【「水星の魔女」感想座談会①】

はじめに

 *本稿は10月5日の通常例会で突如発生した、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』1話感想を語り合う会を白雪が記憶だけを頼りに勝手に再現したものです。そんな雑な記事が10カ月ぶりの更新の記事でいいのか、と言われそうな気がしますが宜しければお読みいただけると幸いです。

 なお、本座談会は1話までのネタバレを多分に含みます。また、各会員の意見は当研究会の公式見解ではないのでその点にもご留意ください。

 

本編! の前に___参加者紹介

【白雪】水星から京都大学へやってきたため百合文化に対する知識が浅い。なおガンダムも今回が初視聴。

【無理】ガンダム歴は、初代、逆シャア、UC、ハサウェイ、ニジガク。

【月海】日常系百合を嗜む者。秋クールはDIY!!と新米錬金術師の馬連を購入。

【はた】今回の座談会唯一の京大漫トロピーからの刺客。百合の定義に厳しい。

 

 

前提___『機動戦士ガンダム 水星の魔女』とは?

A.S.122――数多の企業が宇宙へ進出し、巨大な経済圏を構築する時代。モビルスーツ産業最大手「ベネリットグループ」が運営する「アスティカシア高等専門学園」に、辺境の地・水星から一人の少女が編入してきた。名は、スレッタ・マーキュリー。無垢なる胸に鮮紅の光を灯し、少女は一歩ずつ、新たな世界を歩んでいく。(dアニメストア あらすじ欄(機動戦士ガンダム 水星の魔女 | アニメ動画見放題 | dアニメストア (docomo.ne.jp))から引用)

 

 日本のロボットアニメを代表するガンダムシリーズの最新作。1話放送直後からTwitter上でも「百合アニメ」としてのワードと共にトレンドに上がっていました。そんな作品を百合文化研究会の会員達はどのように見ているのか、それを次からお届けします。

 

 

はじめに ___「水星の魔女」は百合か

【白雪】Twitterのトレンドにも「百合アニメ」ってトレンドに上がってたし、まずはこれについてみんなの意見を聞きたいですね。

 

【はた】大々的に百合アニメって言われているのを見聞きしてから見た身としては、正直「言うほどか? 」って言う感想を抱いちゃったな。

 

【白雪】私も最後に決定的に「花婿」というキーワードが出てくるまでは、はたはたさんの意見に近いです。1話最後まで見たとしても「令和のガンダム」ひいては「20年代の百合」としては懐疑的です。

 

【無理】というと?

 

【白雪】他の所でも語るとは思うんですけど、映像作品における百合の展開を今のところ私は、ゼロ年代→美少女ゲー系統の百合と少女漫画由来の百合が結節し、百合ジャンルが見え始めるが、女性同士の関係性も「スール」「エトワール」「恋人」など名前の付いた関係性が多い/10年代→一言で言い表せない女性同士の関係性が多々見え始める「百合姫」作品のアニメ化も見え始め、許容性が増す/20年代→女の子同士でどんな関係になっていても自然なものとして捉えられ、それを特別な言葉で言い表す必要もなければ必要以上にクローズアップされなくても許容される、と整理していたので、そこからするとちょっとあてはめにくい作品なのかな、と。スレッタとミオリネの関係にも「花嫁」「花婿」っていう言葉が与えられちゃってるしね。令和の、20年代の女性同士の関係性としてはあまりに特別視しすぎじゃない? というのが正直あった。

 

【月海】良くも悪くもゼロ年代のラブコメとかにありそうな展開ではありますね。最悪の出会い、学園での決闘、などなど。

 

【無理】それはゼロ年代的っていうよりも、90年代の『少女革命ウテナ』を強く意識してるからじゃないかな、と。実際Twitterでも少女革命ウテナがトレンド入りしてましたし。「水星の魔女」のシリーズ構成の大河内一楼さんが『少女革命ウテナ』の小説版の執筆をしていたらしくて、それもあると思うんですけど。とにかく、それをこの現代においてガンダムでやるっていうのに意味があるんだと思います。その点で言うと「令和の百合アニメ」と言ってもいいと思う。

少女革命ウテナのキービジュアル。dアニメストアから引用。

 

【はた】なるほど。

 

【月海】まあでも僕はTwitterの動向を見る前に、ほとんど情報なしで見たから百合アニメとして期待値を段々と上げながら見ることができましたね。

 

【無理】僕は冒頭の「責任取ってよね」でもうキマっちゃいましたね。キービジュで百合だ!と決め打ちしてて、いざ見たら開始2分で百合になったので。

 

【はた】僕と白雪はTwitter上の反応を見てから視聴しちゃったからハードルが上がりすぎちゃったのかもね。世間の反響とか一切なく、百合アニメとして期待していない状態で見たとしたら自分も、「これは百合アニメになってくれるのでは……? 」と期待しながら見ていたかも。

 

 

スタッフについて

【白雪】まだ1話だから今後どうなるか、っていう思いはどうしても出てしまうけれど、スタッフ的に安心していい作品なんでしょうか? アニメーション制作のサンライズの子会社が作った分割2クールアニメ『境界戦機』がちょっと微妙な出来だったので。

 

【月海】あの作品は……。や、あれはもうガバガバなシナリオを笑いながら見る作品でしたからね。

 

【無理】さっきも指摘したシリーズ構成の大河内一楼さんは他に『コードギアス 反逆のルルーシュ』や『プリンセス・プリンシパル』、『SK∞ エスケーエイト』『アイの歌声を聴かせて』とかの脚本をやってる方なので大丈夫だと思いたい。

 

【月海】『SK∞ エスケーエイト』! それは信用できる。

 

【白雪】『境界戦機』ではバトルシーンで味方側のアメインが実剣で敵アメインを豆腐でも切るようにバッタバッタ切っていたけれど、そういう設定だとかメカニックの所はどうかね。

 

【無理】また『プリンセス・プリンシパル』ですけど、リサーチャーをやっていらっしゃった白土晴一さんが設定考証で参加してるんですよね。じゃあ世界観とかの部分も期待できるんじゃないか、と。

 

【白雪】確かに『プリンセス・プリンシパル』は(設定が)カッチリしてた印象があるからね。

 

 

ジャンルから見た「水星の魔女」

【白雪】あともう1つ、「特撮百合」っていうジャンルとの関係でも今回の作品は記念碑的になりそうだと思ってるんですよね。漫画だと『ヒーローと元女幹部さん』『ニチアサ以外はやってます! 』等々があると思うけれど、特撮を1つのメタとして描く作品のアニメ化は百合以外でも『怪人開発部の黒井津さん』『恋は世界征服のあとで』など、最近になってからだっていう肌感覚があって。

 

【無理】搭乗者は美少女ですけど、バトルシーンで戦っているのはかっこいいロボットである、という意味では「特撮百合的」っていうのは言えてると思いますね。『セーラームーン』や『アサルトリリィ』みたいな美少女バトルものじゃなく。というか、むしろロボットにしっかり寄せていかないと旧来のガンダムファンから完全にそっぽ向かれる気がします。

 

【はた】ただ、「水星の魔女」はまだ百合かどうか怪しいから……。

 

【白雪】確かにその判定は緩かったかもしれないですね。でも『ヒーローさんと元女幹部さん』も作者のそめちめ先生もあんまり百合を意識して書いてないって仰ってましたから特撮百合において百合の定義は緩くて許され……ないですかね。

『ヒーローさんと元女幹部さん』pixivコミックから引用

 

【はた】だから(『ヒーローさんと元女幹部さん』を)読むのを辞めちゃったんだよなぁ(苦笑)。

 

【無理】あと、ジャンルということだと男児向けに夕方(17時台)にやってるというのも大きいと思って。ウテナのくだりでも言及しましたけど、子供向け、しかもメインターゲットが男児の作品でこれをやっていくんだ、っていうのは重要ですよね。

 

【白雪】子供向けアニメで政治的メッセージの強い作品をやるのは少し危険かな、という気もしますがそれについてはどうでしょうか。たとえばプリキュアシリーズだとジェンダーに踏み込んで「男の子でもプリキュアになれる! 」というところまでやった『HUGっと! プリキュア』の人気が伸び悩んだって話も聞きますが。

 

【無理】ガンダムって3大特撮やプリキュアを卒業した年代の子が入る作品だと思うので、より受け入れやすいんじゃないかと思います。そのぐらいの歳なら百合も理解できると思うし、それが未来の百合オタクを発掘したり、もっと言えば今後の社会でジェンダーや多様性の問題を解決していくことにつながったりするといいのかな。

 

【はた】まあメインターゲットの男性児童視聴者は百合だって意識して見てなくて、あとから振り返ったら百合だった、と発見することになりそうですね。百合遍歴*1で何人かの人が指摘していた、「百合フィルターを獲得する前に出会っていた百合」として。

 

【白雪】百合の英才教育!

 

 

 

今後の展開についての期待

【月海】やっぱりスレッタとミオリネの関係性がどうなるかですよね。PROLOGUEの内容にはなるんですけど、スレッタとミオリネの関係って一悶着ないとおかしい因縁があるんですよね。宿敵関係みたいな。

 

【白雪】じゃあ2人が殺し合う展開もあると?

 

【無理】殺し合う関係って百合ですからねぇ。

 

【月海】ただスレッタはパイロットだけどミオリネはパイロットじゃないからなぁ。

 

【無理】(MSに)搭乗しないでとかもあり得るんじゃないですか? アムロとシャアも白兵戦したり生身で取っ組み合ったりしてましたし。

 

【はた】でも最後は一緒になって欲しいな。

 

【無理】形だけの関係ってところも今後どう動くのか楽しみですよね。「花嫁」「花婿」という形式だけがあって、その2人の距離は心理的にはまだまだある。トマトのシーンとかの、憎からず思ってるんだろうなという描写は1話時点でもありはしましたけど、前の相手だったグエルよりはマシ、っていう程度で接しているような印象でしたからね。それから、現状のスレッタは学園に来たのも母親に言われたから、と主体性がないので、自分の意志でミオリネに対してクソデカ感情を持ったら最高じゃないですか?

 

【月海】2クールあるから1クール終盤でどうオチを付けてくるのかにも期待が膨らむ。やっぱり何らかの引きを作ってくると思うけど。早く2クール目のキービジュが見たい。

 

【はた】まだ1話が終わった段階なのに?

 

【無理】あと、僕はエアリアル込みの百合が見たい。3人からがカップリング…… 

ガンダムエアリアル。『機動戦記ガンダム 水星の魔女』アニメ公式サイトから引用

【無理】百合の間に入るガンダムは新しすぎる。でもエアリアルってこれまでのガンダムシリーズでは類を見ないくらい自我がありそうな雰囲気(『ゆりかごの星』参照)なんですよね。だからワンチャン……?

 

【月海】話はズレますけど最後に一つ。本作って宇宙世紀シリーズじゃないからこの作品のために世界観を起こしてくれていて、政治方面の物語も大きく動かしてくれそうなんですよね。それと2人(ないし2人+MS1体)の関係性の変化をうまく関連付けて描いてくれると思うのでその視点からも今後見守っていきたいと思います。

 

 

 

終わりに

 このような感じで1話の座談会はおしまいとなりましたが、2話以降もこんな風に毎週話せるんじゃない? という意見も出たので、もしかしたら来週もこの記事の続きが更新されているかもしれません。

 また、百合文化研究会でHGエアリアルを組む会をやってみても面白いのではないかと言う話も出たので、その際はブログなりTwitterで状況を報告するかもしれません。ではでは、本稿が少しでも皆さんが「水星の魔女」、ひいては百合作品を楽しむ一助になったらいいな、と願いつつ、今週はこのくらいにしたいと思います。

 

*1:百合文研会誌の企画として会員1人1人の百合オタクとしての歴史を振り返った企画