【百合漫画大賞2021レビュー②】一度だけでも、後悔してます。

とりあえず自己紹介と好きな作品

はじめまして。京都大学百合文化研究会のはたはたです。主に、漫画やアニメ、小説投稿サイト、ラノベなどで百合を摂取しています。やわらかい雰囲気の作品が好きな特に何も考えていない人間です(レニさんとは真反対ですね)。ただただ作品を読んで尊い…といっているだけなのでまともな紹介はできないかもですが、ご容赦ください。本題のレビューの前に一作ほど今推している作品を名刺代わりとして簡単に紹介させていただこうと思います。小説家になろうカクヨムに投稿されている「週に一度クラスメイトを買う話」という作品です。

kakuyomu.jp

女子高生が女子高生に対して大体一週間に一度5000円でその子の三時間と一つ分の命令をする権利を買うというのを基本として進んでいく物語です。いびつな形の関係からスタートしてお互い知らず知らずの間に相手への感情が重く、深くなっていく様子がじっくりと描かれているところが非常に尊いと感じます。

百合作品には、なくて評価が下がることはあまりないけれど、あったら確実に自分にとって良作となる要素があります(あくまで僕にとってです)。具体的には、双方の視点の均等な描写、百合をなす女性たちの女性っぽさ、社会へのメッセージ性の希薄さなどです。僕は百合作品を読むとき、そこにある出来事を追体験したいのではなく、そこにある二人の関係を二人のものとして感じたいので、二人の間の出来事やすれ違いの解像度を上げてくれるダブル主人公ものは非常に好きなものとなっています。また、百合は女性間の関係性の物語だと僕は思っているので、物語における女性性というものを双方持っている方が僕は好きです。現実には男らしい女性なんかもいるのでしょうが、物語(特に小説)では性別は設定よりも言動によって印象付けられることが多いと感じますから、そこの女性らしさという部分は重要なのではないかと思います。加えて、百合というものは女性と女性の関係性であるがゆえに、往々にしてジェンダーLGBTなどに言及せざるを得ない場合があります。しかし、このような問題は、恋愛の障害の一つでしかないと僕は思います。つまりは「ロミオとジュリエット」における立場の違いのようなもの以上にはなりえないと考えます。社会的な問題について過剰に言及することは二人の関係性を濃く描くに際してノイズとなることが多いので、これに対するメッセージ性の薄い物語のほうが僕は好みです。

以上のような僕にとってうれしい要素が全てこの作品には詰まっていました。2~4話ごとに主人公が交代することで双方の視点を均等に見せてくれますし、二人とも、当然方向性は違えども、女子高生っぽさ(時がたつと女子大生っぽさ)というものがあります(ここでの女子高生っぽさというものは現実でいうそれではなく、よく物語で描写されるような、物語的なそれです。)。そして、常に二人の関係性にフォーカスを当てていて、ノイズが気になることもありません。まぁ、そのような広い視点だけではなくそれぞれの描写なども本当にいいのですが、僕はそれをうまく言語化できないので、ここらで推し作品の紹介を終えようと思います。自分の知り合いの百合好きを見ているとジェンダー論に向かう人や、日常系のような萌えから入ってくる人など、いろいろタイプがいるのですが、これで僕は萌えのほうからやってきたジェンダーにがっつりとらわれている系統の人間だと示すことはできたと思います。

遅くなりましたが本題 9位「一度だけでも、後悔してます。」(電撃コミックス)

 

 夢破れて会社を退職し現在無職で家賃滞納中の小塚と、小塚の住むアパートの大家さんとの間の関係を描く物語です。家賃の催促に来た大家さんに対する小塚の「なんでもします」からの大家さんと一夜を過ごすところから物語は始まります。これだけだと某ネットミームを想起させられますが、決してネタ作品ではなくこの一夜のことも後々、小塚、大家さんどちらもの心を、意味を変えつつも縛るものとなっていきます。

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う~ん大胆

一夜を過ごした後、大家さんとルームシェアすることでこれからの家賃をチャラにしつつ今までの家賃滞納分を”奉仕”で返納するという提案を大家さんが行い、小塚と大家さんの二人暮らしが始まり物語が進んでいきます。ルームシェアをしつつ、奉仕を行う生活の中での、小塚の気持ちがだんだんと変化及び自覚的になっていき、大家さんとの関係性も変わっていく様子が全体を通してみられ、尊い作品です。

関係性としては基本的に大家さんは最初っから最後まで小塚のことが好きであまりぶれませんので、先も書いた通り小塚の心情変化が主なポイントとなってきます。最初からある程度気はあったのではと思いますが(酒に酔っていたとはいえ一夜を過ごすことができるのですから)、そこまで深くなく自覚的でない思いが、小塚の弱っているところを埋めていってくれる大家さんの存在によって、だんだんと大きくなっていく様子、それに伴って行動も意識的になっていく様子、とかが何とも尊い…。同居や”奉仕”といった少し変わった関係が気持ちの芽をすくすく育てている様子がいいですね。同じことを繰り返しているうえに語彙力喪失してますね…。

しかし、多くの人にぶっ刺さったであろう、大家さんのかわいさ、はこの物語の魅力として外せないでしょう。小塚大好きな子なんですけど、小塚が見ているところでは結構表情硬めなのに小塚が見てないところでものすごくデレた顔するところだったり、小塚を世話しつつも小塚に精神的に救われてたりと、しぐさや感情が本当にかわいらしいんですよね。なかなかスッと心を表に出さないけど、裏でかき乱されてる感じのキャラクターはかわいいと思います。

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小塚の前→小塚の見てないところ

他にも周りのキャラクターも魅力的ですし、こんなぺらいレビューでは良さを表現しきれてはいないと思うのですが、言語化能力が限界なものでこの辺でしめさせていただきたいと思います。最後に一言。くっついた後の甘い日常編も見たかったなぁ~。

追伸)女性を好きな女性としての悩みだったり、心の葛藤もしっかりと描かれているのでそういうのが好きな方にもおすすめです。