(編集責任:まっつごー・にじでん)
ごきげんよう。湖柳小凪です。
百合オタクでさえも想定していなかった『メタリックルージュ』『魔法少女にあこがれて』が2024年冬クールの覇権アニメの座をかっさらっていってから早いこと丸一年。2024年も気づけば折り返しをとっくに通り越す……どころかもう終わっていました。あけましておめでとうございます。
すっかり弊サークルの定番企画として定着した年末恒例企画「今年の『1コマ』大賞」、昨年から上半期/下半期に分けての年2回開催となりました。この記事はそんな「今年の『1コマ』大賞」2024上半期大会の模様をお伝えするレポになります。また、上半期の記事が出ないうちに下半期大会も終わってしまった(担当者も変わってしまった)ため、下半期の様子をお届けする次回の記事との前後編構成となっております。ぜひ続けてお読みください。
これまで同様、会員たちの選んだ強すぎる「1コマ」を楽しむとともに、今年度から新しくメンバーになってくれた新入生たちの個性豊かな百合への向き合い方の一端を、一足早く楽しんでいただけますと幸いです。
「1コマ」大賞とは?
本編に入る前に、初めての方もいらっしゃると思いますのでまずはこの企画の概要について簡単にご説明しましょう。この企画はずばり、会員が2024年上半期に触れた百合作品のうち、特に印象に残った「1コマ」を選んでプレゼンし、その中からサークルとして最も「強かった」1コマを選出する、というもの。
1コマといっても、媒体は漫画に限らず、百合作品の一部ならそのメディアはアニメでも小説でも良い、として会員から「私の選んだ1コマ」を募りました。
さて、能書きはこれくらいにしてそれぞれの会員に熱い推しコマ・推しシーンを語ってもらいましょう。
それぞれの会員の「私の選んだ1コマ」2024年上半期
①CD の選んだ1コマ

『きみが死ぬまで恋をしたい』第6回百合漫画総選挙第4位おめでとう!!
トップバッターの私が紹介させて頂くのは『きみが死ぬまで恋をしたい』6巻および7巻からのコマになります。え?1コマ大賞なのに2コマ選んでるじゃないかって?こちら、元のコマをそれぞれ面積が1/2以下になるようにトリミングしたので2つ合わせても実質1コマです(迫真)。本当は7巻のキスシーン(右)を選びたかったのですが、このシーンを語るにあたりどうしても左のコマも紹介したかったのでこのような暴論を使わせていただきました。
本題の前に「き死恋」を読んだことのない人に向けてこの作品の特徴を手短に説明したいと思います。本作の舞台は人々が魔法を使えるファンタジー世界なのですが、なんと主人公であるシーナたちの住む国は隣国と戦争の真っ只中にあり、そして彼女の通う学校は戦争のための少年兵を養成するための施設なのです。シーナは戦争によって傷ついていく友人たちの姿を見、死と隣り合わせの世界の中で葛藤していくことになります。
苦悩するシーナが出会ったのがミミという少女です。ミミは見た目も言動もシーナよりずっと幼いですが、彼女もまた戦場に駆り出されて戦う少年兵の一人です。ミミがシーナにとって大事な存在になればなるほど、彼女が戦争で傷つかなければならない事実がシーナをさらに苦しませます。
さて、以上のあらすじをふまえた上で画像の左のコマ(6巻)を見てみましょう。詳しい経緯は省きますが、なんだかんだでミミがシーナにいきなりキスをします。突然すぎてシーナもまったく心の準備ができていなかったわけですが、これをきっかけにミミに対する気持ちを深く見つめなおすことになります。そして7巻ではその想いをミミに伝え、そのしるしとして再び、今度はシーナの方から、キスをしたのです。もう一度画像の2つのコマを見て彼女たちの表情の違いを楽しんでもらえたらと思います。
②ミジンコ の選んだ1コマ

2024年上半期の百合姫掲載の読み切り作品のうち、私はこの読み切りが白眉であると信じてやみません。
自分の人生を自分で決めるということ、それに悩む社会人の葵と、ふとしたきっかけで出会ったカンナの思いがけぬ一晩の物語を描いた読み切りです。どこまでストーリーに踏み込んでいいかわからないので多くを語れません。ゆるして。
それはさておき、コマの選出理由でございますが、これはまず第一に個人的に絵柄がとても良いと感じられたということがあります。これは何分重要なものでありまして、選出という個人の尺度の発露を含めたものにおいては避けられません。
さて第二の理由でありますが、それはこのセリフに関連しております。ここでカンナが言うところの「楽しいだけの寄り道」というものは、まず第一義的にはこの関係の儚さを表しております。無造作な物言いにはなってしまいますが、それで言えば行きずりの一晩というわけです。しかしこの一夜には「意味」があります。が、逆に言えばどれほどの意味があろうともそれは一晩の関係でしかないのです。大きな意味があるのだが、この一夜は享楽される儚いものであると、それだけの意味が詰まっております。
しかしこのセリフはそれ以上の意味も持っております。詳細はここでは語りませんが、ストーリーはこの一言に更なる重みをもたせることにもなるわけであります。
このように、百合姫の読み切りには様々な花が咲いておりまして、その花々との一期一会の出会いに賭けてみることもまた一興であります。今回取り上げさせていただいたこの作品もその好例でございます。皆様もぜひ百合姫の読み切りの世界に足を踏み入れてみてはいかがでしょうか。
③りんどう の選んだ1コマ

『リルヤとナツカの純白な嘘』より
恋は人を盲目にする、とはよく言ったものですが。
ビジュアルノベル『リルヤとナツカの純白な嘘』は、盲目の画家リルヤと、そのアシスタントである夏夏(ナツカ)が、依頼者の見る世界を変える絵を描く物語。夏夏はリルヤに代わって被写体とともに、そこに紐づいた依頼者のトラウマを見透し、依頼者が前を向けるよう伝える言葉を紡ぐ。こうして夏夏はリルヤの"新しい目"となり、リルヤは夏夏を通して見た世界を描き出す。
依頼者の抱えるトラウマはどれも過去の悲恋に関わるものであり、謎解きの要領で過去の真実を読み解くシナリオであるため、ミステリーに関わる部分は以下に(プレイしてから読んでほしい)。
※以下ネタバレ反転
序章で相対する最初の依頼(依頼者は女性)は、結婚を前に、学生時代の失恋に決着をつけるというもの。依頼者と、「婚約者」「友人」「過去の同性の友人」「過去の想い人」との人物関係を匂わせてミスリードを誘いつつ、これら全てが同一人物、すなわち婚約者は女性だという真実が明かされる。その後の各章でも、独占欲に苦しみ生き別れたカップル、姉妹とメイドの三角関係…とガールズラブ全開。有無を言わさぬ圧力で同性婚の実例を見せつけるプロローグに始まり、全編通じてガールズラブや同性婚を軸に展開されるシナリオで特濃の百合を浴びせられた。そして、だからこそ恋愛ではない形の関係性を見せてくれる主人公カプのリル×ナツが最高に映える。盲目というハンデを背負ったリルヤの絶望だけでなく、家庭環境によって夏夏の心に空いた穴も次第に明かされ、互いにかけがえのない相手であることがまっすぐな言葉で語られる終盤があまりにも美しかった。本当にありがとうございました。
※以上ネタバレ反転
そんなこんなでリルヤと夏夏が自分たち自身の問題を解決したのち。私の選んだ1コマは、パーティーの席で登場するカップルが思い思いにイチャつくなか、煽られてキスを交わすリルヤと夏夏。
「私にとってお前からもたらされる『光』は、誇張なく生きる希望だ」
「リルヤさんがわたしの世界の中心で咲く花なんです」
作中で恋人同士ではないと語られるものの、互いに失ったものを補い、一人では知りえない希望を与え合うという、恋愛よりも美しいなにかに結ばれた二人が交わす口づけ。この関係性を百合と言わずして何というか。
百合かな?→百合だ!というカタルシスが心地いい本作品。百合ノベルゲームの入り口にいかがでしょうか。
④うらん の選んだ1コマ

「謝らないで。あなたは、そのままでいいの。
困っている子を放っておけない、優しいまゆのままで」
えぇ~~~~~~っ!? あの謎の美少女の正体がユキちゃんで、しかもキュアニャミーだったなんて~~~~!!
……という茶番はさておいて。こちらの一コマは、『わんだふるぷりきゅあ!』第17話のワンシーンです。
キュアワンダフルである犬のこむぎと、その飼い主でキュアフレンディである犬飼いろは。その友達・猫屋敷まゆは、ガルガルになってしまった動物たちを助けてまわる二人と一緒に行動することも多く、しばしば危ない目に遭うこともありました。そんなまゆの前に現れては「これ以上かかわってはダメ」と告げる謎の美少女。その正体こそ、まゆの飼い猫・ユキでした。
17話では、危機に瀕した子ガモを助けてガルガルに襲われそうになったまゆを、ユキが現れて庇います。
「しょうがない子ね……。言ったはずよ、これ以上かかわってはダメだって」
こう告げるユキはしかし、愛おしそうな微笑みを浮かべ、冒頭のセリフを口にするわけです。
まゆに危険な目に遭ってほしくないユキは、プリキュアやガルガルに関わらないよう繰り返し忠告をしてきました。でもユキもまた、そのまゆの優しさに救われてここにいる。
だから、その優しさを肯定したこのシーンは、ユキとまゆの関係を肯定し、「その優しさのせいで傷ついてしまうのなら、私が、あなたを守る!」と、新たな関係へ向かう未来を提示した重要なものとなるのです。
二人が互いに向けるクソデカ感情は、日曜朝に摂取するには贅沢すぎるカロリーの百合といえるでしょう。未視聴の方はぜひ。
⑤おーちゃん の選んだ1コマ

『D』より
おきぬ先生作『D』からの1コマ。百合作品では珍しいDom/Subユニバースの世界線。Dom/Subユニバースそのものについては字数の都合上、ピクシブ百科事典などを参照してほしい。
さて、ここでいきなりの性癖発表だが、私はSMを愛してやまない(ちなみに私はMだ)。中2のころからなので、かれこれ6年ほどSM作品に触れてきたが、最近理想のSMについて考えるようになった。巷にあふれるSM作品はSMを演じている節がある。これでは本当のSMとは言えない。「S、Mという特性を潜在的に持ち、自然と行う言動が意識せずともSMになっている」、これが私が考える理想のSMである。Dom/Subユニバースは見事にこれを満たしている。Dom、Subという潜在的な性質を持ち、Command、Glareといった特性が自然なSMを成立させている。
そんなこんなでDom/Subユニバースが好きな私だが、『D』には特別心が惹かれた。というのも、『D』は少し変わった設定をしているからである。多くのDom/Subユニバース作品はDomが攻め、Subが受けをするところ、『D』ではDomである薊下澍理がネコを、Subである梫木山和芛がタチの性的指向を持つ。この性別と性的指向のズレによるギャップがたまらない。
ここで1コマを見てほしい。これは梫木山が薊下に向けて話しているシーンであり、「ご主人様」はふたりのSafe wordである。梫木山の体には噛み痕や擦り傷、痣があり、Subとしての一面が明確に示されている。その一方、Subの口調・内容であるがSafe wordを使い薊下にダメージを与える気満々のセリフ、赤く染まった頬、鋭い目線がタチの一面を示している。梫木山の二面性、ギャップを表現しつくすこの1コマ、素晴らしい以外の言葉が思い浮かばない。
ぜひとも『D』を読んでDom/Subユニバース、ギャップの魅力に取り憑かれてほしい。
⑥こぅせー の選んだ1コマ

『夜のクラゲは泳げない』11話より
「不幸は我々に真の友人を教えうるという長所がある」ーオノレ・ド・バルザック
『夜のクラゲは泳げない』の主人公のイラストレーター、ヨルこと光月まひるの親友は人気Vtuver、竜ヶ崎ノクスこと渡瀬キウイ。二人は中学で別の学校に進学することになり、紆余曲折あった末にキウイは学校の人間関係が理由で不登校になってしまった。その後Vtuberとなり、まひると再開して「JELLY」の一員として活動をしていたキウイは「身バレ」に遭い、彼女の元には過去を知る同級生たちから大量の悪口が届くように……。
まだ暗い過去を克服することができないと自身の葛藤を述べるキウイに対してまひるは彼女のすごさを力説、さらに「私の中でさん然と輝いているヒーローなのです!」と喝破した!!
普段は周りに流されがち、恥ずかしがりやのまひるがキウイのために自身の思いを叫んだまひキウを象徴する1シーンですが、上述の背景情報を踏まえてもう一度このまひるを見てみましょう。
どうですか…?
輝いていませんか??
輝いていますよね???
⑦月海 の選んだ1コマ

百合というジャンルにおける古典的名作『マリア様がみてる』の本編最終巻「ハローグッバイ」での1コマ、もとい一文である。
「令ちゃんのばか」はメインキャラクターである〈黄薔薇のつぼみ(ロサ・フェティダ・アン・ブゥトン)〉島津由乃さまが、幼なじみであり従姉妹であり姉(スール)でもある〈黄薔薇さま(ロサ・フェティダ)〉支倉令さまに対して怒り心頭に発した際の常套句だ。しかし、選出の場面での用法はそれまでのものとは少々異なり、かつ「マリみて」の中で最高の威力を誇る「令ちゃんのばか」となっている。
例会では逡巡の末、紹介のため上記のセリフが登場する場面までの経緯をダイジェストで説明した。しかし、前述の通りこれは30巻以上に渡った本編の最終盤での発言、つまり語るならば「マリみて」という作品の(黄薔薇姉妹周辺のみではあるものの)核心的なネタバレに触れること必至となってしまう。ゆえにここでは詳細を伏せておこうと思う。存じ上げている方は、心の内でサムズアップを返してくださると幸いである。
また、もしこの文章を読み「マリみて」に興味を持ってくださった方がいたなら、ぜひ原作なら『マリア様がみてる ウァレンティーヌスの贈り物〈後編〉』まで、アニメ版なら1期の最終話までを一つの目標にして触れていただきたい。そしてぜひ、「ハローグッバイ」で最高の「令ちゃんのばか」と、そしてその言葉が導いた事の顛末を、目撃していただきたい。
⑧湖柳小凪 の選んだ1コマ

はも『マグロちゃんは食べられたい!』2巻(2024年、芳文社)
【あらすじ】
マグロが大好きで堤防釣りが日課の少女・みさきの元に、キハダマグロから変身したという少女・まぐろがあらわれた! マグロに伝わる掟により、自分を釣り上げた「運命の相手」であるみさきに(物理的な意味で)食べられようとするまぐろと、それに振り回されるみさきとの新感覚お魚コメディ! (COMIC FUZから引用)
【相関図】

ではなく!

もう少し二人の関係性を解説すると、
▶まぐろはもともと人間に食べられる「被食者」。他の生物に食べられることを運命と受け入れる彼女らなりの理屈として「自分を釣りあげた特別な人にこそ食べられたい」という価値観を生み出した。
▶それに対し、人間のみさきは同じ時を一緒に刻み、積み重ねて「好き」になったからこそ、いつまでも隣で一緒に歩んでほしいと願う。
▶「同じことを願っている」(=互いのことが好きで、一緒にいたい)のに、種族が違うからこそ「分かり合えない」2人
と言う関係が、作品全体を通して描かれます。そのような二人の関係の終着点として、選出したコマがあります。
※この先作品の重大なネタバレがあります!
【選出したコマの状況説明】
まぐろとみさきは最終話前半まで考え方が平行線のままで進みます。けれど、互いに価値観の違いがあることを十分理解していて、自分の考えを無理に押し付けることのない、言葉にできない二人だけの独特な距離感がそこにはあります。
そしてほんの少し時系列が進んだ二人の「将来」が描かれる最後の4ページでは、みさきとまぐろが2人で 西武池袋線apogeego 電車に乗って新生活に向けて歩みだすところが描かれます。
他のカップリングの「今」を2人のいつもの掛け合いで語った後、まぐろとみさきはこんなやり取りをします。
まぐろ「……やっぱり新生活は不安ですか?」
みさき「いえ平気よ。だってアンタと一緒だもの。だから大丈夫。」
そして作品の本当に最後の最後に描かれた、車両の長椅子にみさき一人だけしか描かれていない1コマが、私の選んだ1コマです。
【選出したコマに関する考察】
このコマではこれまで確かに会話を交わしていたはずのまぐろが描かれず、みさきしか描かれていません。このコマが一体二人がどういうゴールに到達したということを表しているのか、作者から明言はされていません。
しかし私はこのコマはみさきはまぐろを(まぐろの望み通り)食べ、「一緒」になりながらも、幻肢のようにまぐろのことを幻覚していることを表しているのではないかと考えています。
その理由としては、
①食べて、融合することはある意味で「一緒」。
②作中の他の人間の少女×マグロの2組のカップルが一緒にいることを選んだのに対し、2組とは違う選択肢になりうる。
③みさきとまぐろは(もともとみさきがまぐろを丸ごと食べるためにマグロを釣りあげようと試みたこともあり)、どのカップルより食べる-食べられるという関係に向き合った。
ということが挙げられます。つまり、まぐろのことがみさきは「好き」だからこそ、最後にまぐろの意図を汲んで食べて一緒にいることを選ぶ……可能性もあると言えるのです。
皆さんはこのコマの、『マグロちゃんは食べられたい!』が私達に残していったものの意味を、どう考えますか? もしよければ、コメント欄で皆さんの考えも教えてくださいね。
【結果発表】
以上、上半期の一コマ大賞候補の様子をお送りしました。8件ものエントリーがありましたが、その中から2024年上半期「今年の1コマ大賞」に輝いたのは…………

『D』より(おーちゃん推薦)
【後編】下半期に続く>>>