「私達の選んだ1コマ」大賞2022②

それぞれの会員の「私の選んだ1コマ」2022

 では早速前回の続きです。前半はこちらから。

 

 

ユンの選んだ「1コマ」:『ラブライブ! スーパースター!!』

ラブライブ! スーパースター!!』2期9話

 

【作品説明】

 『ラブライブ! スーパースター‼』はラブライブシリーズの第4作。今年・2022年は去年の1期に引き続いて2期が制作されました。同じく2期が2022年に放送された『ラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』がラブライブシリーズの攻めた新しさを見せてくれたのとある意味対照的に、スーパースターの方は王道のラブライブシリーズの要素を多分に含んでいて、特に2期は特定のカップリングについて描く要素が若干控えめだったニジガクに比べて特定のカップリング(四季-メイ、可可-すみれ、などなど)を強く押し出している印象があり、百合アニメとしてより見やすい作品だったとも言えます。その中でも選ばれた1コマで描かれた可可とすみれの関係性は2期でも特に印象的で、2022年の百合アニメを語る上で外せないカップリングだといえます。

 

【状況説明】

 唐可可(銀髪の方)と平安名すみれ(金髪の方)の2人は普段は喧嘩することも多いながらもその分互いを思っている、というのを地で行くカップリング。普段は口論ばかりしているけれど時折このシーンのような泣かせる関係性が描かれる。ラブライブで優勝できなかったら留学生である可可は中国に帰らなくてはいけないという事情を誰よりも早く察し、誰よりも可可のために優勝にこだわり、可可のために他のメンバーと少し険悪な雰囲気になってから可可達がすみれの本当の思いを知った直後の1コマが今回選出されたこちら。

 

可可:「可可の言うことにいつも反対してきて、可可のすることにいつも口を挟んできて、本当、大嫌いです。……大嫌いで、大好きです」

 

 互いのことを思っているけれど大好き以外は字面的には肯定する言葉はありません。でも状況や表情と相まって、このような言葉以外の部分でより多く互いを思っていることを表すのが2人の間柄らしいといえばらしいといえます。

 

【最後に__2期だからこその選出理由】

 この2期9話の可可-すみれ回は明らかに1期10話と対応していてある意味クゥすみの1つの到達点だと言えます。1期10話が2人にとってはじめて明確な互いを憎からず思っていることが直接的に描写された回だとしたら、それを前提として互いに互いのことを「大好き」だということを直接的に描写したのが2期9話、というわけです。その違いは2期が互いに抱き合う、「大好きです」という直接的な言葉からも伺い知れます。

 そして2人の関係性の変化は2期全編を通しても見えてくることがあります。2期の9話以外でも可可とすみれのじゃれ合い・掛け合いは多々入れ込まれていますが、1期ほど互いに対する当たりがきつくなく、かなりマイルドになっていることに気付くでしょう。その2人の関係の2期段階での終着点が、この1コマには込められているのです。

 

 

他の会員のコメント

3期のクゥすみ回は何やるんだろうね。接吻でもするのかなぁ。あと、私はかのん‐すみれのカップリングの可能性を見いだせた大富豪シーンが好きでした。(白雪)

 

1期のクゥすみは当たりきつすぎね?って思ったけど2期でひっくり返りました。(うりあ)

 

ユンの選んだ「1コマ」:『咲 saki』

『咲 saki』23巻

 『咲-Saki-』は日本を代表する超次元麻雀百合漫画。特に二次創作で多くの人を百合沼に引きづりこんできました。

 今回選んだ1コマは2022年に発売された最新刊から、部長×キャプテンのカップリングをめぐる1コマ。このコマで(直接は描かれていないものの)言及されているのは清澄高校麻雀部部長・竹井久と風越女子高校麻雀部キャプテン・福路美穂子のカップリング。このカップリングが本作における発表者の推しカプなのはさることながら、本人たちが映ってないながらも久の台詞から久と美穂子の深い関係性が伺い知れる名シーン。

 

 

他の会員のコメント

なんか今年はいかに当該カプ2人がうつってない1コマを引っ張ってくるかが流行ってる……?(白雪)

 

ステルスモモっぷりを活かして上埜さん(久)とキャプテンの百合を魅せるいい演出だと思います。それにしてもモモの胸はどうなってるんだ???(うりあ)

 

 

 

無理数の選んだ「1コマ」:『機動戦士ガンダム 水星の魔女』

機動戦士ガンダム 水星の魔女』1話

これ(水星の魔女)を2022年振り返り企画で出さないのは、やっぱ違うと思うんですよ。

 

 ということで。2022年の振り返り企画に満を満たして2022年で一番世間を騒がせた百合アニメの一角・『機動戦士ガンダム 水星の魔女』からです。1話放送直後、このシーンも含め1話に散りばめられた幾つものカットが話題となり、一時#百合アニメがTwitterのトレンドに上がるまでの事態となりました。百合文研内での反応はブログの他の記事に譲りますが、基本的には男児をメインターゲットとしている作品でここまで百合を前面に出した作品であるという点から、今回の企画にもねじ込ませていただきました。

ku-yuribunken.hatenablog.com

 

 1話の中だけでも「責任、とってよね!」など百合を感じるシーンは多かったのですが、そのなかでもこの1コマは鮮烈。「水星の魔女」の百合シーンの中でも最初に提示された、最も「強い」1コマを選出させていただきました。

 

 

他の会員のコメント

企画者も水星からやってきたばかりでこの台詞は胸が痛かったので、これが審査員特別賞ってことで。(白雪)

 

リアタイで1話を見ていたんですが、該当シーンの瞬間「パーーーーーーーッフェクトアニメーーーーションッッ!!!!」と叫んでしまいました。2022秋アニメの中でも百合おん最高瞬間風速を叩き出したのは確実にこのシーンです。(月海)

 

京大ってお堅いのね。ブンピカはもっと自由よ。(レニ)

 

無理数の選んだ「1コマ」:『さよなら幽霊ちゃん』

『さよなら幽霊ちゃん』1巻

この1コマも「強さ」で選びました。

 

 『さよなら幽霊ちゃん』は芳文社から刊行されている『まんがタイムきららフォワード』にて連載されていた作品。周囲と馴染むことができずに幽霊部員化してしまった各部の少女達が自然と集まった学校の一角。そこには幽霊が居て……というお話。幽霊部員のJK3人+幽霊が駄弁ったりというのが基本ですが、幽霊のゆうちゃんがただのモチーフに終わっておらず、真剣に生きることと死に向き合うのが印象的です。また、散りばめられた伏線がきれいに回収されていく過程も見事。

 

 その上で選出した1コマはこの作品を代表している1コマかと言われると微妙ですが、コマの強さだけで言えばトップクラスです。言っている内容がハチャメチャに重い! 1コマ大賞なら、やっぱインパクトは必要ですよね……?

 

 

他の会員のコメント

ゆうちゃんに脳をくちゅっとやられたい人生だった。(白雪)

 

このコマだけ切り取るのはずるいので皆さん全巻買って読みましょう。(うりあ)

 

ヤンデレ幽霊ちゃんに死ぬほど愛されて眠れないASMR。(レニ)

 

 

月海の選んだ「1コマ」:「ペンステモンが咲いた」

「ペンステモンが咲いた」2話

 百合なのにキャラが1人しかでていない、その時点でまず"強い"。

 

 ―――ここは空前のきららゾーンです。

 

 と、いうことできらら派閥から選出させていただく最初の1コマは「ペンステモンが咲いた」。こちらは『Liliology Vol.1』の方でもご紹介しましたが、『まんがタイムきらら』(無印)の方で今年の9月号・10月号・11月号と3カ月連続でゲスト掲載された作品です。残念ながら連載には至らなかったものの、特に印象深い作品だったのでここでも紹介させてください。

 2話はかえでの「顔にある大きな傷」という"秘密"をあかりが知ってしまった後。自分だけ秘密を知っているのは不公平だから、ということからあかりが思わぬ行動にでて"おそろい"になる、というお話です。

 

 選出した1コマは2話のクライマックス。かえでの秘密に対応するような秘密がないあかりはそれを意図的に作り出そうとする。その中で彼女が選んだのは舌にピアスを開ける、という"秘密"。選出した1コマは"秘密"が生まれ、まさにあかりとかえでが"おそろい"になった瞬間をとらえています。しかし、ここで描かれるおそろいは普段百合作品に多くの読者が期待する"おそろい"のようにただ美しく尊いものではなく、ましてやきらら作品に一般的に付与される"きらきらしたもの"とはかなり距離があります。コマには口元に流れる唾液や血液が逃げることなく克明に描き込まれており、"お揃い"を作ることが苦痛を伴い、綺麗なものでないことを隠そうという意図もないのです。

 

 そんな、少し、いやかなり歪んだ思いの表し方・"おそろい"の作り方はまさにこの作品オンリーワンの魅力で、そしてこの2人ならではの唯一無二の関係性を醸し出す貴重なスパイスになっています。

 

 

他の会員のコメント

歪んだ愛情表現はなんぼあってもいいですからね~。(白雪)

 

きららで連載するには「強すぎ」たのかな……。(うりあ)

 

連載に至らなかったので百合姫は容赦なく引き抜いてください。(レニ)

 

 

月海の選んだ「1コマ」:『きもちわるいから君がすき』

『きもちわるいから君がすき』6話

百合なのに女の子が1人も映ってない、その時点で(以下省略)

 

相関図

【作品解説】

 『きもちわるいから君がすき』は『まんがタイムきらら』で連載されているクソデカ感情百合漫画(この表現は公式より)で、コミックス1巻は今月26日に遂に発売されました。下手にあらすじを自分で生成するとネタバレになりそうなので、以下、まんがタイムきららWEBのコミックス1巻書誌情報を引用。

1話目から(いろんな意味で)話題沸騰の
クソデカ感情百合漫画、ついにコミックス化!

親友である依子(よりこ)のことが好きな司(つかさ)は、
今日も気持ちを隠して日常を送る。
一方依子も司に対してトクベツな感情を持っているようで…?

 

 まあ、要するに相関図(線の太さが何を意味しているかどうかについては触れない)の感じで思い合っている女の子達の物語、と思っていてくれればいいと思います。

 

【選出したコマについて】

 選出したコマはコミックス1巻に収録される予定の第6話から。この前のエピソードでは3人目のメインキャラ・透も登場し、はじめて三者三様の心理模様が明確に描かれるエピソードでもあります。

 6話の前半では傍目から見たらあくまで「仲良し」の範疇で司と依子は2人きりで雪だるまを作って遊びます。それぞれの特色の出た雪だるまというキーアイテムを軸に、後半にかけて三者三様の物語が展開されていきます。

 選出した1コマはそのうち、透と雪だるまについての物語から。1人でいることを好み「青春ごっこ」を極端に口では嫌いながらも5話でのやりとりで依子に特別な感情を抱いてしまった透。そんな透は帰り際に雪だるまづくりに興じる司と透を見かけてしまいます。

 2人が帰った後。雪だるまなんてどうせ解ける、くだらない青春ごっこだと雪だるまづくりを口では一蹴しながらも、残された依子の雪だるまの隣に自分も雪だるまを作って並べてしまう透。その並べられた依子の雪だるま(大きい方)と透の雪だるま(小さい方)が並べられているのがこの1コマです。口ではいろいろ言いながらも青春ごっこを一蹴しきれない、本当は透も依子と遊びたいけれどもそれを言い出せない透の哀愁が伝わってくる1コマです。そして比較対象としてその前のコマで描写される司と比べると、無骨さと言う観点で透の雪だるまは少し依子の雪だるまと共通する部分があります。それでありながらもやっぱり作った人が違うから歪さや形に違いが出る。雪だるま1つとっても一辺倒でなく思いを寄せる相手に似せられるところ・違いが出てしまうところまで描写されている点は非常に秀逸です。

 

【おまけ__他の2人の物語】

 このように企画では透と雪だるまの向き合い方についてフォーカスを当てて見ていきましたが、それでは他の2人はどうなのでしょう。

 3人のうち、この作品唯一の良心(だと思われる)司は帰宅後、「雪だるまなんて何度でも作ってあげるんだから」と妹たちに言います。雪だるまに永遠なんてないという現実を見ながら、それでいてポジティブに未来の話をする。それが本来最適解で、当たり前で、実に司らしい結論だと思います。

 一方、依子は司の作った雪だるまを"お持ち帰り"して冷蔵庫で永遠に保存しようとします。普通にしていたら永遠がないのならば人工的にでも永遠を創り出せばいい。実にこの作品の主人公(?)らしい結論です。

 

 

他の会員のコメント

1巻出たら脳死で買うつもりだけど編集の都合できららベースで読める分は大急ぎで読みました。結論→「なんだよこの神漫画! 」(白雪)

 

構図のオサレさで競う発想、カブりますねぇ。(レニ)

 

 

うりあの選んだ「1コマ」:『きたない君がいちばんかわいい』

『きたない君がいちばんかわいい』5巻

 


【作品解説】

 みなさんご存じ?の作品、まにお先生が「コミック百合姫」で連載していた『きたない君がいちばんかわいい』です。

 中学で初めて出会ってから、仲を深めていく瀬崎愛吏と花邑ひなこ。ある日、持久走で嘔吐してしまい汚れたひなこの姿を、愛吏は一番「かわいい」と感じるようになります。高校に入学すると二人はクラス内では疎遠になってしまいますが、放課後の空き教室などで密かに会い、愛吏がひなこを「きたなく」て「かわいい」姿にする日々を送ります。しかし、それも長くは続かず……というお話。嘔吐描写や食虫描写で百合姫のやべー作品として話題になりましたね。

 

 

【選出したコマについて】

 物語も終盤になり、愛吏とひなこは家を出て宿を転々としながらその日暮らしの生活を送ることになります。そんな日々を長く続けることができないことはわかっているため、愛吏は日に日に追い詰められていき、ひなこに対して最後にして最大の「お願い」を言います。

「ひなは…わたしたちを永遠にしてくれる?」

最後まで自分勝手でわがままな愛吏ですが、そんな愛吏が大好きなひなこは、完全にひなこだけの物になっている今の愛吏を「永遠」にすることを選択します。愛吏に手をかけるひなこの姿は皮肉にも「きれい」であって、愛吏は自分だけがひなこをそのような姿にできることを嬉しく思います。そしてその後、2人は文字通り「永遠」になります。

 正直、「きたかわ」はどのコマも破壊力があって1コマだけ選ぶって難しいのですが、その中でも最終回のこの1コマは「強い」ですよね……。二人の愛をそのままに、永遠にする心中をここまで強く、美しく描いた百合作品って後にも先にも無いんじゃないかっていうくらいの衝撃を受けました。

 

 

他の会員のコメント

王道が来ましたね……。私も就活が終わってから少し経ってからようやく読めたんだけど、これは「追ってきてよかった」と思える終わり方だった。やっぱ永遠なんて、みんな死ぬしかないじゃない! (白雪)

 

この話の載った百合姫、ちょうど京大入試の直前だったんですよね。今読んだらヤバい、と思ってその時は読まなかったのは今ではいい思い出。(無理数)

 

大胆な永遠は女の子の特権(レニ)

 

 

 

総括!

 以上、12名全16コマ(!?)の紹介でした。白雪自身も数え直して困惑しています、ええ。

 

 そして今年も出席者による投票の結果

 

 1位 レニの選んだ「1コマ」 :『MADLAX

 

 2位 ユンの選んだ「1コマ」 :『ラブライブ! スーパースター‼』

 2位 うりあの選んだ「1コマ」:『きたない君がいちばんかわいい』

 

が2022年の「私達の選んだ」1コマ大賞、と言うことにさせていただきました。去年同様、これらの1コマは2023年の百合文化研究会の活動に顔を出すことがあるかもしれませんという予告をしておきます。

 

 ですが、このブログをまとめている最中、白雪はこんなコマを見つけてしまいまして。

『きもちわるいから君がすき』6話より

 これは「2022年最強の1コマ」を決めるべくスタートした1コマ大賞含め研究会の活動すべてに通じるスタンスだと思います。

 今回紹介された16コマ。そのどれもが興味深い考察や発表者の熱い思い・「好き」が伝わるものでした。作品よりもより小さな瞬間である「1コマ」だからこそ、選び出すのは難しい。でもだからこそ、よりじっくりとアイテムやこれまでの文脈に注目し、丁寧に向き合うことができる。そしてそのように向き合った先に「これまで好きだった作品の魅力の再発見」、更には「自分達百合オタクが惹かれる百合の本質」が「理解っちゃう」ことにつながるのではないでしょうか。

 実際、皆さんの発表を聞いて2022年の活動や百合作品を振り返るだけでなく、私自身も百合の深淵を更に覗き込むきっかけになりました。レニさんの研究ほどガチガチなものではないですが、この記事が、少しでも読者の皆さんが百合を考えるきっかけにつながったならば、百合文化「研究会」のブログの1記事冥利に尽きます。

 

 

 

 そして最後の最後に。

みんな2022年っていう時代・"強いコマ"にこだわりすぎだろーw!

これだけは声を大にして言いたい。それはそれで楽しかったんですけど、2006年の王道百合アニメを持ってきた主催者の立場がねぇ……。

 まあ何はともあれ、無事に企画を終え、このようにブログにまとめられてよかったです。来年誰かがこの企画を引き継いでくれると嬉しいけど……ここで言うことじゃないですね。

 

 ではでは。ここまでお読みいただき、ありがとうございました~。