【百合文研×ゼロ研】「まどマギ」座談会①心中と百合とゼロ年代

5月某日、百合文化研究会はゼロ年代研究会と合同で、『魔法少女まどかマギカ』の鑑賞会を行いました。
その時に、「まどマギ」の感想を語り合う座談会も行いました。その様子を、何回かに分けてお送りしたいと思います。初回となる今回は、アニメ10話、まどかとほむらの「心中」ともとれるような絆の表現を手掛かりに、アニメにおける二人の関係性を、ゼロから百まで語りつくします!

 

登場人物 

レニ【レニ】:百合文研の立ち上げ人。百合がなんもわからんになっている。 

ちろきしん【ちろ】:テン年代に裏切られ続けた絶望から魔女になり、ゼロ研という結界を作った。 

146B【いし】:百合文研の一番槍。漫画評論サークル会長の弁舌やいかに。 

だち【だち】:百合文研の参謀。百合漫画だいたい持ってるマン。 

すず湯【すず】:百合文研にして座談会の紅一点。「まどマギ」のカバンで参戦。 

ゆぅら【ゆう】:ゼロ研からの刺客。哲学とセカイ系に領域展開。 

やまぴ【やま】:ゼロ研からの刺客。ゼロ年代の魔女の使い魔。 

 

 

 

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【レニ】今日は来ていただいてありがとうございました。百合文研のレニと申します。教育学研究科の修士1回生です。百合作品に対する興味があって、百合文研という会を立ち上げ、そこで勉強させてもらっている身です。「まどマギ」は話には聞いていたのですが見たことはなかったので、ぜひ見ておきたい作品でした。よろしくお願いします。 

【ちろ】ゼロ年代研究会のちろきしんと言います。文学部の4回です。今まで僕が生きてきた時代はテン年代だっていう認識があるんですけど、テン年代アキバ系サブカルチャーに全然馴染めなくて、ずっとゼロ年代のオタクをやってきた人です。どうして自分はゼロ年代が好きなのか、どうしてテン年代に馴染めなかったのかゼロ年代テン年代の違いが僕の中の強い問題意識としてあります。「まどマギ」はちょうどゼロ年代テン年代の境目だろうという作品なんですけど、中学生くらいの記憶でしか覚えてなくて見返してもう一回解釈し直さないといけないという気持ちがあって参加しました。お願いします。 

【だち】理学部4回のだちです。百合文研として来ました。「まどマギ」については有名な作品で見たいと思ってたんですけど、性格的に一歩踏み出すのが面倒くさくなってしまって、こういう機会があるから乗ったという感じです。漫画版を5年くらい前に読んで、大まかなストーリーだけわかってるという感じです。作品自体に触れたのは5年ぶりアニメに触れたのも初めてです。 

【いし】理学部2回生の146Bです。所属は百合文研です。よく「百合姫」作品を読んでます。「まどマギ」は多分45年前、大晦日の一挙放送で見ました。おぼろげな設定しか覚えていなかったので、今回はすごく面白く感じました。参加した理由とすれば、百合文研の企画には大体参加しようと思っていたからです。 

【やま】教育学部2回のやまぴです。一応所属はゼロ年代研究会になると思うんですけど、あまりゼロ年代について分かってなくて、知りたいと思って入りました。「まどマギ」は中2の時に借りて見たんですけど、とにかく凄かったってことだけ覚えててそこから他のアニメを色々見たという思い出深い作品です。今回見直してみて、いろんな人の話を聞きたいなと、百合文研の人たちの話も興味があったので参加しました。お願いします。 

【すず】総人1回のすず湯です。「まどマギ」を最初に見たのは小5の時兄弟が映画版を借りてたのをたまたま見て、すごいショックを受けてしまって、頭から離れなくて1ぐらいの時に自分で全部見てめっちゃ好きになってしまったっていう感じです。今回参加したのは、劇場版の続編も決まったことだし、もう一度見て自分の考えを整理したいなと思って来ました。 

【ゆう】ゼロ年代研究会所属のゆぅらです。あの「まどマギ」本編は数えるのを諦めるほど見ました。一挙放送とかやるために見たりとかして。「叛逆」は3回ぐらいしか見てないからあんまり……。 

【レニ】3回も見てるのか……。十分すぎるのでは? 

 

アニメ10話における「心中」と、ゼロ年代と、百合 

 

【ゆう】次への橋渡し的に話を続けると、心中の表現が面白いなと思った。ていうのは、10話でまどほむが死ぬとき、ほむほむがまどかに「一緒に世界を壊そうよ」って言うんですよね。あれがゼロ年代研究会的に言うと『天気の子』的というかセカイ系的というか内的自閉的世界の愛によって世界を壊してくスタイルが現れている。ほむほむは「この世界は苦しみに満ちていてどうしようもない世界だ」っていう風に言うんですけどそれは山内志朗のいう、セカイ系におけるグノーシス的感覚、世界は悪に満ちているっていう感覚。でも「まどマギ」では、それがまどかによって否定されるんですよね。想い人であるまどかはどうしようもない世界なんだけど守ろうとした。ここにセカイ系的なものグノーシス的なものの乗り越えが見られるなと。旧約聖書において神は、世界はよさみであるみたいなことを言ったけど、この世界が悪に満ちているというゼロ年代的な価値観がほむほむだとしたらそれを乗り越えるものとしてのまどかがある。ほむほむにとっては世界はどうでもいいんだけどまどかがこの世界は守りたいって言ったから守る。そういう乗り越えがあるなあって思いました。ゼロ年代的な構想力が拒否されている。 

【レニ】あ、じゃあ心中の話からまとめておきますか。心中座談会。 

【ちろ】ちょうど話題に出たしね。 

【レニ】僕は世界を壊して欲しかったですけどね。 

【やま】壊して欲しいっていうのがやっぱりゼロ年代的な感じというか、それこそ天気の子みたいな感じですよね。でも結局アニメの結末でまどかは世界の一部になる。世界とまどかが直接繋がってるから逆のことをやってるけどセカイ系的じゃないんですか? 

【ちろ】ゼロ年代が個人と世界が繋がってテン年代が個人と社会が繋がってるという見方は、雑だけど、いろんな作品を説明できるフレームだと僕は思ってる。だからやまぴくんが世界と繋がってるのがゼロ年代ぽいっていうのは正しい視点なんじゃないか。

【ゆう】いや僕は逆に、まどかは世界をと繋がることをある種諦めたと思ってるんです。いや繋がってるんだけどね。虚淵さんはまどかを「外部」として描いてると思うんですよ。人間的なものではないものとしてすべてのシステムの外にあるからこそ、もはやシステムから排除されているんですね。だけどほむらがそれを信じているという構造で、我々もほむほむの立場に立って見ている。ゼロ年代的な構想力だったら、直接我々がまどかになると思う。だからやっぱりちょっと違うな。 

【やま】まどマギ」の結論がゼロ年代じゃないっていうのはそうだなと思うんだけど、そこに至るまでのプロセスがゼロ年代的なものを経てから乗り越えるんですねまどかが世界と関わってそこの一部になるというやり方はゼロ年代的なのに、その先にあるものはそこを乗り越えたっていう。 

【ゆう】あとやっぱ、どうしようもない生の肯定というか、いかにしてこのクソったれた世界を守るかっていうところだと思った今回見返して。 

 

【いし】僕は10話の「世界を壊す」のところ、二人とも死ぬ運命になったから、死んだ後も一緒にいようよという意味で捉えた。あー百合だなって。 

【ゆう】いいっすよね。 

【いし】死んだ後も一緒にいようという感情、クソデカで良くない? 

【やま】良い 

【レニ】心中は女同士の絆の伝統的なモチーフだと思うんですよ。それこそ戦前の女学校の世界から。女学校の世界は閉じられた空間で、当時の良妻賢母的な規範から唯一逃れられる場所だったんですけど、その世界を永遠のものにするために二人で死ぬということがしばしばあった。それのイズムは感じましたよね。 

【いし】でも女学校の実践は二人だけの世界をそのまま保持するためであって、これとは違いますよね。 

【レニ】そう。だから「世界を壊そうというのがすごい良いんだよな。既存の文脈だったら心中って世界からの逃避だと思ってたんですけど、「まどマギ」では直接、世界に中指を立てる 

【ちろ】僕は世界の破壊と自殺ってほぼ同義に捉えられるんじゃないかって思ってて。例えば『Sence Off』っていうエロゲで、未来予知できるヒロインが、一週間後に世界が終わるって言うんです。でも実際はその予言は実現しなくて、その少女は予言の時刻に死んでしまう。少女から見れば自分の死は世界の崩壊に等しいんですね。世界を壊すっていうのは社会に対する反逆っていう意味でも主観的に自殺してる側から見た視点っていう意味でもやっぱり自殺と世界の破壊は密接につながってるんじゃないかと思いますね。 

【レニ】内的な世界が主観的な観点からしたら外的な世界の破壊と同義であるというのはまあそうだと思うけど、この場合は違うのでは 

【ちろ】自殺って周りの人にダメージを与えるんで、世界を破壊してるんですよ。自分が欠けることによってダメージを負う人っているじゃないですか。まどかも命を投げうってほむらを助けに行こうとする時に、お母さんが「あなたの周りの人のことも考えてよ」みたいに言ってる。自殺するっていうのは自分の周りの人を攻撃するっていう意味もある。それはつまり社会への攻撃でもあるし、社会に対する一種の反逆なんですよね。だから心中というのはやっぱり二人で世界を壊しちゃおうかという発想と近いものだと思ってる。 

【いし】心中というと、別の話で、杏子が魔女化したさやかに「ひとりぼっちは寂しいもんな」って言って心中するじゃないですか。あれには今の話は当てはまらないと思うんですけど。あれは周りを攻撃するものではなくてさやかをある種抱擁するようなものじゃないですか。あれはどう解釈してます? 

【ちろ】ほむらとまどかの心中は、二人なら世界を破壊できるという発想だけど、でも杏子の場合は若干ずれててなんつうかな……解釈できてないな。 

【ゆう】テクストベースで考えると、杏子はもしかしたら心中じゃなくて、むしろ自殺かもしれないですね。もちろん杏子側はとしては心中だけど、そこにさやかとの合意がないわけでそれはまどほむの心中議論とはちょっと位相が異なる感じがする。 

【レニ】心中となるとそこに関係が生じるから議論はずれてくる。すず湯さん何か言いたそうですけど。 

【すず】私が思ったのは、ほむらの解釈では世界を破壊するのが反逆っていう話なんですけど、世界を破壊しても社会には反逆できてないのかなと。インキュベーターは地球が滅んでもどうにもなるわけじゃないですか。システムはまたどっかの場所で変わることなく続いてく。それを変えることはできてない。 

【やま】ほむらが心中しようとしたときは、まどかと一緒にいたいからっていう強い意志があったというよりは、折れかけていたというように見えたんですよね。心が本当に折れて、自分がそこで終わったからってインキュベーターの支配が終わる訳でもなくて、何も解決しないって分かってるけど、それでも踏みとどまれなくなって出ちゃった言葉だったと僕は捉えてるんですけど。 

【ゆう】ほむらちゃんは絶対壊したかったと思うんだよな世界を。 

【だち】自分は諦めというかシステムから逃れられないなら最後に好きなことをしよう、このクソみたいな世界の破壊を破壊してやろうという感情であって、それにまどかを道連れというか、逃避行に連れ出そうという意味もあったんだと思ってます。 

【やま】逃避行っていいな~。 

【ゆう】わかる。逃避行いいよな。 

【ちろ】逃避行はゼロ年代

【レニ】ゼロ年代なのか? 逃避行は百合では? 

【やま】百合じゃないぞ。 

【レニ】百合じゃない!? 

【やま】逃避行がどっちのものかっていう争いが始まった。 

【レニ】個人的には逃避行にすごい百合を感じるんですけど、ゼロ年代なのか……。

 

【ゆう】システムからの解放っていうのは確かに、女学校の永続、良妻賢母規範からの逃避と重なるところがあるよね。その筋でいくとレニさんとかどうですか。 

【レニ】9話まではシステムとの関わりを新自由主義的な、個人の闘争と資本主義の総取りのイメージで見てたんですけど、10話以降を見るとやはりジェンダーの話だなと思いましたね。9話まではそこまで魔女システムとジェンダーの関わりが描かれてなかったですけど10話以降に、女の子たちが希望を持って世界を変えようとして、でも結局魔女として社会に潰されてしまう、それをまどかが救済するみたいな話になって。完全に男性中心社会批判と女性の連帯の話じゃないですか。 

【ちろ】絶望するさやかの前でホストの話出したところとかも、露骨にジェンダーの問題提起がされてますよね。 

【レニ】あと結末で、魔女が消えて魔獣のいる世界になる。ジェンダー的なものが消えてるわけですよね。それはやはり、ジェンダーの抑圧からの解放がテーマなのかなって思ったんですけど。 

【ちろ】ほむらが社会の歪みが魔獣を生み出すと説明してるけど、魔獣は社会の象徴なんだよね。

【ゆう】当時の2chの影響だと思うけど魔獣おっさんだと思ってた。 

【いし】魔獣、おっさんに見えますよね。男に見える。 

【レニ】僕ははむしろ僧侶みたいな無性別的な象徴として読みとったけど 

【だち】あれは顔も肌も見せてないのでどっちともとれる気はする。 

【ゆう】確かに。 

【いし】百合的なものとゼロ年代的なものの共通性が見出せるんですかね。 

【レニ】システムに対して逃避してるのが百合なのかゼロ年代なのか。

 

【ゆう】百合的な感性を聞きたい。 

【やま】百合を教えてくれよ! 

【いし】僕は9話までは「まぁ百合かもな」程度だったけど、1011話で完全に「百合じゃんってなりました。僕は叶わないようなものが大好きなんですけど、希望が無いものをずっと追い求めてるほむらの姿がすごい好きなんですよね。徹頭徹尾、結局まどかの願いを叶えるためじゃないですか。あと最終話でも、まどかのいる世界に行きたいという話があったりとかして。 

【レニ】それは百合なんですか。 

【いし】百合ですよね。だってずっと一緒にいたいというのは、恋愛の成就みたいなものじゃないですか。でもそういった感情は叶え難いわけですよ。そういったものを求めているのが僕は凄い好きで。叶え難いもの、まどかとずっと一緒にいたいっていう感情を追い求めて、10話以降は描かれてるし、だからいいなっていう。 

【ちろ】146B君のいう百合性は、叶えられぬものを叶えようとするのが重要ってこと? 

【いし】まあ、そうですね。百合っていうのは、女同士の恋愛っていうのは、今となっては間違った価値観かもしれないけど、禁断の恋愛って言われるじゃないですか。そういう価値観が昔はあったわけで。自分はできないかもしれないし周りから何か言われるかもしれない、けど追い求めたいっていうのはあると思います。 

【レニ】それはなんか、例えば女同士の友情物語とかとは違う何かなの? 

【やま】僕が思ったのは、ほむらがまどかに出会って、割とすぐ好きになる盲目的というか、他の友達とかもいるはずなのに最初からまどかにいくじゃないですかまどかに行った理由も、最初に話しかけてもらったっていう。そこがやっぱり友情的なものでなくて、恋愛的なものを感じる。不合理じゃないですかちょっと話しかけてくらいでずっと時間を巻き戻して。仲良くした時間だったら家族とかも他の友達だってあるのに、とにかくまどか。絶対ほむらの感情にまどかへの恋愛っていうのが含まれてるなと言うのは感じました。 

【いし】一目惚れしてるよね。いやー百合だなあ。 

 

【ゆう】僕ね、暴論だったんだけどこの企画が立ち上がるまで、「ほむらちゃんはモテない男の子なんです」って主張してきたんです。ループものの主人公っていうのはまさに非合理な恋愛を求め続けちゃう男の子であることが多くて、そういう自己完結的な決して相手に振り向かれないようなモテない男の子の表象なんですっていうことを色んな所で言ってたんです。でも女の子なんですよね。そこが気になってる。 

【いし】ほむらはモテない男じゃなくて、箱入り娘のようなものを感じる。ずっと病院で入院してるわけだから、世間知らないようなウブな女の子なわけで。それがまどかという女の子と出会って変わってく。 

【やま】箱入り娘とオタクが一緒っていうことでもいいんじゃないの? 精神性は一緒っていうことだと思うんだよねそれは 

【すず】ほむらは最初のループは勉強も運動もできないっていう、ある種コンプレックスを抱えてるっていうのはありますし。最初の週でほむらって傍観者ですよね。最後の週のまどかと同じで。 

【ゆう】そうなんですよね。自分は何もできないっていう、『いなりこんこん恋いろは』1話的な女の子ができるようになる。そういう逆転が起こって、最終的にほむらが「まど化する。ほむら自身が憧れの女の子になるっていう、そこに百合の鉱脈を感じるんですけど。 

【レニ】百合の鉱脈…… 

【だち】百合の重要なところに憧れのものになりたいという思いがあると思う。最初のほむらはまどかに守ってもらってて守られる側から守る側になりたいって言ってるわけじゃないですか。だから自分自身がまどかに重なりたいという思いもあったんではないかと思うし。あと、最後に作り変えられた世界では、ほむらの武器はまどかが使ってた弓なんですよね。まどかの代わりにこれから世界を守っていくんだみたいなそういうのがあるのかなと。 

【レニ】同一化の願望に百合を感じている? 

【だち】はい。 

【ちろ】同一化の願望は重要なテーマ。さやかと杏子の話にも言えるし。 

【だち】それと、そのあたりに対してもう一つあって、ほむらは、出会って、やり直し始めてからずっと努力して、まどかを守る人になろうとしてたわけじゃないですか。でもそれが結局まどかの能力を増強する結果にもなっていた。努力してきた人が天才に抜かれてしまうパターンが入ってるんじゃないかっていうのを考えました。 

【いし】憧れている人に追いつこうと思っていたけど憧れの人はもっと先に入ってしまった感じ? 

【だち】そんな感じ。 

【ちろ】やっとまどかを守れるようになったと思ったら、結局自分がまどかに守られてしまう 

【だち】今までと同じだったっていう。 

【レニ】いやー百合ですね。 

【ちろ】 お前らどこにでも百合咲かしてんじゃねえよ! 

【百合漫画大賞2021レビュー④】わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)

こんにちは、前回に続き2回目の周回積分です。レビューの前に少し雑談を。最近Twitterでこんなツイート

を見かけまして…化学系の学科の私にめちゃくちゃ刺さりましたね。百合×化学…とても良い…今後化学の勉強が一段と楽しくなりそうです。

 

【第7位】わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?) (集英社) 著:みかみてれん キャラクター原案:竹嶋えく 漫画:むっしゅ

 それでは今回のレビューです。

 『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)』(以下わたなれ)は、高校デビューを果たした女の子が学校で一番の美少女王塚真唯に告白をされたが、友達としての関係を維持したい主人公は、ある日は「親友」として、ある日は「恋人」として過ごして互いにどちらのほうの関係が良いかをプレゼンし合おうと提案され…とお話が進んでいきます。

 

この漫画はみかみてれん先生著、イラストが竹嶋えく先生によるライトノベルが原作です。特筆すべきはこの作者陣。百合オタクにめちゃくちゃ刺さる原作のお二方。さらに『ふりだしにおちる!』や『先パイがお呼びです!』のむっしゅ先生が可愛い系の女の子がほかの女の子たちになつかれるというようなお話に向いてないはずがない!神…神…神の采配…(神コラボによって溶けていく百合オタク)

 

そろそろ話の内容に戻っていきましょう。先ほども述べた通りこの2人は、親友・恋人の良さをお互いにプレゼンすることになります。恋人として放課後に一緒に過ごしたり、親友として遊びに出かけてたり…互いにプレゼンし合う日々が続くがある日驚くべきことが判明します。それはお互いの「親友」と「恋人」に対する認識に齟齬があったこと。互いに自分の思う「親友」と「恋人」とはなにかを確かめ合ったところ、自分たちは違うものを見つめていたと思っていたのですが、実はその中身は一緒だったのです。初めて読んだときはこの目新しい描写で声が出ましたね…友達以上恋人未満が好きなオタクとしてはこれがものすごく刺さります。

 

他にも印象的だったのは主人公は友達から言われた「好き」という言葉が友達としてのものであるはずなのに、恋愛的なものに聞こえてしまう場面。これは王塚真唯の影響もありますが、女性同士の関係性が連続的であることがあると思います。

 

男性同士の場合は「友達」と「恋人」の間がはっきりと分かれているのに対し、女性同士の場合、その間は連続的であると思います。「手をつなぐ」という行為について考えればわかりやすいでしょう。男性同士では友達同士で手をつなぐということはあまりないですが、女性同士の場合はあり得ます(高校生なら尚更)。この連続性が親友と恋人に対する認識の齟齬の一因ともいえます。

 

王塚真唯とのあれこれがどうなるか、さらには主人公とその友達との間にもなにかありそうです。このあたりも今後の展開が期待されますね…以上、『わたなれ』のレビューでした!

 

(by周回積分

 

【百合マンガ大賞2021レビュー③】ふたりエスケープ

自己紹介

初めまして、京都大学百合文化研究会の周回積分です。まずは軽く自己紹介を。私は京都アニメーションのファンで、アニメ版の『響け!ユーフォニアム』を観て「なかよし川」のカップリングにはまり、そこから百合の世界へ入っていきました。このことからもわかる通り、「友達以上恋人未満」の同年代の女の子たちの関係が好きです。百合作品に限らずどんな創作もぼんやりと「面白いなー」と楽しんでいて、そこまでガチな考察などはあまり得意ではないので、このレビューは温かい目で見てくれるとありがたいです。

 

【8位】田口囁一『ふたりエスケープ』(百合姫コミックス)

 

それでは今回のレビューです。

この作品のテーマを一言で表すなら「現実逃避」。シェアハウスをしている、しょっちゅう締め切りに追われる漫画家がその先輩(無職)のアドバイス(?)で現実逃避をするというお話です。漫画を描くのがつらくなって、文明の利器を封印したり、締め切り直前で旅行に行ったり…と、様々な「現実逃避」を見せてくれます。

 

百合姫の連載ではありますが、百合は少なめでギャグ要素が多めです。体感としては『ゆるゆり』くらいの比率ですね。ギャグ部分は突拍子もないことをポンポンとやっていくので、軽快でとても読み進めやすいです。また、ちょこちょこギャグを小出しにして、最後に張った伏線を一気に回収する構成は『ゆるゆり』を彷彿とさせます(私があまりギャグマンガに詳しくないのでそう見えるだけかもしれませんが)。この伏線の回収の仕方と、最後のオチが次の話につながっていくあたりは、ストーリーの構成が非常にうまいです。

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シュールなネタがちょこちょこ入っているのも面白い

田口囁一『ふたりエスケープ(1)』(百合姫コミックス)

 

前にも述べた通り、この作品は百合要素が少なめです。しかも2人がどうしてシェアハウスをしているのかがわからないだけにおさまらず、登場人物の名前すら出てきません。この中からどうやって百合見出してレビューを書けばいいのか、わからん!私はどうすればいいんですか!ああああああ!となっていました。

 

ちょっと落ち着こう。作中の百合要素と言えば漫画家がちょっとくさいことを言って先輩が顔を赤らめたり、漫画家が先輩の絵を先輩に見られて恥ずかしがったりと、まあ普通に友達間でありそうな反応…いやそうなのか?「先輩がいれば絶海の孤島でも楽しくやれそうです」って友達に言われて顔を赤らめたりするのか?ただの友人とシェアハウスをするのか?これもしかして私の大好きな「友達以上恋人未満」なのでは?あぁ…好き…(好きな百合を見つけて砂となって消えていくオタク)。

基本的には友達同士で馬鹿なことをしているが、ときたま友達以上のような描写が入っていたり…さらには2人の名前や過去のかかわりが隠されていたりして読者側にいろいろと想像の余地が残される内容となっています(妄想がはかどる~!)。

 

このあたりで私の語彙力の限界が来てしまいました。これ以上書くとネタバレになりそうなので、私からは「ぜひ読んでください!」としかいうことがありません。拙い文章でしたが、ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

 

5/4のオンライン例会でした自己紹介てきな話

会員No.146です。別に会員が146人いるわけではない。

 

題名の通りに5/4がオンライン例会だったのですが、その際の企画が「私を構成する百合漫画」でした。もはや自己紹介に近い内容でしたし、その内容(というかその時に用いた箇条書きのメモ)をブログにするのも悪くないと思ったのでこの記事を書いてます。

 

要は自分語りなのですが、よろしくお願いします。

 

 

NEW GAME!

百合そのものを主題にしたものではない ので厳密に百合作品ではないのですが、私のかすかな原点ではあります。

  • 単純に新鮮だった
  • それまでアニメで触れていた男女の恋愛関係はない
  • それまでの推しのできかたかは恋する少女に対してであったが、その作品での推しのできかたは他と違う。ただキャラが可愛い。
  • そのときの女の子の可愛いは恋をしているときという思いこみ→ペアが作りたい
  • 男と……それはない。作品の中に男がいないから実感もない。
  • そこにある女性同士の関係性のみに求めるものが……ある……??
  • 可愛い女の子だけでよくない??(百合の間にはさまりたさそうな男の思想)

今も萌え豚の精神はかなり残ってますが、この頃からそれらしい精神がありますね。

当時好きだったキャラクターは「星川ほたる」という女の子だったのですが、5巻くらいまでの間になにかしらのカップリングが公式から供給されるわけではなかったし、恋愛描写もなかったので、妄想するしかなかったわけです。私にそんな力はない!!

それとNEW GAME!に百合描写が完全に無いわけではなく、一部には作者が意図した百合が 描かれていたりします。そこら辺に種が撒かれていたのでしょう。

 

以上が中学生のころの話。

 

高校時代に好きだったゲームの二次創作から

バンドリ! ガールズバンドパーティ!

  • 有名な音ゲー
  • 好きなキャラでカップリングを作って楽しむというもの
  • ただ当時の友人がすごく好きで百合で二次創作していたのは印象深い(私も感化されて少しした)

アイドルマスター シンデレラガールズ

これも結構有名な作品

THE IDOLM@STER CINDERELLA MASTER 024アナスタシア

  • アーニャ/アナスタシアが担当(アイマスでは推しのことを担当を呼ぶ文化がある)
  • デレマスは無限にキャラがいるから無限に関係性が存在する
  • 実は初めて同人誌を買った作品だったりする

その時に好きだったカプの話もしてますね

 

 

  • 新田美波×アーニャ(アナスタシア)
  • 通称:新田ーニャ
  • なぜ好きだったのか→わからん
  • アニメでユニット組んでてたからだろうね
  • これは好きなキャラがいるから好きなカップリング

上には書いてはいませんが、買った同人誌はそのカプのものです。

 

 たとえとどかぬ糸だとしても

たとえとどかぬ糸だとしても: 1 (百合姫コミックス)
 
  • これは私の性癖を形作る作品のなかでも特に影響がでかい
  • 主人公の鳴瀬ウタは既婚者の人を好きになる
  • その初めから叶わない恋を描いた作品
  • すごい美しく、綺麗なのでオススメです。

これが私が初めて読んだ百合姫の作品です。そして百合作品が好きにだと公言するようになったのはこの作品以降です。

  • いろいろと漫画を買うようになったけど、結局百合漫画はそれだけしか買ってないな……その後は人から借りて読むくらいのことしかしていなかった…
  • 『裏世界ピクニック』、『やがて君になる』、『魚の見る夢』……
  • そういう風に百合作品を読むというか、百合姫の作品を信じてそこらへんを中心に読んでいった

というには大学生になった後の話ですね。

 

 

 私の推しは悪役令嬢

  •  作品の内容について(なろうにあるその作品のあらすじから引用)
    • 乙女ゲーム「Revolution」の世界にヒロイン、レイ=テイラーとして転生した社畜OL、大橋 零。彼女の推しは攻略対象の王子様たちではなく、悪役令嬢のクレア=フランソワだった。クレアのいじわるを嫌がるどころか嬉々として受け入れるレイ。巻き込み系主人公が送る、異色のラブコメの始まりである。こじらせた愛をレイに向けられた悪役令嬢、クレアの明日はどっちだ?
  • コミック百合姫でコミカライズが連載されていたので興味を持って読んでみたらすごく面白かった
  • 主人公は自身をレズビアンだと自覚している
    • そしてそれなりの恋愛観を持っている
  • 「茶化さないとやっていけないんですよねー」というセリフがあり、態度に一貫した理由がある
  • 主人公は好きになった相手が異性愛者であり、実りがないのを知っている
    • 叶わないことを前提とした恋愛
  • 上のような諦観した恋愛観と向き合って成長するのが本作
  • 第1部を第2部に分かれていて上のような趣旨のが1部にあたる
  • それと、雰囲気でなくストーリーそのものが面白い
    • 百合漫画は雰囲気で好きになるものもかなり多かったため

この作品に関してはまた一通り読んだらブログを書きたいですね。終わったの今年の話だったかな……まだ最終話まで読む元気が起きなくて……

 

  • この作品の後にいろいろと文字媒体の百合を読んだりもした
  • みかみてれんの作品とかそこらへんにあるネット小説とかも読んだ
  • 結城十維『ふつおたはいりません』がかなり良かったのでオススメです
  • ストーリーが1巻で区切られているわけでしっかりしていて面白いのが多い
  • しかしながら、叶う恋愛ばかりであまり刺さらなかったなぁ……

結局、女と女の悲恋が正義なのよ。

 

 きたない君がいちばんかわいい

  • この作品は基本的に際物で、体液がしょっちゅうでてきたりする

  • 本質は3巻の内容になって関係性が反転しはじめてからすごい面白い

  • 黒い女の子がひきこもったりしはじめる。DVのような関係性に依存しはじめる

  • そういう邪道を行く関係性に惹かれている 

すでにネタバレしているようなものですが、これ以上語ろうとしようとすると、さらに未単行本化の話もネタバレをしそうなので書かないでおきます……いつか完結したら全体の感想を書きなぐろう……

 

 踊り場にスカートが鳴る

踊り場にスカートが鳴る(1) (1) (百合姫コミックス)

踊り場にスカートが鳴る(1) (1) (百合姫コミックス)

 

  今一番好きな作品です。

  • 女性の中の男らしい、女らしいという偏見と反対側になりたいという感じ

  • 結局叶いがたいとかそういうのに惹かれているのかもしれない……

 叶いがたいよりも叶わないのが好きなんだよね。そんな作品に出会ったことないのですが。

 

古の作品に触れればありそうだなぁとがなってますが、絵をかなり重要視してます人間なので敬遠してしまいます。

 

 まとめ

悲しいね。私の好みは邪道ならしい……

さて本企画では会員の「あなたの百合はどこから」を聞くこともできたので楽しかったりしました。R18百合から入るもの、なんとなく手にとった『ゆるゆり』から入るものなど。

今後も活動の中でブログを書いていくと思ったので自己紹介を書いてみました。以上、会員No.146でした。

【百合漫画大賞2021レビュー②】一度だけでも、後悔してます。

とりあえず自己紹介と好きな作品

はじめまして。京都大学百合文化研究会のはたはたです。主に、漫画やアニメ、小説投稿サイト、ラノベなどで百合を摂取しています。やわらかい雰囲気の作品が好きな特に何も考えていない人間です(レニさんとは真反対ですね)。ただただ作品を読んで尊い…といっているだけなのでまともな紹介はできないかもですが、ご容赦ください。本題のレビューの前に一作ほど今推している作品を名刺代わりとして簡単に紹介させていただこうと思います。小説家になろうカクヨムに投稿されている「週に一度クラスメイトを買う話」という作品です。

kakuyomu.jp

女子高生が女子高生に対して大体一週間に一度5000円でその子の三時間と一つ分の命令をする権利を買うというのを基本として進んでいく物語です。いびつな形の関係からスタートしてお互い知らず知らずの間に相手への感情が重く、深くなっていく様子がじっくりと描かれているところが非常に尊いと感じます。

百合作品には、なくて評価が下がることはあまりないけれど、あったら確実に自分にとって良作となる要素があります(あくまで僕にとってです)。具体的には、双方の視点の均等な描写、百合をなす女性たちの女性っぽさ、社会へのメッセージ性の希薄さなどです。僕は百合作品を読むとき、そこにある出来事を追体験したいのではなく、そこにある二人の関係を二人のものとして感じたいので、二人の間の出来事やすれ違いの解像度を上げてくれるダブル主人公ものは非常に好きなものとなっています。また、百合は女性間の関係性の物語だと僕は思っているので、物語における女性性というものを双方持っている方が僕は好きです。現実には男らしい女性なんかもいるのでしょうが、物語(特に小説)では性別は設定よりも言動によって印象付けられることが多いと感じますから、そこの女性らしさという部分は重要なのではないかと思います。加えて、百合というものは女性と女性の関係性であるがゆえに、往々にしてジェンダーLGBTなどに言及せざるを得ない場合があります。しかし、このような問題は、恋愛の障害の一つでしかないと僕は思います。つまりは「ロミオとジュリエット」における立場の違いのようなもの以上にはなりえないと考えます。社会的な問題について過剰に言及することは二人の関係性を濃く描くに際してノイズとなることが多いので、これに対するメッセージ性の薄い物語のほうが僕は好みです。

以上のような僕にとってうれしい要素が全てこの作品には詰まっていました。2~4話ごとに主人公が交代することで双方の視点を均等に見せてくれますし、二人とも、当然方向性は違えども、女子高生っぽさ(時がたつと女子大生っぽさ)というものがあります(ここでの女子高生っぽさというものは現実でいうそれではなく、よく物語で描写されるような、物語的なそれです。)。そして、常に二人の関係性にフォーカスを当てていて、ノイズが気になることもありません。まぁ、そのような広い視点だけではなくそれぞれの描写なども本当にいいのですが、僕はそれをうまく言語化できないので、ここらで推し作品の紹介を終えようと思います。自分の知り合いの百合好きを見ているとジェンダー論に向かう人や、日常系のような萌えから入ってくる人など、いろいろタイプがいるのですが、これで僕は萌えのほうからやってきたジェンダーにがっつりとらわれている系統の人間だと示すことはできたと思います。

遅くなりましたが本題 9位「一度だけでも、後悔してます。」(電撃コミックス)

 

 夢破れて会社を退職し現在無職で家賃滞納中の小塚と、小塚の住むアパートの大家さんとの間の関係を描く物語です。家賃の催促に来た大家さんに対する小塚の「なんでもします」からの大家さんと一夜を過ごすところから物語は始まります。これだけだと某ネットミームを想起させられますが、決してネタ作品ではなくこの一夜のことも後々、小塚、大家さんどちらもの心を、意味を変えつつも縛るものとなっていきます。

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う~ん大胆

一夜を過ごした後、大家さんとルームシェアすることでこれからの家賃をチャラにしつつ今までの家賃滞納分を”奉仕”で返納するという提案を大家さんが行い、小塚と大家さんの二人暮らしが始まり物語が進んでいきます。ルームシェアをしつつ、奉仕を行う生活の中での、小塚の気持ちがだんだんと変化及び自覚的になっていき、大家さんとの関係性も変わっていく様子が全体を通してみられ、尊い作品です。

関係性としては基本的に大家さんは最初っから最後まで小塚のことが好きであまりぶれませんので、先も書いた通り小塚の心情変化が主なポイントとなってきます。最初からある程度気はあったのではと思いますが(酒に酔っていたとはいえ一夜を過ごすことができるのですから)、そこまで深くなく自覚的でない思いが、小塚の弱っているところを埋めていってくれる大家さんの存在によって、だんだんと大きくなっていく様子、それに伴って行動も意識的になっていく様子、とかが何とも尊い…。同居や”奉仕”といった少し変わった関係が気持ちの芽をすくすく育てている様子がいいですね。同じことを繰り返しているうえに語彙力喪失してますね…。

しかし、多くの人にぶっ刺さったであろう、大家さんのかわいさ、はこの物語の魅力として外せないでしょう。小塚大好きな子なんですけど、小塚が見ているところでは結構表情硬めなのに小塚が見てないところでものすごくデレた顔するところだったり、小塚を世話しつつも小塚に精神的に救われてたりと、しぐさや感情が本当にかわいらしいんですよね。なかなかスッと心を表に出さないけど、裏でかき乱されてる感じのキャラクターはかわいいと思います。

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小塚の前→小塚の見てないところ

他にも周りのキャラクターも魅力的ですし、こんなぺらいレビューでは良さを表現しきれてはいないと思うのですが、言語化能力が限界なものでこの辺でしめさせていただきたいと思います。最後に一言。くっついた後の甘い日常編も見たかったなぁ~。

追伸)女性を好きな女性としての悩みだったり、心の葛藤もしっかりと描かれているのでそういうのが好きな方にもおすすめです。

【百合漫画大賞2021レビュー①】ゆりでなる♡えすぽわーる

百合漫画大賞2021レビューリレー、開幕~~~!!

はじめまして。京都大学百合文化研究会のレニと申します。簡単に自己紹介すると、この会を立ち上げた張本人です。百合文研発足から約2週間、現在8人の会員と100人のTwitterフォロワーに恵まれ、無事上々の滑り出しを迎えることができました!ありがとうございます。

しかし、もっと百合の魅力を伝えたい!百合の魅力について語り合いたい!我々の活動を発信したい!ということで今日から自己紹介代わりのリレー企画「百合漫画大賞2021レビュー」を始めたいと思います。百合文研の会員が定期的に「百合ナビ」様の「百合漫画大賞2021」に入賞した作品を、10位から順に語っていきます!

というわけで早速。

 

【10位】なおいまい『ゆりでなる♡えすぽわーる』(COMICリュウ

 

主人公・駒鳥心は、「女の子とお付き合い」することを夢見る名門女子高の3年生。しかし彼女は卒業と同時に、親に決められた許嫁と望まない結婚をしなければならないことを運命づけられており、それに「死ぬのと同じこと」のように絶望しています。

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そんな彼女が自分を救うためにとった手段が、妄想。親友・雨海とともに街に繰り出し、女の子たちの百合ストーリーをスケッチブックに描くことで、彼女は自分の心を救おうとするのです。

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この作品の特筆すべき点は、その構成の巧みさにあります。1話が2部構成になっていて、前半で駒鳥心のカップリング妄想、後半で妄想された2人のリアルが描かれているのですが、そのギャップが凄い。例えば1話。前編で心は、電車の中で雑誌を読む、ギャルと清楚系の女子高生2人に、ゆりゆりぽわぽわな百合のストーリーを妄想します。もちろんハッピーエンド。心は満足のうちに電車を降りるのでした。

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素敵ですわお姉様!

一方で後編では、その2人の「リアル」が描かれます。真面目系の女の子はギャルの女の子に頼んで、キレイになるために服や化粧品を見繕ってもらっていたようです。清楚な女の子の可愛さに、ギャルの女の子もつい魅かれます。

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しかしギャルの女の子は見てしまうのです。清楚な女の子が、自分が好意を寄せる男と親しげに会話しているのを!そして……。

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「アタシが選んだ服とアタシが教えたメイクとアタシがあげたアクセつけて 日曜にアタシが狙ってた男とセックスするんだ…」

 

ああああああああああ!!!!!!異性愛から逃避するために心がまなざしていた関係は、皮肉にも異性愛のために引き裂かれてしまうのです!!!!アタシが選んだ服とアタシが教えたメイクとアタシがあげたアクセつけてアタシが狙ってた男とセックスされるその気持ち、わかる~~~。(引き裂かれる友情にマゾヒスティックに感情移入して気持ち良くなるオタク)

 

しかし物語はこれでは終わりません。1話の最後は、心の親友・雨海の部屋で幕が閉じるのですが、その部屋には、心を描いた大量のスケッチが!

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まなざす主体であった心は、実はまなざされる客体でもあった、というどんでん返しで幕切れ。愛の重すぎる百合、たまりませんね。。。愛の重すぎる百合を濃縮して静脈に注射したい。。。。。

 

という感じで、前編でぽわぽわな百合→後編でヘビーな人間関係のリアル +α、という物語展開で、百合の波状攻撃を仕掛けてくるのです。もちろん読み手は死にます。

 

 

あと注目すべきは、ジェンダーに対する問題に切り込んでいるところ。例えば主人公の動機は言ってみれば家父長制と異性愛規範の抑圧からの解放にあるわけですが、それは話の端々で主人公に襲い掛かります。望まない結婚、幸せの押し付け、女らしさの強要……。自分はこういうのにマゾヒスティックに感情移入しながら「やっぱ社会クソやな」と中指を立てるのが好きなんですが、他にもレズビアンへの偏見と向き合ったり、大人と子供の権力関係を描いたり。こういうところを意識的に取り上げてくれる作品が、僕は好きです。

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そして、これに関連して話を広げると、この作品は虚構と現実、書き手と受け手が入り組んで展開する物語であるが故に、結構「百合」という文化、あるいは女同士の関係を描く物語を捉える上で、論点となり得るポイントを提示していると思うんですよね。例えば、

・なぜ私は百合を読むのだろうか?

・他者を一方的にまなざすことへの暴力性とどう向き合うべきなのか?

・女同士の親密性は異性愛規範に分断されるしかないのか?

・表象は現実(百合の場合、特にレズビアン性)とどう向き合うべきなのか?

そんなことを考えながら、この作品を読んでいました。

そして個人的には、やはりこのようなことを考えるべきなのではないか、と思います。特に百合の場合、同じ同性同士の関係を描くBLに比べて歴史も浅く、研究や論説も比較にならないほど少ないです。故に、百合を愛でる(「百合に没入せよ!」)のはもちろんのこと、しかし時に百合と距離を取り(「百合を解体せよ!」)、そしてテクストだけではなく読み手である自分自身にも目を向ける(「百合を見る己を見よ!」)ことが必要なのではないでしょうか。「百合」というジャンルををテクスト・読み手・社会と密接に関わる「文化」としてとらえ、多様な視点をもって「研究」する。百合文化研究会が、そのような場所であればと思っています。

 

というわけで、『ゆりでなる♡えすぽわーる』の紹介でした!

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京都大学百合文化研究会、発足。

「百合」に、没入せよ。

 

「百合」を、解体せよ。

 

「百合」を見る、己を見よ。

 

 京都大学百合文化研究会は、京都大学の学生を中心に、漫画、アニメ、ゲーム、小説など、百合という文化を研究するために、発足した。

 では、なぜ「百合」という「文化」を「研究」するのか。結論を言えば、「百合とは何か」という究極の問いに挑戦するためである。

言うまでもなく、ジャンルはジャンルただそれだけとして存在しているわけではない。それを形成するテクスト群、それに参入する書き手・読み手、それを取り巻く社会的環境が無ければ、それは成り立たない。

「百合」もまた然り。故に「百合」を真に理解するには、ただ内部から愛でるのでも、ただ外部から評論するのでもなく、「百合」を人々の営みの総体としての「文化」として捉え、時には積極的に参入し、時には冷徹に分析し、時には一人の「百合」ファンとしての自己の在り様を確認せねばならない。

 

 京都大学百合文化研究会はそのような、「百合」に没入し、「百合」を解体し、「百合」を見る己を見ることのできる交流の場として在ることを目指している。さあ、「百合」の神髄を、共に探求しようではないか。