「私の選んだ1コマ」大賞2021①

 

 

白雪:「私達の選んだ1コマ大賞を開催します!」

一同:「???」

 

 そんな私、白雪の一方的な思い付きから開催した「私達の選んだ1コマ」大賞。

 

 大賞ということでTwitterでも告知があった通り、最終的には百合文研全体としての大賞を決めたのですが、どの会員が推薦した1コマ・1シーンもいずれも興味深く、また、会員の熱い愛を共有することができました。今回の記事ではその一端をお伝えしたいと思います。この記事で少しでも会員の強く推すシーンに共感していただければ幸いです。

 

 なお、今回は1記事でそれぞれ担当が分かれている初?の共同執筆記事なので文体が部分ごとに異なるのはご留意ください。

 

 

「私達の選んだ1コマ」大賞とは?

 本編に入る前にまず今回の概要について簡単にご説明しましょう。企画者の白雪の出発点としてネット流行語大賞みたいなのを百合文研内で行いたいという思いがありました。そして、漫画読みサークルが前身となっているサークルであるから、流行「語」よりも印象に残った「1コマ」に注目する企画に落ち着きました。

 

 1コマといっても、媒体は漫画に限らず、百合作品の一部ならそのメディアはアニメでも小説でも良い、として会員から「私の選んだ1コマ」を募りました。そのようにすることによってアニメ・ライトノベルなど媒体も複数のものが紹介されるという嬉しい誤算もありました。異なる媒体ごとの違う良さという点も気にしながら、会員たちの推した「1コマ」「1シーン」を楽しんでいただければ幸いです。

 

 

 

 

それぞれの会員の「私の選んだ1コマ」2021

 さて、能書きはこれくらいにしてそれぞれの会員に熱い推しコマ・推しシーンを語ってもらいましょう。

 

 

レニの選んだ「1コマ」:『夢の国から目覚めても』

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 主人公はレズビアンヘテロの女性二人。百合サークルの同人活動を2人で行っていて、レズビアンの女性はヘテロの女性に恋愛感情を抱いている。しかしヘテロの方は百合をあくまで創作物だと捉え、同人活動を行う中でも百合を現実から切り離すような発言を彼女の前でしてしまっていた。しかし、ある時にヘテロの女性は相方への自分の恋愛感情を知り、これまでの百合に対する自身の言動が、彼女を知らぬ間に傷つけてしまっていたのではないか、と罪悪感を抱く。写真のシーンはその直後。

 ここでは、様々な人が互いに対する無関心を装いながら密集している電車の車内という環境と、百合というジャンルの在り様が重ね合されている。百合だって、異なるバックボーンの人たちが、それぞれ百合というジャンルに対する考え方や態度を持ちながら、しかし「百合」というその一点において同じ方向を向いている。それは時に、(シスヘテロ男性の自分もそうであるように)自分の性的指向という立場性を絶対化してしまったり、同好の士のエコーチェンバーの中で閉じてしまったりする中で、異なる他者が見えなくなってしまう。それは私達百合文研だってそう。しかし、異なることは悪いことじゃない。

 自分も、これを読む前は『ゆるゆり』みたいな日常系百合作品を軽く見ていたところがあったけど、作中でヘテロの女性が「日常系の中では現実と違って、女の子が女の子であるだけで肯定されているんだ、だから好きなんだ」と言っていて、自分とは異なる他者の考え方に気づいた。それはフィクションの中だけじゃない。違う夢を描きながら同じ電車に揺られていても、どのような価値観だってあっていいんだ、そしてそれが百合の神髄なのではないかということに気づいた。

 ただ、この作品は面白かったけれど、本当に心に響く作品って高火力で読み返せないんだよね。一読してからほとんど本を開いてない。泣いちゃうから。

 

他の会員からのコメント

さすが会長。トップバッターながら、百合の本質に対する見方も示唆するものすごい一場面を紹介してくれました。私の推薦場面の立場がw(白雪)

 

会長から借りて私も読んだとき、ストーリーそのものの良さと訴えかけるテーマに胸を打たれました。百合というジャンルが包み込む範囲の大きさ、あるいは定義の曖昧さによって包み込まれる数々を思うと、それはある種の救いのようにすら思えますね。(146B)

 

 百合の本質に迫るとても興味深いシーンでとても考えさせられますね。この作品で会長の『ゆるゆり』に対する見方が変わってよかったです、僕はもうしばらくこのサークルに居ることが出来そうですね。(周回積分)

 

 

周回積分の選んだ「1コマ」:『2DK、Gペン、目覚まし時計。 』

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 例会当日の講義中に読んでいたら「これめっちゃいい!」となって急遽入れたものです。講義中に大声が出ました(オンラインだったので助かった)。

 芸大に通う2人の女の子のお話。黒髪の葵が金髪のかえでのことを好きになる。葵はかえでを他の人にとられたくないから勢いで同棲まで漕ぎつける。しかし男と女ではなく女同士だからこそ物理的にこれ以上ないくらい近づくことはできても、女同士だからこそ内面的には”友達”という関係以上に踏み込むことができないジレンマを、寝顔を見ながら感じるシーン。そんなもどかしさが同性同士だからこその関係性ではないか。

(誤解がないように書いておくとこの2人は物語のメイン2人ではありません。)

 

 

他の会員からのコメント

この作品の特徴として同棲にこぎつけてるというのがあって、その最大の物理的な接近が寝室だと思って、そのようなコマを選んでくるところに周回君のセンスを感じたな。(白雪)

 

社会人百合の中でもトップクラスの良作。たとえ学校の外側に飛び出ても、測りかねる距離感は変わらない(146B)

 

 

周回積分の選んだ「1コマ」:『ロンリーガールに逆らえない』

 

 

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 黒髪の彩花は大学の推薦を受ける条件として不登校の少女・空の更生を教師から命じられる。学校に連れてくることには成功したものの、教師との取引がばれてしまい、彩花は空にキスなど色々なことを「お願い」してくる。最初は大学推薦を得るためだけのために付き合っていた彩花だが、だんだんその気持ちが変わってくる。

 そんな中、空が引っ越すことになる。選んだシーンは空が引っ越すために空港に来たシーン。追いかけてきた彩花はここではじめて「お願い」ではなく自分の意志で相手に接吻をする。

 

 最初は好意を一方的に受け、それに付き合っていただけだった少女が自分の気持ちの変化を受け入れ、自分から主体的に相手を求めるように変化したことが変わったことを象徴する1コマということで印象深い。

 

 

他の会員からのコメント

前の作品もそうだけどそのものズバリ百合っていう1コマを抜き出してくれたな、っていう印象。ストレートで読んでみたくなった。(白雪)

 

迫られるだけじゃない!迫ってけ!(146B)

 

王道。というか他の人々がひねり過ぎているのか?(レニ)

 

 

白雪の選んだ「1コマ」:『おちこぼれフルーツタルト』

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 ちょっとぶりです。再びの白雪の登場です。私からは『まんがタイムきららキャラット』で連載されている浜弓場双の『おちこぼれフルーツタルト』4巻からの1コマを紹介させていただきます。この作品は田舎から上京してきた主人公・桜衣乃が所属する芸能事務所の寮の他のメンバーとともにアイドルユニットを組み、寮存続のためにお金を稼いでいく、といったところから始まるアイドルものです。と、いっても、話はシリアスというよりもギャグ・下ネタ多めで面白く読める作品になっています。2020年秋クールにアニメ化もしています。

 

 そして私が選んだ「1コマ」は写真の下半分なのですが、このシーンでは本人たちも下ネタ脳のため不健全なイメージになっている主人公グループをどうやったら改善できるか、と考えているところでの1コマです。

 

 察しの良い方はお気づきかもしれませんが、このコマで言及されている「10代の女の子がジャンプすると世界が平和になるでしょうが!」というのは、この作品自体も系列作品となるきらら作品のアニメによくみられる、いわゆる「きららジャンプ」のことを示唆していると考えられます。これはただのメタ発言としてギャグとして片づけることもできるのですが、私はこれを最初に見た時、面白いと思うと同時に、感動してしまいました。その理由は、作中でTシャツの女性(ホホ)は主人公達にただ「きららアニメ」ではよくジャンプをするからジャンプをすると言っているのではなく、ジャンプをするということで世界が「平和」になるから、ジャンプという行為を通じて主人公たちのイメージ健全化を図ろうとしているのです。この「平和になる」という表現は「きらら作品」の本質をついていると私は考えます。女の子同士のまったりとした関係を描くことで一人一人の心の中を平和にし、最終的には世界平和のきっかけともなりうる。そんな可能性を秘めているのが「きらら作品」に代表される日常百合作品であり、その象徴として、きららアニメでよくみられる”ジャンプ”という動作で代表されているのです。『おちこぼれフルーツタルト』もその系譜を、外形的にも魂的にも継いでいる作品だと明言されたことに私は感動したのです。

 

 しかし、ジャンプという動作が「きらら作品」を表す表現と社会的に認知されていながら、近年ではOPでジャンプをするきららアニメは近年減っています。2020年は5作品ほどきららアニメが放送されたと記憶していますが、OPにきららジャンプを盛り込んだのは秋クールの『おちこぼれフルーツタルト』の1作品だけで、その前は2年前の秋クールに放送された『アニマエール』までさかのぼることになります。そのような、半ば消えかけているきららアニメのテンプレをしっかりと行うことによって、『おちこぼれフルーツタルト』はアニメも「きらら」に求められる本質を確認したと考えることができるのです。アニメを視聴していた際、私は原作のこのコマに出会っていませんでしたが、第1話でOP映像を見た時に本能的に泣いてしまったことを今でも覚えています。私が泣いた理由、それは『おちこぼれフルーツタルト』に”私達が求めている日常系百合”を感じたからだと思います。

 

 それを今年になって改めて感じさせ、また、『おちこぼれフルーツタルト』の根底に流れる使命感を感じさせてくれたこのコマは間違いなく私が今年であった中で一番印象深い「1コマ」の1つです。

 

他の会員からのコメント

きらららしさと下ネタの汚さで殴ってけ!みたいな作品。きらら作品でモザイクをこんなに見る日が来るとは……そういえば最近きららジャンプ見てませんね。ちょっと悲しい……そういう思いがあると、このコマは少し嬉しいですね(146B)

 

きらら作品は今まで何いも考えずに読んできたので、1コマでここまで含蓄があるとは思いませんでした…女の子たち、たくさんジャンプしてくれ!(周回積分)

 

 

白雪の選んだ「1コマ」:『安達としまむら

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 またお前かい!って言葉が聞こえてきそうですが、欲張りなんでもう1つだけ紹介させていただきます。今度は電撃文庫より刊行されている入間人間によるライトノベル安達としまむら』5巻からです。『安達としまむら』のあらすじや作品概要自体は私の執筆でこのブログ内でも紹介しているのでこちらを参照していただければと思います。

ku-yuribunken.hatenablog.com

 さて、今回私が選んだ「1コマ」は実は画像で挿入した部分ではありません!夏休み。安達はしまむらと一緒にお祭りに行こうと誘おうと考えますが、なかなか勇気を出して誘えずにいました。そんな中でお祭りの日はアルバイト先の出店する出店のシフトを入れられてしまいます。一方、しまむらは幼い頃の幼馴染から、一緒にお祭りに行くことを誘われ、承諾します。そして、お祭りでアルバイトする安達がしまむら達を見かけてしまって……というところに続くシーンの一節が私の選んだもう1つの「1コマ」です。

 

 (恋愛的な意味で)大好きなしまむらが他の女と一緒にいるところを目撃してしまった安達が落ち着いていられるわけもありませんよね。安達はパニックに陥って、お祭りの時に一緒にいた人は誰なのかしまむらに電話に問い詰めてしまいます。否、問い詰めるというよりも感情がとめどなく流れてしまった、という表現が正しいでしょうか。ライトノベルに換算して4ページを超える安達の一方的な電話が続きます。このシーンが私の選んだシーンです。4ページの間、安達は自分の変なことを自覚しながらも、自分の弱さ・しまむらが一緒にいてくれない不安・しまむらに自分を1番にしてほしい旨など、これまで散りばめられてきた、でもしまむらには直接伝えられなかったことが明示されます。上記の記事でも簡単に触れたかとは思いますが、本作は心理描写が丁寧で、安達パートも繊細に描かれているのですが、ここはより直接的で、安達の弱さ、安達の一途な思いがそのまま書かれていて、物理的な文字量も合わせて訴えかけてきます。

 

 この台詞が印象深いのは、普段の安達とのギャップというのもあるでしょう。お祭りに誘うのも含めて、安達は口下手だからしまむらに要求を伝えられなかった。そんな安達の暴走。そんな弱さだからこその、決してかっこいいわけじゃない言葉のダムの決壊。それは、安達がそもそもしまむらを気になった理由―――人付き合いが苦手で、ひょうひょうとしているしまむらだから受け入れてもらいたくなったというところにもつながると思います。そうであるから、嫉妬であっても、ヤンデレみたいではなく、一緒にいた女性に対する恨み言というよりもむしろ、まっすぐなしまむらに対する要求で4ページが貫き通されているので、嫌味に感じずに純粋に応援したくなる、共感したくなるんですよね。

 

 そう考えていくと安達の精神年齢・感じている恋愛感情は歳不相応な幼いものなのかもしれません。でも、だからこそ、根源的な”好き”について考えるきっかけになるのでしょうか。少なくとも私は「好きとは何なのか」ということを探しながら全ての百合作品に接しさせていただいています。そういう自分にとって、「好き」の正体の片鱗を垣間見せてくれたこの1コマは今年であった中で忘れられない1コマです。

 

 

他の会員からのコメント

ぱっとこのシーンだけ見せられると電波に見えた。ヤンデレっぽい魅力に溢れているシーンなので、あだしまを読むモチベが生まれた。このシーンをノベルゲームで再現しようとすると、ノンストップでテキストが流れていくのだろう……捲し立てるようなセリフ特有の存在感に圧倒される(146B)

 

こんな長くてクソデカ感情が出てる文章でも冗長に思えないのは流石入間先生という感じですね…やはり女の子のクソデカ感情が出てるシーンは良い。(周回積分)

 

 

146Bの選んだ1コマ:『君と知らない夏になる』

 

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コミック百合姫』の新連載。就活に苦戦している就活生とそれを見ているだけしかできない女子大学生(これからインターン)の2人が、就活から、社会から逃避する作品。最初、髪が短い女の子の方が成功をまったく掴めずに磨り減っていくのを髪の長い方の女の子が励ますのだが、響かない。「嫌ならさ…就活やめたらいいじゃん」……「ほんとにやめるからね!!この先どうなっても」就活に使う用紙の数々を空に放り投げる。こうして2人の逃避が始まる。

選んだ1コマはそんな逃避の途中で、長い方の子がインターンの応募用紙などを海に投げ捨ているシーン。大ゴマで四方八方に舞う履歴書・ESの躍動感・船の上というのが社会からの脱出・逃避をこれまでかというレベルで象徴している。逃避百合の中の逃避百合と言える。

 『またぞろ』や『今日はまだフツーになれない』といった作品は、社会に適応しきれなくとも上手く折り合いをつけている話。『ふたりエスケープ』はその場しのぎの逃避を描く。そういった作品と比べると、かなり直接的な逃避に走っているのが特徴。

 

私も講義で使う資料とかを下宿のベランダから投げ出して何もかもから逃げたいです。そもそも講義に出てすらいないので資料なんて貰ってないし、最近はオンラインでしか資料を配付してくれませんが。

 

百合姫新連載の中でも期待値が高い一作なので、単行本化したら是非……

 

他の会員のコメント

(社会に対して病んでる)146Bが言うと説得力が違う。(レニ)

 

インターン全落ち、面接落ちって思いっきりワイやん。ワイも百合恋愛したい。(白雪)

 

就職したくないなぁ…D進して限界まで逃避したい…(周回積分)

 

 

休憩!

 会員の熱い思いをつづっていたらとても1記事で収まりませんでしたね。続きは②で迫っていきたいと思います。