立をしたうえで、ぶつかりあうことの気持ちよさが出ている。なるほど……。

【なび】だからオチの付け方が他の2人組とは違う。

【いし】なんで私はレヴューはこういう風な順番なのかピンと来てなかったんですけど、これが最後なのには納得がきました。4つある話のうち、前3つが自立する話。その応用編として4番目、最後にこのレヴューが来る。構成として嵌っている気がします。

 

【だち】何か難しい話しすぎじゃないですか? 百合の話しましょうよ百合の話!

【レニ】東京タワーの跡地にキマシタワーを建てよう!

【なび】どのカップリングが好きかって話をすればいいんですか?

【だち】じゃあレヴュー順でカップリングについてコメントしていきましょう。

 

 

カップリング百合語り

怨みのレヴュー:双葉&香子

【だち】キャラを論じる時、よく男性的/女性的っていう見方がされると思うんです。でもあの二人は、見た目が女性的な香子の方が世話をさせる側の男性的な行動をしていて、逆に男性的な双葉が世話するという女性的なことをしてるんですね。それが、双葉が自立したいって言い出して関係がこじれるのは、男性中心社会において女性も社会進出したいと思うようになり始めたことの反映だと思うんですよ。

【レニ】そういう話なのか?

【だち】カップリング的には、そこの倒錯が面白いと思ったりするんですよね。

【いし】あー。日本舞踊の香子の方がこき使う側で、逆に甲斐甲斐しく世話する双葉の方は殺陣が上手い。

【ある】あの二人最後、清水の舞台から飛び降りるんじゃなくて、落ちるじゃないですか。あれは何だったのかなって。

【レニ】清水の舞台から飛び降りるのと同義じゃないんですかね……?

【なび】皆レヴューで何かしら死ぬような体験を経て「再生産」を達成してますよね。あの2人にとってはそれが清水の舞台から落ちることだったのかなと。

【いし】香子が諦めたように先走って辞めようとしていたの双葉が止めるシーンだから、アニメ本編のスケールアップ版でもありますよね。

【なび】最後にちょっといいですか。本当にしょうもないことなんですけど、レヴューの最後に鍵を預けるじゃないですか。左手の薬指に嵌めてるんですよね……。

【ある】あぁーーーーー。

【いし】いいっすねえ~~~。

【よっ】さすが12回見ただけある……。

 

競演のレヴュー:ひかり&まひる

【レニ】まひるちゃんは負けヒロインじゃないって本当ですか?

【なび】負けて……ませんよ?

【だち】そうなんですか?

【なび】勝利条件は結びつくことじゃなくて、一人の独立した舞台女優になることなんですよ。最初華恋に依存していたのは、目指す目標がなかったから華恋に憧れていたからなんですけど、自分自身に魅力があることをから華恋から伝えられたことで、自立した女優であることを自覚して、そこからどんどん成長していった。どちらかというと勝ちの部類じゃないかと。

【レニ】競演のレヴュー好きなんですよね、サイケな雰囲気で。映画館で見た時はポリゴンショック狙ってんなって思いました。

【いし】なぜあそこでオリンピックなのか、いまだにピンと来てないんですよね。

【ある】最後に金メダルをかけるシーンが印象的ですよね。あれは華恋の隣にいるのはひかりだっていうのを認めた描写なんですかね。

【なび】どちらかと言うと、まひるはアニメ本編が終わった時点で既に保護者ポジションになってるんですよ。最初はひかりに対して敵対心を持っていたけど。

【よっ】「あ~たしほんとは大嫌いだったアナタガアナタガアナタガアナタガ……

【なび】まひる自身も「演技」って言ってたんですけど、感情を演技とするにはモデルとなる感情が必要なんですよ。それはアニメ本編の最初の、ひかりが華恋の元に現れて仲良くしてる嫉妬心で、それをモデルにして競演のレビューの「嫌いだった」っていう感情に持ってきたのかと。

【レニ】メソッド演技……「アクタージュ」かな?

【なび】まひるは大場ななと同じようなポジションなんですよね。舞台版でまひるとなながレヴューする時に、ひかりについて言葉を交わす場面があったりするんですけど、その辺で「皆たるんでるよね」みたいな共通認識というか、ある意味共犯関係のようなものを指摘してる人もいました。そういう所の共通性というか、関係性に深く入り込まない部分はあるのかなと思いました。

【いし】だからひかりに対して「お前何で逃げたんや」って詰めて、ひかりが「怖かった」って言った時に、「私も眩しかった」って言って共感して、「よく言えました」みたいな感じてメダルをかけたんですね。

【ある】ここでのひかりと華恋の位置って、昔の華恋とひかりのと同じですよね。互いが互いのことを直視するのが怖かったっていう関係になってる。

【いし】このシーンの直後にひかりって線路に立つんですよね。怖かったっていうことを受け入れられることで、舞台少女として目覚めるんですよね。

 

狩りのレビュー:純那&なな

【ある】じゅんなな……深いな。

【いし】百合として見るのが難しいですよね。ななは全体のお母さんみたいな超然とした立場にいるし、役者と裏方両方にいる。

【なび】ただ「役」としては、ななは純那に執着する存在として描かれているんですよね。「舞台監督」の大場ななは執着してないんですけど、「私も役に戻ろう」と言った時に、自分の死体の首を純那の方に向けるのは、アニメ本編で純那に執着していたことを意味している。星見純那という人間は、舞台人としてはレベルは高くないけど、その志に惹きつけられている、そういった意味では百合と言えるのかなと。

【だち】この二人はそもそも一人で完結させようとするタイプですよね。純那も他の人と遊びに行かず一人で努力してたし、ななも一人で戦い抜かないといけなかった。

【なび】確かに、どちらも自己完結性が高い。

【だち】だけど、「相手も変わっていないし自分も変わっていないから、自分もこれで大丈夫なんだ」っていう、自分の鏡として相手を見ていたんだと思う。ななはずっと再演を続けていたわけですけど、その時に一番近くにいたのは常に純那で、彼女が変わっていないことが再演を続けていられる目安だったし、だからこそ純那の変化がななの変化の契機になるわけですよね。お互いの変化にすぐ気付くし、相手が変わったら自分も変わらないといけないと思う。そう考えると、百合は成立すると思う。

【レニ】ユリ、承認!

【なび】純那とななって、育ちが似てて。他のキャラって、小学生の時から演劇やって、実績があって、親も支援してるみたいな、いわゆるエリートなんですよ。でも二人は、舞台経験が中学までほとんど無くて、親もあまり協力的でないっていう。だから、アニメでも皆帰省してるのに、二人は親に支援されてなかったから、帰省せずにずっとふたりでいた。そういう点でも通じ合っていたのかな。

【いし】そうなると逆に、純那とななの違いが際立ちますね。ななは才能だけでトップに上り詰められてしまう存在だったし、純那は努力してもきらめきに手が届かなかった。

【よっ】ななって何であんなに強いんでしょう。

【なび】一説によれば、環境が揃った時に最強になるけど環境が揃わないと弱いっていう。天堂真矢は常に最強だけど、大場ななは強い動機がない場合は弱くて、強い動機が生まれると最強になる。

【だち】じゃあ「皆殺しのレヴュー」は?

【なび】再演の果てに、このままだと皆なあなあのまま死せる舞台少女になることが分かっていたので、救わなきゃいけないっていう思いですよね。1回喝を入れて、君たちはもう舞台の上にいるのだから、死に物狂いで次の役を掴みにいけと。最後、ななの台詞に対して、真矢はそれが舞台であることを自覚して台詞を返したから殺されなかったけど、純那は「なにいうとんねん」って舞台の自覚がなかったから、殺された。

【レニ】そういうの見てると、説教されてる気分になるんですよね。「お前らは既に舞台の上だからいつでもちゃんとしとけ、自覚が足りない」って言われると、お前大学院生なんだから論文ぐらいいつでも読んどけよって言われてるみたいで。

【なび】正月もう2日目ですが?ってね。

【ある】「舞台」の前に「社会人の~」とか「研究者の~」とかつけたら、もうそれなんだよな。

【レニ】あと他人の言葉で語る純那がボコボコにされる場面もさ。僕はギデンズが好きだからよくギデンズの言葉で百合を語るんだけど、本当に自分の言葉で百合を語るとか、自分の言葉で論文の立論をするのって難しいんだよね。ギデンズの言葉を引用したり先行研究を引用したりするんじゃなくて、本当にお前の言いたいことって何やねん、ってことを問いかけられるような気がするんですよね。

【なび】星見純那は先行研究を並べることしかできないからね。

【レニ】そう。「レヴュー論文」を書くだけ。大場ななはちゃんと自分を持ってるから新規性のある研究ができる。んで、お前もちゃんと自分のやりたいことを見つけろよ、って言ってくる。

【なび】怖っ。

【いし】「純那ちゃん、昔は目をキラキラさせながら『こういう研究がしたい!』って言ってたのに……」

【レニ】やめてくれーー!!

【だち】ああ、ダメージを受けてる人が……。

【よっ】探せばありそう、そういう二次創作。

【いし】『大学院生レヴュースタァライト』!?

【なび】「修論のレヴュー」や!

【レニ】やはり俺は神楽ひかりだった……?

 

魂のレヴュー:真矢&クロディーヌ

【だち】さっき沢山話した気がするけど。

【いし】自立した人間で、ライバル。でもはっきりと百合として気持ち良くなれるの、あそこなんだよね。

【レニ】告白しながら戦ってるもんね。

【いし】「私にはあなたを!」

【ある】ポジションゼロの時、額をお互いが貫いてたと思うんですけど、額って相手を舞台少女としているというフレームなんですよね。舞台に立ってるお前が一番かっこいいんだっていう、巨大感情の塊ですよね。

【よっ】「舞台に立ってるお前が一番可愛い」って、舞台でしか語れないけれど、でも舞台だけではいけないっていうのが、「空っぽじゃいけない」っていうことですよね。欲望も感情もあって、それをひっくるめて、舞台に立ってるお前が一番可愛いっていう。

【ある】「私はいつだって可愛い!」

【いし】あの二人だけ純粋に感情をぶつけ合ってる。

【なび】端的に言えば「あなたのこと好き!」「私も好き!」ってずっと言ってるだけだからね。

 

最後のセリフ:華恋&ひかり

【いし】あれだけ「レヴュー」じゃなくて「セリフ」なんですよね。そしてそのセリフっていうのが「私もひかりに負けたくない」。

【なび】自分、呼び名が変わるのがツボな人間なので、突然呼び捨てになって発狂しちゃいまいたね。

【いし】物語は華恋の過去の回想、レヴューによる人間関係の整理が並行して描かれていくけど、それがあの場面で合流するんですよね。華恋はひかりにずっと依存してきたけど、あそこで変わる。

【なび】あれば「愛城華恋『役』」から「愛城華恋『自身』」になったんだ、という解釈もあります。愛城華恋「役」の時の呼び名が「ひかりちゃん」だったのが、「役」を止めてむきだしの愛城華恋になるときの呼び名が「ひかり」になったんじゃないかっていう。

【いし】ひかりとキリンが話してる時、キリンが「愛城華恋は役作りをしています」って言ってますよね。愛城華恋「役」になったからひかりの前に出てきた、と思ったんですけど。

【なび】回想が「役作り」だったんじゃないですかね。自分の人生を辿って、「私ってこういう人間だったんだ」っていうのを回想してくことで、「私はひかりちゃんを舞台とした愛城華恋なんだ」っていう役作りをして、愛城華恋「役」の愛城華恋として舞台に立った。それが一回死んで、自分が「役」であることを自覚し、再び刺されることで「愛城華恋」に戻った。

【いし】「愛城華恋役」っていうのは、常に神楽ひかりありきでやっていた、ということですよね。ひかりと一緒に舞台に立つことが全てだった愛城華恋が、自分を見つめ直してそうした自己の在り方を自覚し、ジェット噴射によって手紙ごと過去を燃やして、真の「愛城華恋」になる。

【なび】自分の立つ舞台が「スタァライト」じゃなくなっても、舞台女優としてひかりに負けたくないという動機でこれからは舞台に立つんだという意気込みで、これからの人生を歩んでいく。だから最後、オーディションの面接の場面で映画が終わる。

【レニ】なんか就活の自己分析みたいな話ですね。

 

――――――――

 

【だち】あの二人のレヴューっていうのは、他のレヴューの総決算でもあると思うんですよ。「ひかりちゃんが約束覚えてなかったらどうしよう」っていうのは双葉と香子の話ですよね。「ひかりちゃんが眩しかった」っていうのはまひるの話だし、約束に固執し続けるのはじゅんななっぽい。ライバルは真矢クロ。華恋の過去と今までのレヴューがリンクしてるから、華恋は何もない主人公から一人の自立した人間になれた。

【なび】それは華恋が「役」から卒業することで、全員が「役」から解放されて一人の人間として、舞台女優として生きていくということでもありますよね。最後、全員が肩掛けを外したように。

【いし】肩掛けを外したのはオーディションへの未練から解放されたという意味でもあるのかな。

【なび】確かに、香子が一番初めに外してました。

【レニ】オーディションだけじゃなくて、「レヴュースタァライト」という物語からの解放ですよ。「舞台少女の死」って、アニメが完結して作成世界が静止してしまうことでもあると思ってるんですよ。それを、次の舞台へ進む物語を描くことで、彼女達が「レヴュースタァライト」という物語が終わっても、物語世界の中で生き続けられるようにする。そのための劇場版だったのかな。

【なび】監督は、「あれは愛城華恋が人間になるための物語だ」と言ってた。本編だと華恋って、勢いはあるけど掘り下げがないんですよ。だから、彼女は一人の人間だということを示すために、彼女の人生を辿りながら、最後に「役」から卒業させて、一人の人間として旅立たせる。

【だち】なるほど。アニメだと華恋だけ反応が「素」なので違和感があったんですけど、今の話聞いて納得しました。

【なび】あれも「役」だったとも考えられますよ。子供の頃から「役」として生きてきた、と解釈してる人もいました。運命のチケットを交換した時から性格が変わったじゃないですか。昔の華恋の性格は今のひかりみたいに引っ込み思案。逆に昔のひかりは今の華恋みたいに、自分から引っ張っていく。それが、運命のチケットを交換した事から、「役」を交換したんじゃないかと。

【ある】なるほど。髪飾りも交換してましたしね。

【なび】その時に人格という「役」を変えて、最後に「役」から解放されて戻った、みたいな。

【いし】「入れ替わってるー?」

 

――――――――

 

【だち】あの二人、百合的に見ると「弱い」んですよね。あの二人の百合要素って、「二人で舞台に立とう、運命だよ」みたいなこと言うところだけじゃないですか?

【なび】ブルーレイディスクの特典、他のキャラは皆距離が近いんですよ。でも、僕はかれひか推しなのに、何かそれぞれ構えてるだけで。くっついてないやんこいつら!別の一枚絵やん!みたいな。

【いし】「失望しました。かれひかのファンやめます。」

【なび】多分公式からしても、あんまりベタつかせる関係じゃないのかな。

【だち】最初あれほど百合っぽいのに。

【レニ】やっぱ共依存関係を卒業して自立した人間にならなあかんねんな……。そもそもこの作品って百合的に見るのが難しくないですか?今まで一緒だったのが分かれて、別個の個人として生きていく物語、でもちょっと連絡は取り合ってる、みたいな。そういうのって、一般的な百合作品にはあまりない気がする。

【だち】そうか?

【なび】そういえば、ひかりと大場ななが何故か同棲してるっていう二次創作ありますよね。

【レニ】あー!あれ好きなんですよね。

【だち】な、なにそれは。

【なび】劇場版では全く何も言及されてないのに、ただ同じロンドンにいるってだけで、何故か二人が同棲してて、ひかりが取っ散らかすのをななが助ける、っていう、集団幻覚が生まれてるんですよ。

【よっ】集団幻覚なんですか?わりと見るんですけど!?

【なび】全員同じ認識を共有してて、話が何故か通じちゃうんですよ。公式何もいってないのに。

【だち】でも「皆に会って来た?」って言ってたし、それくらいには近い関係なんじゃないですかね。

【よっ】「聖翔でも2人1部屋システムだったし、同じ場所にいたらそらルームシェアくらいするやろ!」みたいな。

【レニ】それだけで集団幻覚生み出すオタクの想像力、こわい。

 

 

血、トマト、キリン。

 

【レニ】キリンとかトマトが何なのかを考えたくて。アニメからですけど、この作品ってすごく「見る/見られる」関係に自覚的ですよね。劇場版ではその点に関連して、キリンとトマトが鍵になっていると思うんですよ。劇場版では、キリンが野菜として描かれるじゃないですか。

【なび】あれはアルチンボルドの作品のオマージュじゃないんですかね?

【レニ】そうなんですけど。トマトは血肉、舞台少女の成長の象徴であることと、野菜キリンが「私はあなた達の糧である」と言っていることが繋がりそうで。キリンはアニメの時から観客として描かれていましたけど、それが舞台少女の糧であるというのは要するに、舞台少女が可視的であること、客体化されることが舞台少女を強くする、っていうことで。

【なび】周りの認知があって舞台少女は初めて成り立つ、みたいな。

【レニ】で、キリンが野菜であることを考えると、トマトは「客体化されることが舞台少女の成長に繋がる」ということの象徴であり、舞台少女がトマトを齧るのは、そのことを受け入れたことの象徴なのかな、なんてことを考えています。

【いし】なるほど……。「皆殺しのレヴュー」の血は甘いらしいからトマトジュースだ、って前ブログで書いてたと思うんですけど、あれは観客の視線を浴びていることでもある、みたいな。

【よっ】トマトジュースという視線を浴びているから「お前は舞台の上なんだ」っていう。

【よっ】愛城華恋も、観客のまなざしを自覚して、初めてむきだしの愛城華恋になりますね。

【ある】そういえばトマトって、渇きを癒す果実ですよね。ずっと砂漠が描かれてましたし。

【レニ】確かに。

【なび】渇望の象徴でもありそうですね。皆トマトを齧って次の舞台を渇望した。華恋だけ齧らずに勝手に爆発した。

 

 

【だち】キリンの呼び出しは、要するに観客が呼んでるからということですよね。観客が望んだからこのように続きがあるんだ、っていう。

【レニ】観客というのはつまり我々視聴者で、我々が推しにお金を貢ぐから経済が回るんですね。つまりキリンが燃えたのは……?

【よっ】我々が推しにとっての燃料なんだから、そりゃ燃えるよね。

【いし】良い話だ。

【レニ】推しにお金を落として、舞台少女の人生が続いていく……。

【なび】WinWinじゃん。

【よっ】でも物語の続きを描くためにはレヴューくらいやんないとだよね、っていうことなんですかね。お前らが見たいって言うからこの子達はレヴューさせられるんだよ、お前たちのせいで、って。

【だち】自分たちが経済を回している限りこの子達は舞台から降りられないんだ……。

【よっ】お前らが望まなければアニメのままで終わってたんだけどね、みたいな。

 

 

BIG BANANA IS WATCHING YOU

 

【レニ】一番最後のオーディションの場面なんですけど、あそこだけ華恋を後ろから撮るっていう一人称的な視点になってて、キャプションで「本日、今、この時」って出てくる。視聴者である我々と画面の中の愛城華恋が重ねられてるんですよ。あそこだけ、視聴者と舞台少女の「見る/見られる」関係が変わっている。

【いし】あの場面、かなりグッときた。さっきも言ったように自分はこの作品を「未来への意志に満ちている作品」だと思ってるんですけど、それが「お前は未来に向けて頑張るために、今この場に立っているんだ!」ってダイレクトに伝わるのが、最後の「本日、今、この時」。

【なび】愛城華恋を通して、我々視聴者に対しても語りかけるメッセージなんですね。

【レニ】だから「お前らも過去を清算せんかい!」っていう。

【なび】厳しすぎる。変形する電車に乗せられてしまう。

【レニ】自分はやっぱり「お前、見てる側だと思ってるけど、お前らも舞台少女と変わらんのやで」ってことだと思っちゃうんですよね。舞台少女がつねにすでに舞台少女でいるように、お前らもいつも舞台少女のように生きろ、っていうメッセージ。

【いし】「私たちは舞台少女」って歌詞の「私たち」には我々も含まれていた……?

【レニ】せやで。「しゃんと背筋を伸ばして」生きていかなあかんねん。

【よっ】俺たちも舞台少女だったのか。

【レニ】でも普通に考えて、舞台少女のように生きるの、辛いと思うんですよね。「女の子の幸せを全て捨てて……」みたいな。あと、舞台少女として生きようとすればするほど、大卒正規雇用という安定したレールからは外れていくわけで。「好きなことして生きていく」ことが出来る人間は一握りなんですよ。大学院生もさ、修士から博士に進むと、社会的には逸脱していく。

【だち】個人的な怨念が……。

【レニ】そういうことを考えると、「お前らも舞台少女になれよ!」みたいなの、腹立ちません?人の人生だと思ってよォ……。多分、あの9人以外のクラスの20人くらいは、限界大学院生みたいな人生を送ってるよ。

【よっ】レヴューに巻き込まれなかった人たちの人生を考えてるんだったら見せて欲しいというのは確かにある。愛城華恋だって巻き込まれなければどうなってたか分からないし。

【レニ】「それでも自分を貫いて大学院に行こう!」って話ですよ、スタァライトは。

【なび】大場ななが出てきますよ。

【だち】なあなあで大学院に行くと、大場ななが出てくる。

【レニ】やばいよ!殺されちゃうよ!

【よっ】でもなあなあで就活を選んでも大場ななが出てくるのでは?

【レニ】逃れられない!?

【いし】いつもあなたの心に大場なな。

【なび】BIG BANANA IS WATCHING YOU….

【レニ】BIG BANANAに切腹を迫られながら生きていくか……。

「私達の選んだ1コマ」大賞2021②

それぞれの会員の「私の選んだ1コマ」2021

 前回の続きです。早速本編行きましょう。①は以下のリンクから。

「私の選んだ1コマ」大賞2021① - 京都大学百合文化研究会の研究ノート

星野の選んだ「1コマ」:『結城友奈は勇者である -大満開の章-』

 

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 金髪の少女・乃木園子が黒髪の少女・東郷美森に語り掛けるシーン。

「いいねぇ焚火。うちでもやろっかな」
「怒られるわよ……」
「わっしーに怒られなれてるから平気だよー」
「私、そんなに怒ってる……?」
「『わっしー』時代はね。でもそこが、わっしーがわっしーたるゆえんなんだよ」


作品解説
 『結城友奈は勇者である』はStudio5組によるオリジナルテレビアニメ。四国以外は滅びた世界で、「神樹様」と呼ばれる存在から力を与えられて”勇者”となった5+1人の少女達が、人類を襲い来るバーテックスという異形の怪物と戦う日々を描く作品である。

 

状況説明
 このコマが登場する『大満開の章』は第3期だが、時系列的には第1期の戦いの後。ようやく取り戻した平和な日常を描いた1話終盤、勇者部一同でキャンプに来た早朝、2人きりで話すシーン。

 2年前——東郷美森が『鷲尾須美』という名前だった頃、小学生だった2人はもう1人の仲間、三ノ輪銀と共に勇者として戦いを身に投じていた。戦いの結末は完全な敗北———須美は記憶喪失と下半身不随、園子は全身不随、そして銀は戦死———というものだった。1期の途中で図らずも2人は再会し、そして今度は1人の犠牲者も出さずに戦いを終えることができた。お調子者の「そのっち」と委員長気質の「わっしー」、小学生時代を思い出すような上記のやり取りの後、2人はこんな会話を始める。

「今の友達、いいね」
「うん」
「みんなが居て良かった。こうやってまた会うことができた」

「……ミノさんには会ってる?」
「……」
「私もね、まだ行けてないんだ」

 『ズッ友』だと誓い合った記憶さえ失っていた東郷は、自責の念から銀の墓参りにも行けないでいたことを園子に吐露する。「どんな顔をして会いに行ったらいいのか」それは園子も同じだった。2人は生き残ったのか、生き残ってしまったのか。この気持ちにどう向き合うべきか? 答えは出ないまま、夜が明けていく。

「私たちは、3人で勇者だった———」

 

解説
 恋愛と戦闘を扱う作品は多い。恋と戦いは人間の生き方と死に方を鮮烈なまでに露わにするからだ。百合的文脈でもそれは同じであり、いわゆる「美少女バトルもの」というジャンルは、戦いと日常の描写の相補性によりキャラ同士の関係性が浮き彫りになりやすい。この様式で最も有名なのは『魔法少女まどかマギカ』だろう。『ゆゆゆ』もこの様式に則っている。

 個人的なこのシーンのテーマは「2人でしか共有できない思い」。他の4人が戦うようになった1期で戦死者は出ていないため、戦いが命のやり取りであることを知っているのはこの2人しかいない。勇者部内でこの2人だけが唯一あだ名で呼び合っている点も含め、2人の特別な関係性———”百合”を体現した1コマだということができる。
 このシーンだけ2人の口調や声色が小学生時代のそれに戻っている点にも注目。

 

追記:
 東郷美森=鷲尾須美の立ち位置は非情に興味深い。

 2年前の戦いによって記憶と歩行機能を失った彼女は、その間に『大親友』こと本作の主人公:結城友奈と出会い、何も知らないまま再び戦いに身を投じている。世界さえ天秤にかけた激重な2人の関係性は1期2期共に大きくクローズアップされている。現にアイキャッチが入った後は、『友奈ちゃん』をカメラで激写しまくる『東郷さん』が見られる。

 勇者部に途中で加入した園子だが、その関係に割って入ろうとすることはない。嫉妬もしない。友奈を「ゆーゆ」と呼び、他のメンバーとも仲が良く、面白おかしく日常を過ごしている。非日常においても最強の勇者として振る舞い、常に冷静で、激高したり取り乱すこともない。
 そんな園子だが、その内面はいかに……?
 こんな妄想が捗るという意味でも、この2人の関係は非常に興味深いものがある。

 

他の会員のコメント

ゆゆゆ、鑑賞したことがないのでさっぱりわからなかったんですが、この話を聞くとキャラクターたちが背負う業の深さ、それにより際立つ感情。グッと来ますね(146B)

 

ゆゆゆ、ぼんやりとどんな内容の話かは知っていたのですがまさかこんな深い内容があるとは…いまゆゆゆ観たい欲が高まってきています。(周回積分)

 

ゆゆゆ2期まで履修した勢としては考察も非常に興味深かったのですが、何より1コマで描かれている園子と美森の特別な話ができる関係を、星野さんと百合文研の出会い・百合の話ができる特別な関係も重ね合わせながら話されていて、まごうことない星野さんにとっての2021年印象に残ったコマなんだな、と会長でもないのに感激してしまいました。(白雪)

 

ゆゆゆを見る会の機運が高まっている(レニ)

 

 

もりしの選んだ「1コマ」:『今日はまだフツーになれない』

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U-temoによる『ゆりひめ@pixive』で連載された漫画作品「今日はまだフツーになれない」から選びました。

 

《作品内容紹介》

かわいいものが大好きなフリーター・高橋(猫耳髪)(高3~27歳)と、マイペースだけど繊細な漫画家・山下(ふわふわボブ)(高橋と同い年)。高校生活の終盤、就職も進学も志望しなかった二人は進路希望調査で居残りになって以来、何となく一緒にいる。

進学、就職、結婚…

人生でたびたび遭遇する世の中の「フツー」に悩みながらも、なんだかんだ前向きに生きていく。はぐれ者女子二人の、ゆるっと心に染みる、ちょうどいい関係が描かれた作品。

 

《コマの内容紹介》

今までは互いの家が近かったこともあり、高橋に会いに行くことがフツーだった山下。しかし、高橋が遠くに引っ越したことにより、

“このままやったら 会いに行かんくなるのがフツーになりそうや”

と山下は悟ってしまう。そこで山下は高橋の家に引っ越そうと考え、そのことを高橋に伝える。高橋がその理由を訊くと、

「高橋とおるのを 私のフツーにしたいから」

その後少し会話が交わされ、高橋の『あはは、なんか今日ロマンチックやな』という科白を遮り、

「高橋のフツーに 私はいらん?」

即答で、『要る』

 

《選んだ理由》

迷いもなく躊躇いもなく即答なのが素晴らしい。その即答が2人の関係の強固な特別さを表している。また、たった2文字の短い言葉で端的なのも素晴らしい。高橋にとって山下はかけがえのない存在であること、同様に山下にとっても高橋がそういう存在であることがハッキリと伝わってくる。相思の特別な関係に長い言葉は要らない。その短い言葉が持つ重みをお互いが理解できる。そんな短い一言で答えられることなんてリアルではなかなかない。2人の関係性・百合の尊さを直接的に訴えかけてくる1コマとして今回は選んだ。あと、あくまで個人的見解だが、2人の間に恋愛感情は無いと思うし、高橋にとって山下が“要る”のは、恋愛感情が理由ではないと思う。また、勿論利益のためでもない。もし仮に恋や利益といった目的の上で“要る”とか“一緒にいたい”とか言っていたのであれば、自分(もりし)はこのコマを選ばなかったと思う。

 

《その他、作品全体への思いなど》

この作品は、京大漫トロピーさんの会誌を輪読した際に知った。タイトルの第一印象からネガティブな暗めの作品かと思ったが、全然そんなことはなくて、世の中の“フツー”にもやもやしながらも、2人で自分らしく一生懸命生きていく姿と、その2人のちょど良い関係性がしっかり丁寧に描かれていた。その姿・関係に終始感動し、憧憬の念を抱き、自分の今まで(特に高校時代)を振り返りながら読んだ。今後自分の生き方・考え方を見つめる際にはこの作品を思い出すだろうな…ってくらい素晴らしい作品に出逢えて本当に嬉しい。そんな機会を与えてくださった百合文研さん、漫トロさんには感謝しかないです。

 

他の会員のコメント

このままダラダラして離れてしまうくらいなら同棲するという勢いも、それを真正面から受け止める関係性……2人一緒にいることが彼女たちの「フツー」になっていく。フツーになれなくても自分たちのフツーを見つけていこうという精神、好きですわ(146B)

 

このすぐに答えるシーン、2人の関係性がよく出ていてすごく良い…(周回積分)

 

私の推薦した安達の長々とした台詞と対極にあるこのシーン。ここまで露骨なのはなかなかないけれど、台詞の長さって関係性が色濃く出てるよね。(白雪)

 

この次のページの「これからは一緒におりたいから一緒におる」をツイートの宣伝で使った。この企画でも持ってこようかと思ったが、すれすれのカブリ回避ができてよかった(レニ)

 

 

もりしの選んだ「1コマ」:『今日はまだフツーになれない』

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また「今日はまだフツーになれない」から1コマ持ってきました。これはちゃんと1コマです。

 

《コマの内容紹介》

空気を読むのが苦手で、学校やバイト先で「空気読んで!」とよく言われ、その度にモヤモヤしていた山下。

「(空気なんて)どこに書かれてる……?」「やっぱり書いてないもんは読まれへん」

そのことを高橋に相談し、同時に

「今高橋にこの話をして この空間がどういう空気なんかも分からん」

ということも告げる。

『んー…山下の代わりに 今どういう空気かあたしが読んだるわ』

「え!? うん!」

 

『あたしとおる時は 空気読もうとせんでいいよって空気』

 

(ちなみにその後『あたしも読まれへんから 小説 返していい?読んでたら眠くなんねん』と言って、山下から借りていた本を山下に返す。)

 

《選んだ理由》

分け隔てなく接することのできる関係って素敵だなぁと思う。山下にとって高橋は、空気を読まなくていいという心地好さや、ありのままでいていいよと認めてくれる安心感を感じられるたった一人の存在であり、その唯一無二さに萌えた。さっきも書いたように、2人の関係性に恋や利益といった“要求”“期待”は描かれておらず、互いに互いがありのままであることを認めていることに一読者の自分すら心地好さを感じた。勿論、同性の恋愛感情をしっかり描いた作品も自分は好きだが、恋愛無しの女女の関係も百合の1つの形だろうし、心地好く読めて良い。好き。

また、山下は空気読むのが苦手な一方、高橋は空気を読むのが得意(というか読んでしまうらしい)なので、その対比に萌えたし、足りないところを補うという関係性も特別さがなしうる関係性ではないかと感じた。

あと百合関係ないけど本の「読む」と空気の「読む」が掛けている表現、「空気が書かれていない」という表現もかなり印象的だった。

 

《その他、作品への思いなど》

今回選んだ2つの場面だけなく、この作品は全体的に素晴らしかった。一見ネガティブに思えるタイトルも最終的にポジティブに回収されるのが予想外で面白かったしエモかった。また、登場人物の科白や行動、考え方には何度もハッとさせられたり、共感させられたりした。あと余談なんですが、自分の高校時代、性格や趣味、言動や考え方が高橋そっくりの同性の友達がいました。自分が分け隔てなく接することのできる数少ない友達の1人だったのですが疎遠になってしまったので、また会いたいなぁなんて感傷に浸りながら読みました(自分語り失礼しました)。今(2021年12月現在)のところ1巻完結なのがホント残念。続きを…続きを…。

 

他の会員のコメント

空気なんて書いてないからわかんない、そう言われるとそういう人もいるんだなって思うけど、この返しはできない、そういう相手もなかなかいない。だが、彼女たちの関係性はそういうのを恥ずかしげもなく言えてしまうようなもの。この2人のこういう距離感は眺めていて心地良い。(146B)

 

というか高橋いちいちかっこよすぎん?(白雪)

 

高橋イケメンやなぁ…(周回積分)

 

 

あるごんの選んだ「1コマ」:『CUE!(キュー!)』

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 『CUE!』は、新しい声優事務所「AiRBLUE(エールブルー)」に集う16人の声優のタマゴが、それぞれの夢を目指す物語である。2019年10月にスマートフォン向けアプリとして公開され、私も同年11月からプレイしていた。しかし、システム改善と昨今の情勢を理由として2021年4月にサービスを停止してしまい、再開の目処が立っていない。

 その一方で、TVアニメが来期・2022年冬アニメとして放送される。放送に先立って公開されたPVのうち、例会の2日前(!)に公開されたものの1コマを選んだ。ソースがPVなので場面説明は実際と異なる可能性があることをご了承いただきたい。

六石陽菜(左・赤い服の子)と鷹取舞花(中央手前・緑色の服の子)の所属するAiRBLUEのチーム「Flower」が、声優として初めての収録に臨む場面だろうか。陽菜(なんだかドキドキする……)と緊張を覚えたその時に、舞花陽菜の手をとり、「緊張してるのは、陽菜だけじゃないよ」と緊張を分かち合う――というシーンである。このセリフの声が非常に印象的で、緊張による震えや硬さを含みながらも、とても優しい声を使おうとしているように思える。実際に、普段の芯の通った声とも比べてみてほしい。

youtu.be

 (該当シーンは0:41から。一番分かりやすい部分を「1コマ」とした。)

 この場面は、アプリ『CUE!』で描かれていた、価値観と時間を共有する二人の原点と捉えられる。お気に入りの喫茶店やオススメ曲のシェアから、お互いのペット/弟妹の世話の手伝いに至るまで、あらゆる物事と時間を共有した関係性が鮮やかに思い起こされた。この二人の関係性をきっかけに百合好きを自覚し百合文研へ入った私が、砂漠でオアシスでも見つけたかの如く歓喜に打ち震えたシーンであった。

 残念なのは、先述の関係性が今や検証不可能なことだ。サービスが停止している現在、アプリ版の内容を参照するのは不可能である。しかし、だからこそ、TVアニメを見る際、前提知識は無くて良い。まずは、夢への険しい道を歩み始めた16人の新人声優が描く物語に触れてもらいたい。色とりどりの個性が交わりすれ違う中に、広義の百合を感じ取ってほしい。

他の会員のコメント

声優さんの話だけあって、この1コマとっても声の演技に注目した解説は聞いてて興味深かったです。(白雪)

 

『CUE!』のアニメ、楽しみですね。楽曲では『マイサスティナー』が好きです。Flowersは『One More Step!』を歌ってるユニットですね。あれめっちゃ好き。今回の話を聞くと、キャラクターたちのストーリーによって歌詞に新しい意味が付けれました。アニメで開示される物語も楽しみですね(146B)

 

声優さんの出てくるものって、表の演技と裏の顔の二面性が面白くて百合とも相性が良いのでアニメがとても楽しみですね。(周回積分)

 

 

だちの選んだ「1コマ」:『彼女とカメラと彼女の季節』

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【作品紹介】

『彼女とカメラと彼女の季節』は、2012~2014年にかけて発売された漫画。高校三年生のあかり、ユキ、凛太郎の3人の関係を描く。

主人公の1人、ユキはカメラを趣味としており、タイトルにも入っているように作品内で重要な要素として使われる。

【場面説明】

あかりがカメラの勉強のために東京に行ったユキを追いかけて合流した夜に、ユキから凛太郎に振られたことを聞いた後のシーン。あかりはユキをベッドに寝かせてカメラのタイマーをセットし、2人の写真を撮る。

【詳細説明】

 本作には、あかり→ユキ、凛太郎→あかり、ユキ→凛太郎という3つの「好き」があり、この時点で、凛太郎、ユキの「好き」が終わり、あかりはようやくユキを手に入れられると思っている。しかし、このシーンではユキのあかりへの気持ちはまだ不透明で、2人の関係はまだ完成には至っていない。それでもこのコマが一番好きなのは、この作品におけるカメラの要素が2人とともにきれいに収まっているからである。

 本作の3人の関係性はかなり複雑で、「好き」の矢印以外にも、ユキと凛太郎は幼馴染みだったり、あかりと凛太郎はユキに頼まれて一時的に「恋人ごっこ」を演じたりする。その絡み合った関係や3人の人となりを映し出すのがカメラというアイテムである。シャッターの中では誰も逃げることはできず、隠している心も写り込んでしまう。このシーンは、「近づいたと思ってもすぐに逃げられてしまう」「全然つかみどころのない」ユキをようやくあかりが捕まえ、自分の物にしようとする場面で、そんなカメラの特性があかりの心情の演出に一役買っている。

 また、カメラはあかりとユキ、2人の関係の象徴でもある。あかりは高校三年生の春にカメラを持ったユキに一目惚れし、仲良くなったあとはカメラについて教わるなど、2人の関係はカメラで繋がっている。そういうわけで、このシーンが作品のテーマと2人の関係を同時に最も良く写すシーンなのである。

【蛇足】

この漫画には男(凛太郎)が登場する。これについて少し言及する。先に述べた通り、凛太郎と2人の間の「好き」は破綻してしまう。凛太郎はあかりのことを高校一年生の頃から好きであったが、あかりのユキへの「好き」を知っているためにあかりの心の中までは入れなかった。また、凛太郎はユキを幼馴染み以上の存在として見ることはできず、ユキからの告白を断る。それに対し、あかりとユキの間にはカメラ仲間という比較的薄いつながり(凛太郎はカメラの使い手ではない)と、お互いへの感情に由来する衝動くらいしかなく、逆説的に2人の関係が成就する話になっている。その他にも3人の関係は複数の視点から描写されるが、どの視点においても、「男が出てきてかき回す百合」ではなく、あくまで「それぞれの「好き」の結果として女女関係が勝つ話」となっていて、男が出てくる百合が嫌いな人にも一度は読んでもらいたい話である。

 

他の会員のコメント

男女の関係性を通過してこそ示される女同士の強い関係性というのもあると思うんですよ!そういうのを通過してしまったら、もう純ではないというのは違うと思うんすよ(146B)

 

今回のカメラで撮っている演出のコマとか台詞の長さとか光の当たり方とか、「コマ」であるからこそ多彩な表現があり、そういうものも含めたものが印象の残る「コマ」なんだな、って思いました。(白雪)

 

基本的に百合に男が出てくると拒絶反応が出るのですが、このお話の場合はきちんと男女の関係をうまく組み込めていていますね…読んでみようと思います。(周回積分)

 

 

ミッチェンの選んだ「1コマ」:『紡ぐ乙女と大正の月』

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『紡ぐ乙女と大正の月』はちうねによる、『まんがタイムきららキャラット』にて2019年から連載されている作品。物語としては令和を生きる女子高生の主人公・藤川紡が突如大正時代に飛ばされ、治安維持部隊に不審人物として捕まりそうになったところをお嬢様・末延唯月に拾われ、大正時代に女子校生として生活する日々を描いた作品。タイムスリップものという側面はもとより、本研究会第1回の対面例会でも言及された日本における百合文化の走りともいえる”エス”という少女同士の関係を真正面から取り上げている部分も特徴的である。

 

 同居することで実の家族のような関係になっていった紡と唯月だったが、そんな2人の前に唯月と因縁のある一条雪佳が現れる。雪佳は唯月を困らせるために、紡に対しエス(強い絆で結びついた特別な女子同士の関係)を結ぶことを求めてくる。今回選んだのは、雪佳に積極的に関わろうとする紡に対して唯月が寂しそうな姿を見せるシーン。シリーズ最大級のシリアスな修羅場の前兆でもある。

 

この話では紡が雪佳に猛アタック、雪佳が少しづつ心を開いてゆく様子が1話いっぱいかけて展開されていた。それだけに、見開きの左端4コマ目に配置された暗く複雑な唯月の表情は対照的で、読んでいた私の印象に深く残った。普段は高貴な立場らしくおっとりした態度を崩さない唯月はこのような暗い表情を滅多に人に見せない。

 

唯月の尋常でない感情の複雑さが、4コマ漫画であることを生かした技術によって最高の密度で表出しているこの1コマはまさに「私の選んだ1コマ」に相応しいと考えた。

 

(余談だが、旭がいかなる時でも唯月のことを第一に気遣っていること、「おバカさん」という物言いから読み取れる友達思いな所、といった旭の良さが凝縮されているシーンでもある。)

 

他の会員のコメント

大正時代というだけで 醸しだされる雰囲気、好きんですよね……それに百合が重ねれて……最高ですわね(146B)

 

4コマって大ゴマ使えないし、背景を書き込むことも難しい。その中でも、この1年で1番印象に残った1コマとして4コマの1コマが選ばれるって、よっぽどその文脈も含めた作品が完成されてるんだな、って圧倒されました。(白雪)

 

実はチェックしてなかった作品だが、エスの遺伝子を感じて非常に興味深い。読まないと……(レニ)

 

百合姫の表紙然り、この作品然り、大正×現代って百合と相性良いのでしょうか…(周回積分)

 

 

簡単なまとめ

 以上、9人の会員による、アニメ・小説・漫画という実に多様なメディアから選ばれた12コマの紹介でした。

 

 出発点としての流行語大賞から、一応出席した会員の中で投票を行わせていただき、全コマ拮抗の末、

 

 会長のレニさんの推薦した『夢の国から目覚めても』の1節

 星野さんの推薦した『結城友奈は勇者である -大満開の章-』の1コマ

 

が、2021年版の、百合文研としての「私達で選んだ1コマ」ということになりました。今回選ばれたコマは来年度の百合文化研究会の活動にひょっとしたら再び顔を出すかもしれないので、皆さんも気にしてみてくださいね。

 

 ただ、「優劣をつけるものではない」というある会員の方のおっしゃった通り、今回紹介されたどのシーンも、印象的でした。王道的な百合も押さえた周回積分さんの「1コマ」・大ゴマを生かした迫力ある146Bさんの「1コマ」もあれば、4コマの1コマというごくわずかなスペースに無限の可能性を感じさせるミッチェンさんの「1コマ」もあり、それぞれ違う形で心に訴えかけてきました。

 

 同時に、2021年の中で一番印象に残った、というコンセプトの下、今回の紹介だけでも百合文化研究会での1年を所々振り返れました。星野さんの話で示唆された百合文研第1回の対面例会での、百合というジャンルをどこまでも語りあえる皆さんとの出会いを私も思い出させていただきました。だちさんの推薦のように、上半期に読んで一番良かった百合漫画を紹介し合う会で紹介された作品から今回も発表してくれる方もいました。その一方で、最近行った京大漫トロピーさんの会誌輪読で勧められていた作品から「1コマ」を選ばれたアクティブなもりしさんのような方や、ここ数回の例会で連続して「CUE!」に対する熱い思いをぶれずに語ってくれるあるごんさんのお話も楽しかったです。このような多様な会員がそれぞれの見方を共有する、そのような百合文化研究会の多様性もまた、レニさんの紹介してくれた「1コマ」に通じるような百合そのものに通じ、より深い百合文化研究につながるのかもしれませんね。

 

 と、まあ少し感傷に浸ってしまいましたが、京都大学百合文化研究会は別にこれが最終回でもなんでもなくて、2022年にも新たな仲間を加えてより広く・より深く百合に迫っていくことだと思います。そんな2022年にますます発展する百合文化研究会に思いをはせつつ、今回は筆をおくことにします。協力していただいた会員の皆さん、そしてここまで読んでくださった読者の皆さん、本当にありがとうございました。

「私の選んだ1コマ」大賞2021①

 

 

白雪:「私達の選んだ1コマ大賞を開催します!」

一同:「???」

 

 そんな私、白雪の一方的な思い付きから開催した「私達の選んだ1コマ」大賞。

 

 大賞ということでTwitterでも告知があった通り、最終的には百合文研全体としての大賞を決めたのですが、どの会員が推薦した1コマ・1シーンもいずれも興味深く、また、会員の熱い愛を共有することができました。今回の記事ではその一端をお伝えしたいと思います。この記事で少しでも会員の強く推すシーンに共感していただければ幸いです。

 

 なお、今回は1記事でそれぞれ担当が分かれている初?の共同執筆記事なので文体が部分ごとに異なるのはご留意ください。

 

 

「私達の選んだ1コマ」大賞とは?

 本編に入る前にまず今回の概要について簡単にご説明しましょう。企画者の白雪の出発点としてネット流行語大賞みたいなのを百合文研内で行いたいという思いがありました。そして、漫画読みサークルが前身となっているサークルであるから、流行「語」よりも印象に残った「1コマ」に注目する企画に落ち着きました。

 

 1コマといっても、媒体は漫画に限らず、百合作品の一部ならそのメディアはアニメでも小説でも良い、として会員から「私の選んだ1コマ」を募りました。そのようにすることによってアニメ・ライトノベルなど媒体も複数のものが紹介されるという嬉しい誤算もありました。異なる媒体ごとの違う良さという点も気にしながら、会員たちの推した「1コマ」「1シーン」を楽しんでいただければ幸いです。

 

 

 

 

それぞれの会員の「私の選んだ1コマ」2021

 さて、能書きはこれくらいにしてそれぞれの会員に熱い推しコマ・推しシーンを語ってもらいましょう。

 

 

レニの選んだ「1コマ」:『夢の国から目覚めても』

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 主人公はレズビアンヘテロの女性二人。百合サークルの同人活動を2人で行っていて、レズビアンの女性はヘテロの女性に恋愛感情を抱いている。しかしヘテロの方は百合をあくまで創作物だと捉え、同人活動を行う中でも百合を現実から切り離すような発言を彼女の前でしてしまっていた。しかし、ある時にヘテロの女性は相方への自分の恋愛感情を知り、これまでの百合に対する自身の言動が、彼女を知らぬ間に傷つけてしまっていたのではないか、と罪悪感を抱く。写真のシーンはその直後。

 ここでは、様々な人が互いに対する無関心を装いながら密集している電車の車内という環境と、百合というジャンルの在り様が重ね合されている。百合だって、異なるバックボーンの人たちが、それぞれ百合というジャンルに対する考え方や態度を持ちながら、しかし「百合」というその一点において同じ方向を向いている。それは時に、(シスヘテロ男性の自分もそうであるように)自分の性的指向という立場性を絶対化してしまったり、同好の士のエコーチェンバーの中で閉じてしまったりする中で、異なる他者が見えなくなってしまう。それは私達百合文研だってそう。しかし、異なることは悪いことじゃない。

 自分も、これを読む前は『ゆるゆり』みたいな日常系百合作品を軽く見ていたところがあったけど、作中でヘテロの女性が「日常系の中では現実と違って、女の子が女の子であるだけで肯定されているんだ、だから好きなんだ」と言っていて、自分とは異なる他者の考え方に気づいた。それはフィクションの中だけじゃない。違う夢を描きながら同じ電車に揺られていても、どのような価値観だってあっていいんだ、そしてそれが百合の神髄なのではないかということに気づいた。

 ただ、この作品は面白かったけれど、本当に心に響く作品って高火力で読み返せないんだよね。一読してからほとんど本を開いてない。泣いちゃうから。

 

他の会員からのコメント

さすが会長。トップバッターながら、百合の本質に対する見方も示唆するものすごい一場面を紹介してくれました。私の推薦場面の立場がw(白雪)

 

会長から借りて私も読んだとき、ストーリーそのものの良さと訴えかけるテーマに胸を打たれました。百合というジャンルが包み込む範囲の大きさ、あるいは定義の曖昧さによって包み込まれる数々を思うと、それはある種の救いのようにすら思えますね。(146B)

 

 百合の本質に迫るとても興味深いシーンでとても考えさせられますね。この作品で会長の『ゆるゆり』に対する見方が変わってよかったです、僕はもうしばらくこのサークルに居ることが出来そうですね。(周回積分)

 

 

周回積分の選んだ「1コマ」:『2DK、Gペン、目覚まし時計。 』

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 例会当日の講義中に読んでいたら「これめっちゃいい!」となって急遽入れたものです。講義中に大声が出ました(オンラインだったので助かった)。

 芸大に通う2人の女の子のお話。黒髪の葵が金髪のかえでのことを好きになる。葵はかえでを他の人にとられたくないから勢いで同棲まで漕ぎつける。しかし男と女ではなく女同士だからこそ物理的にこれ以上ないくらい近づくことはできても、女同士だからこそ内面的には”友達”という関係以上に踏み込むことができないジレンマを、寝顔を見ながら感じるシーン。そんなもどかしさが同性同士だからこその関係性ではないか。

(誤解がないように書いておくとこの2人は物語のメイン2人ではありません。)

 

 

他の会員からのコメント

この作品の特徴として同棲にこぎつけてるというのがあって、その最大の物理的な接近が寝室だと思って、そのようなコマを選んでくるところに周回君のセンスを感じたな。(白雪)

 

社会人百合の中でもトップクラスの良作。たとえ学校の外側に飛び出ても、測りかねる距離感は変わらない(146B)

 

 

周回積分の選んだ「1コマ」:『ロンリーガールに逆らえない』

 

 

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 黒髪の彩花は大学の推薦を受ける条件として不登校の少女・空の更生を教師から命じられる。学校に連れてくることには成功したものの、教師との取引がばれてしまい、彩花は空にキスなど色々なことを「お願い」してくる。最初は大学推薦を得るためだけのために付き合っていた彩花だが、だんだんその気持ちが変わってくる。

 そんな中、空が引っ越すことになる。選んだシーンは空が引っ越すために空港に来たシーン。追いかけてきた彩花はここではじめて「お願い」ではなく自分の意志で相手に接吻をする。

 

 最初は好意を一方的に受け、それに付き合っていただけだった少女が自分の気持ちの変化を受け入れ、自分から主体的に相手を求めるように変化したことが変わったことを象徴する1コマということで印象深い。

 

 

他の会員からのコメント

前の作品もそうだけどそのものズバリ百合っていう1コマを抜き出してくれたな、っていう印象。ストレートで読んでみたくなった。(白雪)

 

迫られるだけじゃない!迫ってけ!(146B)

 

王道。というか他の人々がひねり過ぎているのか?(レニ)

 

 

白雪の選んだ「1コマ」:『おちこぼれフルーツタルト』

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 ちょっとぶりです。再びの白雪の登場です。私からは『まんがタイムきららキャラット』で連載されている浜弓場双の『おちこぼれフルーツタルト』4巻からの1コマを紹介させていただきます。この作品は田舎から上京してきた主人公・桜衣乃が所属する芸能事務所の寮の他のメンバーとともにアイドルユニットを組み、寮存続のためにお金を稼いでいく、といったところから始まるアイドルものです。と、いっても、話はシリアスというよりもギャグ・下ネタ多めで面白く読める作品になっています。2020年秋クールにアニメ化もしています。

 

 そして私が選んだ「1コマ」は写真の下半分なのですが、このシーンでは本人たちも下ネタ脳のため不健全なイメージになっている主人公グループをどうやったら改善できるか、と考えているところでの1コマです。

 

 察しの良い方はお気づきかもしれませんが、このコマで言及されている「10代の女の子がジャンプすると世界が平和になるでしょうが!」というのは、この作品自体も系列作品となるきらら作品のアニメによくみられる、いわゆる「きららジャンプ」のことを示唆していると考えられます。これはただのメタ発言としてギャグとして片づけることもできるのですが、私はこれを最初に見た時、面白いと思うと同時に、感動してしまいました。その理由は、作中でTシャツの女性(ホホ)は主人公達にただ「きららアニメ」ではよくジャンプをするからジャンプをすると言っているのではなく、ジャンプをするということで世界が「平和」になるから、ジャンプという行為を通じて主人公たちのイメージ健全化を図ろうとしているのです。この「平和になる」という表現は「きらら作品」の本質をついていると私は考えます。女の子同士のまったりとした関係を描くことで一人一人の心の中を平和にし、最終的には世界平和のきっかけともなりうる。そんな可能性を秘めているのが「きらら作品」に代表される日常百合作品であり、その象徴として、きららアニメでよくみられる”ジャンプ”という動作で代表されているのです。『おちこぼれフルーツタルト』もその系譜を、外形的にも魂的にも継いでいる作品だと明言されたことに私は感動したのです。

 

 しかし、ジャンプという動作が「きらら作品」を表す表現と社会的に認知されていながら、近年ではOPでジャンプをするきららアニメは近年減っています。2020年は5作品ほどきららアニメが放送されたと記憶していますが、OPにきららジャンプを盛り込んだのは秋クールの『おちこぼれフルーツタルト』の1作品だけで、その前は2年前の秋クールに放送された『アニマエール』までさかのぼることになります。そのような、半ば消えかけているきららアニメのテンプレをしっかりと行うことによって、『おちこぼれフルーツタルト』はアニメも「きらら」に求められる本質を確認したと考えることができるのです。アニメを視聴していた際、私は原作のこのコマに出会っていませんでしたが、第1話でOP映像を見た時に本能的に泣いてしまったことを今でも覚えています。私が泣いた理由、それは『おちこぼれフルーツタルト』に”私達が求めている日常系百合”を感じたからだと思います。

 

 それを今年になって改めて感じさせ、また、『おちこぼれフルーツタルト』の根底に流れる使命感を感じさせてくれたこのコマは間違いなく私が今年であった中で一番印象深い「1コマ」の1つです。

 

他の会員からのコメント

きらららしさと下ネタの汚さで殴ってけ!みたいな作品。きらら作品でモザイクをこんなに見る日が来るとは……そういえば最近きららジャンプ見てませんね。ちょっと悲しい……そういう思いがあると、このコマは少し嬉しいですね(146B)

 

きらら作品は今まで何いも考えずに読んできたので、1コマでここまで含蓄があるとは思いませんでした…女の子たち、たくさんジャンプしてくれ!(周回積分)

 

 

白雪の選んだ「1コマ」:『安達としまむら

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 またお前かい!って言葉が聞こえてきそうですが、欲張りなんでもう1つだけ紹介させていただきます。今度は電撃文庫より刊行されている入間人間によるライトノベル安達としまむら』5巻からです。『安達としまむら』のあらすじや作品概要自体は私の執筆でこのブログ内でも紹介しているのでこちらを参照していただければと思います。

ku-yuribunken.hatenablog.com

 さて、今回私が選んだ「1コマ」は実は画像で挿入した部分ではありません!夏休み。安達はしまむらと一緒にお祭りに行こうと誘おうと考えますが、なかなか勇気を出して誘えずにいました。そんな中でお祭りの日はアルバイト先の出店する出店のシフトを入れられてしまいます。一方、しまむらは幼い頃の幼馴染から、一緒にお祭りに行くことを誘われ、承諾します。そして、お祭りでアルバイトする安達がしまむら達を見かけてしまって……というところに続くシーンの一節が私の選んだもう1つの「1コマ」です。

 

 (恋愛的な意味で)大好きなしまむらが他の女と一緒にいるところを目撃してしまった安達が落ち着いていられるわけもありませんよね。安達はパニックに陥って、お祭りの時に一緒にいた人は誰なのかしまむらに電話に問い詰めてしまいます。否、問い詰めるというよりも感情がとめどなく流れてしまった、という表現が正しいでしょうか。ライトノベルに換算して4ページを超える安達の一方的な電話が続きます。このシーンが私の選んだシーンです。4ページの間、安達は自分の変なことを自覚しながらも、自分の弱さ・しまむらが一緒にいてくれない不安・しまむらに自分を1番にしてほしい旨など、これまで散りばめられてきた、でもしまむらには直接伝えられなかったことが明示されます。上記の記事でも簡単に触れたかとは思いますが、本作は心理描写が丁寧で、安達パートも繊細に描かれているのですが、ここはより直接的で、安達の弱さ、安達の一途な思いがそのまま書かれていて、物理的な文字量も合わせて訴えかけてきます。

 

 この台詞が印象深いのは、普段の安達とのギャップというのもあるでしょう。お祭りに誘うのも含めて、安達は口下手だからしまむらに要求を伝えられなかった。そんな安達の暴走。そんな弱さだからこその、決してかっこいいわけじゃない言葉のダムの決壊。それは、安達がそもそもしまむらを気になった理由―――人付き合いが苦手で、ひょうひょうとしているしまむらだから受け入れてもらいたくなったというところにもつながると思います。そうであるから、嫉妬であっても、ヤンデレみたいではなく、一緒にいた女性に対する恨み言というよりもむしろ、まっすぐなしまむらに対する要求で4ページが貫き通されているので、嫌味に感じずに純粋に応援したくなる、共感したくなるんですよね。

 

 そう考えていくと安達の精神年齢・感じている恋愛感情は歳不相応な幼いものなのかもしれません。でも、だからこそ、根源的な”好き”について考えるきっかけになるのでしょうか。少なくとも私は「好きとは何なのか」ということを探しながら全ての百合作品に接しさせていただいています。そういう自分にとって、「好き」の正体の片鱗を垣間見せてくれたこの1コマは今年であった中で忘れられない1コマです。

 

 

他の会員からのコメント

ぱっとこのシーンだけ見せられると電波に見えた。ヤンデレっぽい魅力に溢れているシーンなので、あだしまを読むモチベが生まれた。このシーンをノベルゲームで再現しようとすると、ノンストップでテキストが流れていくのだろう……捲し立てるようなセリフ特有の存在感に圧倒される(146B)

 

こんな長くてクソデカ感情が出てる文章でも冗長に思えないのは流石入間先生という感じですね…やはり女の子のクソデカ感情が出てるシーンは良い。(周回積分)

 

 

146Bの選んだ1コマ:『君と知らない夏になる』

 

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コミック百合姫』の新連載。就活に苦戦している就活生とそれを見ているだけしかできない女子大学生(これからインターン)の2人が、就活から、社会から逃避する作品。最初、髪が短い女の子の方が成功をまったく掴めずに磨り減っていくのを髪の長い方の女の子が励ますのだが、響かない。「嫌ならさ…就活やめたらいいじゃん」……「ほんとにやめるからね!!この先どうなっても」就活に使う用紙の数々を空に放り投げる。こうして2人の逃避が始まる。

選んだ1コマはそんな逃避の途中で、長い方の子がインターンの応募用紙などを海に投げ捨ているシーン。大ゴマで四方八方に舞う履歴書・ESの躍動感・船の上というのが社会からの脱出・逃避をこれまでかというレベルで象徴している。逃避百合の中の逃避百合と言える。

 『またぞろ』や『今日はまだフツーになれない』といった作品は、社会に適応しきれなくとも上手く折り合いをつけている話。『ふたりエスケープ』はその場しのぎの逃避を描く。そういった作品と比べると、かなり直接的な逃避に走っているのが特徴。

 

私も講義で使う資料とかを下宿のベランダから投げ出して何もかもから逃げたいです。そもそも講義に出てすらいないので資料なんて貰ってないし、最近はオンラインでしか資料を配付してくれませんが。

 

百合姫新連載の中でも期待値が高い一作なので、単行本化したら是非……

 

他の会員のコメント

(社会に対して病んでる)146Bが言うと説得力が違う。(レニ)

 

インターン全落ち、面接落ちって思いっきりワイやん。ワイも百合恋愛したい。(白雪)

 

就職したくないなぁ…D進して限界まで逃避したい…(周回積分)

 

 

休憩!

 会員の熱い思いをつづっていたらとても1記事で収まりませんでしたね。続きは②で迫っていきたいと思います。