それぞれの会員の「私の選んだ1コマ」2021
前回の続きです。早速本編行きましょう。①は以下のリンクから。
「私の選んだ1コマ」大賞2021① - 京都大学百合文化研究会の研究ノート
星野の選んだ「1コマ」:『結城友奈は勇者である -大満開の章-』
金髪の少女・乃木園子が黒髪の少女・東郷美森に語り掛けるシーン。
「いいねぇ焚火。うちでもやろっかな」
「怒られるわよ……」
「わっしーに怒られなれてるから平気だよー」
「私、そんなに怒ってる……?」
「『わっしー』時代はね。でもそこが、わっしーがわっしーたるゆえんなんだよ」
作品解説
『結城友奈は勇者である』はStudio5組によるオリジナルテレビアニメ。四国以外は滅びた世界で、「神樹様」と呼ばれる存在から力を与えられて”勇者”となった5+1人の少女達が、人類を襲い来るバーテックスという異形の怪物と戦う日々を描く作品である。
状況説明
このコマが登場する『大満開の章』は第3期だが、時系列的には第1期の戦いの後。ようやく取り戻した平和な日常を描いた1話終盤、勇者部一同でキャンプに来た早朝、2人きりで話すシーン。
2年前——東郷美森が『鷲尾須美』という名前だった頃、小学生だった2人はもう1人の仲間、三ノ輪銀と共に勇者として戦いを身に投じていた。戦いの結末は完全な敗北———須美は記憶喪失と下半身不随、園子は全身不随、そして銀は戦死———というものだった。1期の途中で図らずも2人は再会し、そして今度は1人の犠牲者も出さずに戦いを終えることができた。お調子者の「そのっち」と委員長気質の「わっしー」、小学生時代を思い出すような上記のやり取りの後、2人はこんな会話を始める。
「今の友達、いいね」
「うん」
「みんなが居て良かった。こうやってまた会うことができた」
「……ミノさんには会ってる?」
「……」
「私もね、まだ行けてないんだ」
『ズッ友』だと誓い合った記憶さえ失っていた東郷は、自責の念から銀の墓参りにも行けないでいたことを園子に吐露する。「どんな顔をして会いに行ったらいいのか」それは園子も同じだった。2人は生き残ったのか、生き残ってしまったのか。この気持ちにどう向き合うべきか? 答えは出ないまま、夜が明けていく。
「私たちは、3人で勇者だった———」
解説
恋愛と戦闘を扱う作品は多い。恋と戦いは人間の生き方と死に方を鮮烈なまでに露わにするからだ。百合的文脈でもそれは同じであり、いわゆる「美少女バトルもの」というジャンルは、戦いと日常の描写の相補性によりキャラ同士の関係性が浮き彫りになりやすい。この様式で最も有名なのは『魔法少女まどかマギカ』だろう。『ゆゆゆ』もこの様式に則っている。
個人的なこのシーンのテーマは「2人でしか共有できない思い」。他の4人が戦うようになった1期で戦死者は出ていないため、戦いが命のやり取りであることを知っているのはこの2人しかいない。勇者部内でこの2人だけが唯一あだ名で呼び合っている点も含め、2人の特別な関係性———”百合”を体現した1コマだということができる。
このシーンだけ2人の口調や声色が小学生時代のそれに戻っている点にも注目。
追記:
東郷美森=鷲尾須美の立ち位置は非情に興味深い。
2年前の戦いによって記憶と歩行機能を失った彼女は、その間に『大親友』こと本作の主人公:結城友奈と出会い、何も知らないまま再び戦いに身を投じている。世界さえ天秤にかけた激重な2人の関係性は1期2期共に大きくクローズアップされている。現にアイキャッチが入った後は、『友奈ちゃん』をカメラで激写しまくる『東郷さん』が見られる。
勇者部に途中で加入した園子だが、その関係に割って入ろうとすることはない。嫉妬もしない。友奈を「ゆーゆ」と呼び、他のメンバーとも仲が良く、面白おかしく日常を過ごしている。非日常においても最強の勇者として振る舞い、常に冷静で、激高したり取り乱すこともない。
そんな園子だが、その内面はいかに……?
こんな妄想が捗るという意味でも、この2人の関係は非常に興味深いものがある。
他の会員のコメント
ゆゆゆ、鑑賞したことがないのでさっぱりわからなかったんですが、この話を聞くとキャラクターたちが背負う業の深さ、それにより際立つ感情。グッと来ますね(146B)
ゆゆゆ、ぼんやりとどんな内容の話かは知っていたのですがまさかこんな深い内容があるとは…いまゆゆゆ観たい欲が高まってきています。(周回積分)
ゆゆゆ2期まで履修した勢としては考察も非常に興味深かったのですが、何より1コマで描かれている園子と美森の特別な話ができる関係を、星野さんと百合文研の出会い・百合の話ができる特別な関係も重ね合わせながら話されていて、まごうことない星野さんにとっての2021年印象に残ったコマなんだな、と会長でもないのに感激してしまいました。(白雪)
ゆゆゆを見る会の機運が高まっている(レニ)
もりしの選んだ「1コマ」:『今日はまだフツーになれない』
U-temoによる『ゆりひめ@pixive』で連載された漫画作品「今日はまだフツーになれない」から選びました。
《作品内容紹介》
かわいいものが大好きなフリーター・高橋(猫耳髪)(高3~27歳)と、マイペースだけど繊細な漫画家・山下(ふわふわボブ)(高橋と同い年)。高校生活の終盤、就職も進学も志望しなかった二人は進路希望調査で居残りになって以来、何となく一緒にいる。
進学、就職、結婚…
人生でたびたび遭遇する世の中の「フツー」に悩みながらも、なんだかんだ前向きに生きていく。はぐれ者女子二人の、ゆるっと心に染みる、ちょうどいい関係が描かれた作品。
《コマの内容紹介》
今までは互いの家が近かったこともあり、高橋に会いに行くことがフツーだった山下。しかし、高橋が遠くに引っ越したことにより、
“このままやったら 会いに行かんくなるのがフツーになりそうや”
と山下は悟ってしまう。そこで山下は高橋の家に引っ越そうと考え、そのことを高橋に伝える。高橋がその理由を訊くと、
「高橋とおるのを 私のフツーにしたいから」
その後少し会話が交わされ、高橋の『あはは、なんか今日ロマンチックやな』という科白を遮り、
「高橋のフツーに 私はいらん?」
即答で、『要る』
《選んだ理由》
迷いもなく躊躇いもなく即答なのが素晴らしい。その即答が2人の関係の強固な特別さを表している。また、たった2文字の短い言葉で端的なのも素晴らしい。高橋にとって山下はかけがえのない存在であること、同様に山下にとっても高橋がそういう存在であることがハッキリと伝わってくる。相思の特別な関係に長い言葉は要らない。その短い言葉が持つ重みをお互いが理解できる。そんな短い一言で答えられることなんてリアルではなかなかない。2人の関係性・百合の尊さを直接的に訴えかけてくる1コマとして今回は選んだ。あと、あくまで個人的見解だが、2人の間に恋愛感情は無いと思うし、高橋にとって山下が“要る”のは、恋愛感情が理由ではないと思う。また、勿論利益のためでもない。もし仮に恋や利益といった目的の上で“要る”とか“一緒にいたい”とか言っていたのであれば、自分(もりし)はこのコマを選ばなかったと思う。
《その他、作品全体への思いなど》
この作品は、京大漫トロピーさんの会誌を輪読した際に知った。タイトルの第一印象からネガティブな暗めの作品かと思ったが、全然そんなことはなくて、世の中の“フツー”にもやもやしながらも、2人で自分らしく一生懸命生きていく姿と、その2人のちょど良い関係性がしっかり丁寧に描かれていた。その姿・関係に終始感動し、憧憬の念を抱き、自分の今まで(特に高校時代)を振り返りながら読んだ。今後自分の生き方・考え方を見つめる際にはこの作品を思い出すだろうな…ってくらい素晴らしい作品に出逢えて本当に嬉しい。そんな機会を与えてくださった百合文研さん、漫トロさんには感謝しかないです。
他の会員のコメント
このままダラダラして離れてしまうくらいなら同棲するという勢いも、それを真正面から受け止める関係性……2人一緒にいることが彼女たちの「フツー」になっていく。フツーになれなくても自分たちのフツーを見つけていこうという精神、好きですわ(146B)
このすぐに答えるシーン、2人の関係性がよく出ていてすごく良い…(周回積分)
私の推薦した安達の長々とした台詞と対極にあるこのシーン。ここまで露骨なのはなかなかないけれど、台詞の長さって関係性が色濃く出てるよね。(白雪)
この次のページの「これからは一緒におりたいから一緒におる」をツイートの宣伝で使った。この企画でも持ってこようかと思ったが、すれすれのカブリ回避ができてよかった(レニ)
もりしの選んだ「1コマ」:『今日はまだフツーになれない』
また「今日はまだフツーになれない」から1コマ持ってきました。これはちゃんと1コマです。
《コマの内容紹介》
空気を読むのが苦手で、学校やバイト先で「空気読んで!」とよく言われ、その度にモヤモヤしていた山下。
「(空気なんて)どこに書かれてる……?」「やっぱり書いてないもんは読まれへん」
そのことを高橋に相談し、同時に
「今高橋にこの話をして この空間がどういう空気なんかも分からん」
ということも告げる。
『んー…山下の代わりに 今どういう空気かあたしが読んだるわ』
「え!? うん!」
『あたしとおる時は 空気読もうとせんでいいよって空気』
(ちなみにその後『あたしも読まれへんから 小説 返していい?読んでたら眠くなんねん』と言って、山下から借りていた本を山下に返す。)
《選んだ理由》
分け隔てなく接することのできる関係って素敵だなぁと思う。山下にとって高橋は、空気を読まなくていいという心地好さや、ありのままでいていいよと認めてくれる安心感を感じられるたった一人の存在であり、その唯一無二さに萌えた。さっきも書いたように、2人の関係性に恋や利益といった“要求”“期待”は描かれておらず、互いに互いがありのままであることを認めていることに一読者の自分すら心地好さを感じた。勿論、同性の恋愛感情をしっかり描いた作品も自分は好きだが、恋愛無しの女女の関係も百合の1つの形だろうし、心地好く読めて良い。好き。
また、山下は空気読むのが苦手な一方、高橋は空気を読むのが得意(というか読んでしまうらしい)なので、その対比に萌えたし、足りないところを補うという関係性も特別さがなしうる関係性ではないかと感じた。
あと百合関係ないけど本の「読む」と空気の「読む」が掛けている表現、「空気が書かれていない」という表現もかなり印象的だった。
《その他、作品への思いなど》
今回選んだ2つの場面だけなく、この作品は全体的に素晴らしかった。一見ネガティブに思えるタイトルも最終的にポジティブに回収されるのが予想外で面白かったしエモかった。また、登場人物の科白や行動、考え方には何度もハッとさせられたり、共感させられたりした。あと余談なんですが、自分の高校時代、性格や趣味、言動や考え方が高橋そっくりの同性の友達がいました。自分が分け隔てなく接することのできる数少ない友達の1人だったのですが疎遠になってしまったので、また会いたいなぁなんて感傷に浸りながら読みました(自分語り失礼しました)。今(2021年12月現在)のところ1巻完結なのがホント残念。続きを…続きを…。
他の会員のコメント
空気なんて書いてないからわかんない、そう言われるとそういう人もいるんだなって思うけど、この返しはできない、そういう相手もなかなかいない。だが、彼女たちの関係性はそういうのを恥ずかしげもなく言えてしまうようなもの。この2人のこういう距離感は眺めていて心地良い。(146B)
というか高橋いちいちかっこよすぎん?(白雪)
高橋イケメンやなぁ…(周回積分)
あるごんの選んだ「1コマ」:『CUE!(キュー!)』
『CUE!』は、新しい声優事務所「AiRBLUE(エールブルー)」に集う16人の声優のタマゴが、それぞれの夢を目指す物語である。2019年10月にスマートフォン向けアプリとして公開され、私も同年11月からプレイしていた。しかし、システム改善と昨今の情勢を理由として2021年4月にサービスを停止してしまい、再開の目処が立っていない。
その一方で、TVアニメが来期・2022年冬アニメとして放送される。放送に先立って公開されたPVのうち、例会の2日前(!)に公開されたものの1コマを選んだ。ソースがPVなので場面説明は実際と異なる可能性があることをご了承いただきたい。
六石陽菜(左・赤い服の子)と鷹取舞花(中央手前・緑色の服の子)の所属するAiRBLUEのチーム「Flower」が、声優として初めての収録に臨む場面だろうか。陽菜が(なんだかドキドキする……)と緊張を覚えたその時に、舞花が陽菜の手をとり、「緊張してるのは、陽菜だけじゃないよ」と緊張を分かち合う――というシーンである。このセリフの声が非常に印象的で、緊張による震えや硬さを含みながらも、とても優しい声を使おうとしているように思える。実際に、普段の芯の通った声とも比べてみてほしい。
(該当シーンは0:41から。一番分かりやすい部分を「1コマ」とした。)
この場面は、アプリ『CUE!』で描かれていた、価値観と時間を共有する二人の原点と捉えられる。お気に入りの喫茶店やオススメ曲のシェアから、お互いのペット/弟妹の世話の手伝いに至るまで、あらゆる物事と時間を共有した関係性が鮮やかに思い起こされた。この二人の関係性をきっかけに百合好きを自覚し百合文研へ入った私が、砂漠でオアシスでも見つけたかの如く歓喜に打ち震えたシーンであった。
残念なのは、先述の関係性が今や検証不可能なことだ。サービスが停止している現在、アプリ版の内容を参照するのは不可能である。しかし、だからこそ、TVアニメを見る際、前提知識は無くて良い。まずは、夢への険しい道を歩み始めた16人の新人声優が描く物語に触れてもらいたい。色とりどりの個性が交わりすれ違う中に、広義の百合を感じ取ってほしい。
他の会員のコメント
声優さんの話だけあって、この1コマとっても声の演技に注目した解説は聞いてて興味深かったです。(白雪)
『CUE!』のアニメ、楽しみですね。楽曲では『マイサスティナー』が好きです。Flowersは『One More Step!』を歌ってるユニットですね。あれめっちゃ好き。今回の話を聞くと、キャラクターたちのストーリーによって歌詞に新しい意味が付けれました。アニメで開示される物語も楽しみですね(146B)
声優さんの出てくるものって、表の演技と裏の顔の二面性が面白くて百合とも相性が良いのでアニメがとても楽しみですね。(周回積分)
だちの選んだ「1コマ」:『彼女とカメラと彼女の季節』
【作品紹介】
『彼女とカメラと彼女の季節』は、2012~2014年にかけて発売された漫画。高校三年生のあかり、ユキ、凛太郎の3人の関係を描く。
主人公の1人、ユキはカメラを趣味としており、タイトルにも入っているように作品内で重要な要素として使われる。
【場面説明】
あかりがカメラの勉強のために東京に行ったユキを追いかけて合流した夜に、ユキから凛太郎に振られたことを聞いた後のシーン。あかりはユキをベッドに寝かせてカメラのタイマーをセットし、2人の写真を撮る。
【詳細説明】
本作には、あかり→ユキ、凛太郎→あかり、ユキ→凛太郎という3つの「好き」があり、この時点で、凛太郎、ユキの「好き」が終わり、あかりはようやくユキを手に入れられると思っている。しかし、このシーンではユキのあかりへの気持ちはまだ不透明で、2人の関係はまだ完成には至っていない。それでもこのコマが一番好きなのは、この作品におけるカメラの要素が2人とともにきれいに収まっているからである。
本作の3人の関係性はかなり複雑で、「好き」の矢印以外にも、ユキと凛太郎は幼馴染みだったり、あかりと凛太郎はユキに頼まれて一時的に「恋人ごっこ」を演じたりする。その絡み合った関係や3人の人となりを映し出すのがカメラというアイテムである。シャッターの中では誰も逃げることはできず、隠している心も写り込んでしまう。このシーンは、「近づいたと思ってもすぐに逃げられてしまう」「全然つかみどころのない」ユキをようやくあかりが捕まえ、自分の物にしようとする場面で、そんなカメラの特性があかりの心情の演出に一役買っている。
また、カメラはあかりとユキ、2人の関係の象徴でもある。あかりは高校三年生の春にカメラを持ったユキに一目惚れし、仲良くなったあとはカメラについて教わるなど、2人の関係はカメラで繋がっている。そういうわけで、このシーンが作品のテーマと2人の関係を同時に最も良く写すシーンなのである。
【蛇足】
この漫画には男(凛太郎)が登場する。これについて少し言及する。先に述べた通り、凛太郎と2人の間の「好き」は破綻してしまう。凛太郎はあかりのことを高校一年生の頃から好きであったが、あかりのユキへの「好き」を知っているためにあかりの心の中までは入れなかった。また、凛太郎はユキを幼馴染み以上の存在として見ることはできず、ユキからの告白を断る。それに対し、あかりとユキの間にはカメラ仲間という比較的薄いつながり(凛太郎はカメラの使い手ではない)と、お互いへの感情に由来する衝動くらいしかなく、逆説的に2人の関係が成就する話になっている。その他にも3人の関係は複数の視点から描写されるが、どの視点においても、「男が出てきてかき回す百合」ではなく、あくまで「それぞれの「好き」の結果として女女関係が勝つ話」となっていて、男が出てくる百合が嫌いな人にも一度は読んでもらいたい話である。
他の会員のコメント
男女の関係性を通過してこそ示される女同士の強い関係性というのもあると思うんですよ!そういうのを通過してしまったら、もう純ではないというのは違うと思うんすよ(146B)
今回のカメラで撮っている演出のコマとか台詞の長さとか光の当たり方とか、「コマ」であるからこそ多彩な表現があり、そういうものも含めたものが印象の残る「コマ」なんだな、って思いました。(白雪)
基本的に百合に男が出てくると拒絶反応が出るのですが、このお話の場合はきちんと男女の関係をうまく組み込めていていますね…読んでみようと思います。(周回積分)
ミッチェンの選んだ「1コマ」:『紡ぐ乙女と大正の月』
『紡ぐ乙女と大正の月』はちうねによる、『まんがタイムきららキャラット』にて2019年から連載されている作品。物語としては令和を生きる女子高生の主人公・藤川紡が突如大正時代に飛ばされ、治安維持部隊に不審人物として捕まりそうになったところをお嬢様・末延唯月に拾われ、大正時代に女子校生として生活する日々を描いた作品。タイムスリップものという側面はもとより、本研究会第1回の対面例会でも言及された日本における百合文化の走りともいえる”エス”という少女同士の関係を真正面から取り上げている部分も特徴的である。
同居することで実の家族のような関係になっていった紡と唯月だったが、そんな2人の前に唯月と因縁のある一条雪佳が現れる。雪佳は唯月を困らせるために、紡に対しエス(強い絆で結びついた特別な女子同士の関係)を結ぶことを求めてくる。今回選んだのは、雪佳に積極的に関わろうとする紡に対して唯月が寂しそうな姿を見せるシーン。シリーズ最大級のシリアスな修羅場の前兆でもある。
この話では紡が雪佳に猛アタック、雪佳が少しづつ心を開いてゆく様子が1話いっぱいかけて展開されていた。それだけに、見開きの左端4コマ目に配置された暗く複雑な唯月の表情は対照的で、読んでいた私の印象に深く残った。普段は高貴な立場らしくおっとりした態度を崩さない唯月はこのような暗い表情を滅多に人に見せない。
唯月の尋常でない感情の複雑さが、4コマ漫画であることを生かした技術によって最高の密度で表出しているこの1コマはまさに「私の選んだ1コマ」に相応しいと考えた。
(余談だが、旭がいかなる時でも唯月のことを第一に気遣っていること、「おバカさん」という物言いから読み取れる友達思いな所、といった旭の良さが凝縮されているシーンでもある。)
他の会員のコメント
大正時代というだけで 醸しだされる雰囲気、好きんですよね……それに百合が重ねれて……最高ですわね(146B)
4コマって大ゴマ使えないし、背景を書き込むことも難しい。その中でも、この1年で1番印象に残った1コマとして4コマの1コマが選ばれるって、よっぽどその文脈も含めた作品が完成されてるんだな、って圧倒されました。(白雪)
実はチェックしてなかった作品だが、エスの遺伝子を感じて非常に興味深い。読まないと……(レニ)
百合姫の表紙然り、この作品然り、大正×現代って百合と相性良いのでしょうか…(周回積分)
簡単なまとめ
以上、9人の会員による、アニメ・小説・漫画という実に多様なメディアから選ばれた12コマの紹介でした。
出発点としての流行語大賞から、一応出席した会員の中で投票を行わせていただき、全コマ拮抗の末、
会長のレニさんの推薦した『夢の国から目覚めても』の1節
星野さんの推薦した『結城友奈は勇者である -大満開の章-』の1コマ
が、2021年版の、百合文研としての「私達で選んだ1コマ」ということになりました。今回選ばれたコマは来年度の百合文化研究会の活動にひょっとしたら再び顔を出すかもしれないので、皆さんも気にしてみてくださいね。
ただ、「優劣をつけるものではない」というある会員の方のおっしゃった通り、今回紹介されたどのシーンも、印象的でした。王道的な百合も押さえた周回積分さんの「1コマ」・大ゴマを生かした迫力ある146Bさんの「1コマ」もあれば、4コマの1コマというごくわずかなスペースに無限の可能性を感じさせるミッチェンさんの「1コマ」もあり、それぞれ違う形で心に訴えかけてきました。
同時に、2021年の中で一番印象に残った、というコンセプトの下、今回の紹介だけでも百合文化研究会での1年を所々振り返れました。星野さんの話で示唆された百合文研第1回の対面例会での、百合というジャンルをどこまでも語りあえる皆さんとの出会いを私も思い出させていただきました。だちさんの推薦のように、上半期に読んで一番良かった百合漫画を紹介し合う会で紹介された作品から今回も発表してくれる方もいました。その一方で、最近行った京大漫トロピーさんの会誌輪読で勧められていた作品から「1コマ」を選ばれたアクティブなもりしさんのような方や、ここ数回の例会で連続して「CUE!」に対する熱い思いをぶれずに語ってくれるあるごんさんのお話も楽しかったです。このような多様な会員がそれぞれの見方を共有する、そのような百合文化研究会の多様性もまた、レニさんの紹介してくれた「1コマ」に通じるような百合そのものに通じ、より深い百合文化研究につながるのかもしれませんね。
と、まあ少し感傷に浸ってしまいましたが、京都大学百合文化研究会は別にこれが最終回でもなんでもなくて、2022年にも新たな仲間を加えてより広く・より深く百合に迫っていくことだと思います。そんな2022年にますます発展する百合文化研究会に思いをはせつつ、今回は筆をおくことにします。協力していただいた会員の皆さん、そしてここまで読んでくださった読者の皆さん、本当にありがとうございました。