【百合漫画大賞2021レビュー①】ゆりでなる♡えすぽわーる

百合漫画大賞2021レビューリレー、開幕~~~!!

はじめまして。京都大学百合文化研究会のレニと申します。簡単に自己紹介すると、この会を立ち上げた張本人です。百合文研発足から約2週間、現在8人の会員と100人のTwitterフォロワーに恵まれ、無事上々の滑り出しを迎えることができました!ありがとうございます。

しかし、もっと百合の魅力を伝えたい!百合の魅力について語り合いたい!我々の活動を発信したい!ということで今日から自己紹介代わりのリレー企画「百合漫画大賞2021レビュー」を始めたいと思います。百合文研の会員が定期的に「百合ナビ」様の「百合漫画大賞2021」に入賞した作品を、10位から順に語っていきます!

というわけで早速。

 

【10位】なおいまい『ゆりでなる♡えすぽわーる』(COMICリュウ

 

主人公・駒鳥心は、「女の子とお付き合い」することを夢見る名門女子高の3年生。しかし彼女は卒業と同時に、親に決められた許嫁と望まない結婚をしなければならないことを運命づけられており、それに「死ぬのと同じこと」のように絶望しています。

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そんな彼女が自分を救うためにとった手段が、妄想。親友・雨海とともに街に繰り出し、女の子たちの百合ストーリーをスケッチブックに描くことで、彼女は自分の心を救おうとするのです。

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この作品の特筆すべき点は、その構成の巧みさにあります。1話が2部構成になっていて、前半で駒鳥心のカップリング妄想、後半で妄想された2人のリアルが描かれているのですが、そのギャップが凄い。例えば1話。前編で心は、電車の中で雑誌を読む、ギャルと清楚系の女子高生2人に、ゆりゆりぽわぽわな百合のストーリーを妄想します。もちろんハッピーエンド。心は満足のうちに電車を降りるのでした。

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素敵ですわお姉様!

一方で後編では、その2人の「リアル」が描かれます。真面目系の女の子はギャルの女の子に頼んで、キレイになるために服や化粧品を見繕ってもらっていたようです。清楚な女の子の可愛さに、ギャルの女の子もつい魅かれます。

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しかしギャルの女の子は見てしまうのです。清楚な女の子が、自分が好意を寄せる男と親しげに会話しているのを!そして……。

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「アタシが選んだ服とアタシが教えたメイクとアタシがあげたアクセつけて 日曜にアタシが狙ってた男とセックスするんだ…」

 

ああああああああああ!!!!!!異性愛から逃避するために心がまなざしていた関係は、皮肉にも異性愛のために引き裂かれてしまうのです!!!!アタシが選んだ服とアタシが教えたメイクとアタシがあげたアクセつけてアタシが狙ってた男とセックスされるその気持ち、わかる~~~。(引き裂かれる友情にマゾヒスティックに感情移入して気持ち良くなるオタク)

 

しかし物語はこれでは終わりません。1話の最後は、心の親友・雨海の部屋で幕が閉じるのですが、その部屋には、心を描いた大量のスケッチが!

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まなざす主体であった心は、実はまなざされる客体でもあった、というどんでん返しで幕切れ。愛の重すぎる百合、たまりませんね。。。愛の重すぎる百合を濃縮して静脈に注射したい。。。。。

 

という感じで、前編でぽわぽわな百合→後編でヘビーな人間関係のリアル +α、という物語展開で、百合の波状攻撃を仕掛けてくるのです。もちろん読み手は死にます。

 

 

あと注目すべきは、ジェンダーに対する問題に切り込んでいるところ。例えば主人公の動機は言ってみれば家父長制と異性愛規範の抑圧からの解放にあるわけですが、それは話の端々で主人公に襲い掛かります。望まない結婚、幸せの押し付け、女らしさの強要……。自分はこういうのにマゾヒスティックに感情移入しながら「やっぱ社会クソやな」と中指を立てるのが好きなんですが、他にもレズビアンへの偏見と向き合ったり、大人と子供の権力関係を描いたり。こういうところを意識的に取り上げてくれる作品が、僕は好きです。

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そして、これに関連して話を広げると、この作品は虚構と現実、書き手と受け手が入り組んで展開する物語であるが故に、結構「百合」という文化、あるいは女同士の関係を描く物語を捉える上で、論点となり得るポイントを提示していると思うんですよね。例えば、

・なぜ私は百合を読むのだろうか?

・他者を一方的にまなざすことへの暴力性とどう向き合うべきなのか?

・女同士の親密性は異性愛規範に分断されるしかないのか?

・表象は現実(百合の場合、特にレズビアン性)とどう向き合うべきなのか?

そんなことを考えながら、この作品を読んでいました。

そして個人的には、やはりこのようなことを考えるべきなのではないか、と思います。特に百合の場合、同じ同性同士の関係を描くBLに比べて歴史も浅く、研究や論説も比較にならないほど少ないです。故に、百合を愛でる(「百合に没入せよ!」)のはもちろんのこと、しかし時に百合と距離を取り(「百合を解体せよ!」)、そしてテクストだけではなく読み手である自分自身にも目を向ける(「百合を見る己を見よ!」)ことが必要なのではないでしょうか。「百合」というジャンルををテクスト・読み手・社会と密接に関わる「文化」としてとらえ、多様な視点をもって「研究」する。百合文化研究会が、そのような場所であればと思っています。

 

というわけで、『ゆりでなる♡えすぽわーる』の紹介でした!

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