【布教企画】「私達の選んだ1コマ」大賞2023 上

(編集責任:まっつごー・湖柳小凪)

 

  あなたの百合オタクライフにとって、2023年とはどんな年でしたか? 

 

 ごきげんよう。湖柳小凪です。

 弊サークルが設立以来開催している年末恒例企画「私達の選んだ1コマ」大賞も今年で3回目を迎えました。この記事はそんな「私達の選んだ1コマ」大賞2023の模様をお伝えするレポになります。

 会員一人一人が選んだ強すぎる「1コマ」の数々。これを見て、皆さんも2023年の百合ライフを振り返りませんか。

 

「私達の選んだ1コマ」大賞とは?

 本編に入る前にまず今回の概要について簡単にご説明しましょう。この企画はずばり、会員が2023年に触れた百合作品のうち、特に印象に残った「1コマ」を選んでプレゼンし、その中からサークルとして最も2023年で「強かった」1コマを選出する、というもの。

 1コマといっても、媒体は漫画に限らず、百合作品の一部ならそのメディアはアニメでも小説でも良い、として会員から「私の選んだ1コマ」を募りました。今年はソシャゲの1コマや楽曲のMVからの1コマも集まり、去年、一昨年以上に多様性に富んだ応募となりました。

 

それぞれの会員の「私の選んだ1コマ」2023

 さて、能書きはこれくらいにしてそれぞれの会員に熱い推しコマ・推しシーンを語ってもらいましょう。

 

cardinalの選んだ「1コマ」:『この百合はフィクションです』

『この百合はフィクションです』第1巻より

 群雄割拠のアイドル戦国時代、売れるためにアイドルたちは様々な戦略を執ってきた......。その中でも特に効果的な戦術......「百合営業」ッ!!!

 

 アイドルグループ「ぱらいそ伝説」の可愛い天然妹担当・直江めぐむとクールビューティ担当・伊達沙愛良は性格は反対だけど仲が良くて相性のいい仲良し「だてなお」コンビ......というのは表の顔!実際の直江めぐむは計算高い超・現実主義であり、彼女の計画した「百合営業」に気弱な伊達が無理やり付き合わされていただけなのであった...!

 

 1コマの場面は百合営業と直江のパワハラに我慢の限界を迎えた伊達がなんとかして「だてなお」の幻想を破壊しようと直江に無断で生配信で露骨な不仲アピールをした後のシーン。伊達の計算では不仲アピールによって「だてなお」ファンが幻滅するはずだったのだが、悲しきかな、オタクたちは都合良く伊達の不仲アピールを百合的方向に解釈してしまう。伊達の百合営業破壊は失敗に終わったのだった......。

 

 『この百合』はキレの良いワードセンスが特長の作品。その中でも特に面白く、伊達のオタクへの憎悪が良くわかるこのコマを選出させていただきました。

 

 

点々の選んだ1コマ:『不器用ビンボーダンス』

なをををををを氏『不器用ビンボーダンス』1658話より

 「不器ビン」にはガチガチの百合カップルが登場するため、この二人のお話はギャグパートだと思って油断していました。いきなり刺されて死にました。普段軽く冗談を言い合うような間柄の人たちがたまに見せる大きめの矢印、いいよね......。

 

 

レニの選んだ「1コマ」:『お姉さまと巨人』

 レニの選んだ「2023年1番強かった1コマ」は……

『マリアさまがみてる』(2004年,スタジオディーン)

 

ではなく!

Be-con『お姉さまと巨人』(KADOKAWA)

【本作のあらすじ】

 主人公・雛子(小さい方)が異世界転生し、姉妹の契りを交わした巨人のエイリス(大きい方)と、現実世界で生き分かれた「お姉さま」を探す、というストーリーの異世界転生ファンタジー

 作者もあとがきで明言しているように映画『アウトレイジビヨンド』に強く影響を受けており、主要人物の相関図も完全に一致してます。

相関図

【状況説明】

 それと同時に、この作品は「マナーを守ること」の意味についても説かれてきました。マナーを守ることで、どんな相手とも対等に渡り合うことができる。

その冒険の末、そしてこれまで描かれてきた「マナーを守ること」の意味が結実したといえるのが、今回選んだ1コマ。

 

 ではなぜ、どんな相手とも対等に渡り合わねばならないのでしょうか?

それは……「私より大きなものと戦う」ため。

 

 つまりこの作品はいわば、現代の百合文化の基礎を築いた『マリアさまがみてる』以来の百合的なお約束も踏まえながら、映画『アウトレイジビヨンド』にも通じるような関係性の入り乱れた愛憎劇を、『進撃の巨人』のような胸躍る本格ファンタジーの中に内包して生まれた、奇跡のような作品なのです。

 そのような正統派百合の進化系の最前線を、2023年で私が選んだ1コマとさせてもらいました。

 

 

小凪の選んだ1コマ:『ポラリスは消えない』

嶋水えけ『ポラリスは消えない』(2023年、スクエアエニックス)

【あらすじ】

 2年前に死んだアイドル(推し)を神様のように信奉する主人公・橘ミズウミが、彼女の死後忘れられゆく推しを永遠のものとするために、自分がそのアイドルになりすまして配信活動、路上ライブetc.を始める。そんな歪みながらも純真すぎる彼女の信仰は、ミズウミを商売に利用しようとする悪い大人、よく思わないアイドルグループの元メンバーを巻き込んで話が進んでいく……というお話。

 これまで恋愛という関係に比べて一言で説明がついてしまうのであまり百合と思っていなかった「推し」「推す側」という関係性の尊さを中心に据え、「推し」百合に対する小凪の見方を180度転換させた1作。

 

【相関図】

 ソラ(推されるアイドル)は死んでいるため、1巻2巻とかけて、ミズウミ(ファン)からソラに対するクソデカ矢印が描かれていく。そして迎えた3巻。回想シーンで遂に明かされたソラからミズウミに対する思い。私が選んだのは、そんな1コマです。

 

【状況説明】

 ソラとミズウミは子供の頃に同じ時期に入院しており、友情を育んでいました。しかしミズウミの方が早く退院することが決まってしまい、お互いがお互いなしでは生きられないと思っていた二人は夜にこっそり二人で「退院」してしまいます。

 そんな逃避行で見上げた、歴史上道標となっていた不動の星、こぐま座ポラリス。そんな道標になろう、と二人で誓い合った、そんなシーンから持ってきたのがこの1コマです。

嶋水えけ『ポラリスは消えない』(2023年、スクエアエニックス)

【解説と推薦理由】
このコマには3つのポイントがあります。

 

①ソラにとって自分を照らしてくれるミズウミの存在こそ道標。そんなミズウミにとって自分も道標に、照らしてあげるような存在になる、「推される存在」になろうと決意した瞬間。この作品が正真正銘の「推し」百合に、双方向百合になった瞬間。

② 推し=アイドル=人々が歩く道標=ポラリス。 美しすぎるタイトル回収。ポラリスは消えない」=道標は死後も消えない。

③「推し」というこの作品のテーマが何なのか、その二文字にどれだけ大きくて、複雑な感情が詰まっているかを推される側から、鮮やかな比喩で端的に言い表している!

 

 つまり、「推し」との関係性を描く百合に、どれだけ尊い関係を込められ、どれだけ面白いドラマを込められるかを表した1コマなのです。

 「推し」百合のニュースタンダード、そんな1コマを2023年に出会った最も印象深い1コマとして選ばせていただきました。

 

 

うりあの選んだ1コマ:『潮が舞い子が舞い』

阿部共実先生『潮が舞い子が舞い』最終話より


 今年は阿部共実先生の漫画『潮が舞い子が舞い』より、百々瀬(百々瀬奏)とバーグマン(真鈴バーグマン)の関係性についてプレゼンさせていただきました。

 

 初めに『潮が舞い子が舞い』という作品について簡単に紹介させていただくと、神戸市垂水区の舞子を舞台に、高校2年の少年少女たちの日常を描いた作品です。今年完結してしまったのが非常に残念です……。本作が百合作品として語られることはほとんどありませんが、本作は関係性を描いた群像劇的な物語であって、その中で百合的関係性を見出すことができます。そこで、今回は百々瀬とバーグマンの関係性について取り上げました。

 

 バーグマンは、世の中の基本的な構造から概念まであらゆることに疑問を持って考える、といった少し変わった少女で、食堂で初めて百々瀬と絡んでから、しばしばその疑問などを百々瀬に問いかけるようになります。百々瀬は、基本的にクールで大人びた(百々瀬の性格、内面に関しては議論の余地がありますが、ここではこのように表現します。)性格ですが、面倒見が良く、バーグマンの主張の聞き役となっていき、行動も共にするようになります。

 二人が絡み始めてから最終話に至るまで、基本的にはバーグマンが、百々瀬と幼馴染みの少年・水木に嫉妬したり、自分は百々瀬から十分すぎるほどに与えてもらっているのに自分から百々瀬に何も与えられてないのではないかと悩んだり、バーグマンから百々瀬に対する特大やじるしが見受けられます。

 

 さて、そこで今回の1コマ大賞に選出した画像の百々瀬のセリフ

「私は何があっても 真鈴とずっと友達でいたいと思っている」

です。

 

 最終話、二人が授業を抜け出して海辺に行き、未来について語り合う中の1コマです。これまで百々瀬の方からは、バーグマンに対して明確に思いを伝えるシーンはほとんどなく、このシーンで始めて思いを告白したと考えることができます。この百々瀬のセリフの真意に関しては色々考察することができますが、阿部共実作品解釈論(?)的には、同作者の作品『月曜日の友達』で「友達」という言葉が重大な意味を持って用いられていることを考慮して、バーグマンに対する最上級の感情表現であると考えることができます。その一方で、単純に文理解釈を行えば、あくまでバーグマンはかけがえのない「友達」であって、一般的に「友達」より一歩進んでいるとされる「恋人」といった関係性になることはないことを暗に示唆しているとも考えることができるのではないでしょうか。しかし、この百々瀬のセリフは、“何があっても”、“ずっと”という単語からも、ペシミズムではないと言いつつ未来に対して悲観的になってしまうバーグマンの希望の光となったことは間違いないでしょう。あと、百々瀬の瞳にはバーグマンが映っていて、表情は見えませんが容易に想像できてしまいますよね。

 

 最後になりましたが、百々瀬とバーグマンの関係性を考える上でこの1コマは重要なんですが、この1コマ、ひいては最終話のみで二人の関係性を語ることはできないので、興味を持ってくださった方は是非『潮が舞い子が舞い』を読んでください!

 

 

 

休憩!

 と、ここまで前半戦は漫画から選ばれた1コマについてまとめていきました。

 しかし、今回は漫画から選んだ会員だけでなく他にも多様なメディアから1コマを選んだ会員がいました。後半ではそんな「その他」編を中心にご紹介します。良かったら後半も読んでみてくださいね。