【新歓布教blog 第7回】えぇ!?時代を越えるオムニバス形式台湾百合漫画の紹介を!?

 

できらぁ!!!!!!!!!

 

はじめに

というわけでいきなり大声挙げて申し訳ございません。京大新一回生の方々は本当にご入学おめでとうございます。あっしはこぅせーと申しまして、しがねぇ百合文研の平会員でげす。

好きな百合(?)作品は「東方」、「ゾンサガ」、「ヨルクラ」、「ガルクラ」、『白い砂のアクアトープ』、『トラペジウム』あたりでございます。「東方」は誰がなんと言おうと百合でございます。えぇ、誰が何と言おうと。あと「ガルパン」も好きでございます。最終章第5話、一体いつなんでしょうね。まぁ兎にも角にもどうぞよしなに。


というわけで新入生布教企画ですけれど……どの作品で書けばいいものかと思い悩みました。実は私、「東方」とかはずっと昔から好きですけど“百合”というジャンル自体に触れ始めたのは大学入ってから、それこそこの会への入会をきっかけとして触れ始めたわけです。なんと「百合読もう!」と思ってから1年も経っていないというわけですから驚いたったらありゃしない(そんな私の百合遍歴は弊会会誌vol.5に収録の定番企画、「あなたの百合はどこから」の私の記事に書いてありますので機会があれば)

 

そうやってあれこれ考えた末に決めた作品こそが、今回紹介します、星期一回収日先生の『奇譚花物語でございます。

基本情報

題名:奇譚花物語
作者:星期一回収日(原作:楊双子 訳:黒木夏兒)
発行:2022年
出版:サウザンブックス

書影

あらすじ

ふたりの関係は姉妹あるいは親友、それとも恋人? 昭和11年。「高等女学校」「日本への進学」「職業婦人」といった“新しい未来”が少女たちの前に輝かしく提示されるも、選択は本人の意思には委ねられていなかった時代。そこにひっそりと咲く少女たちの恋があった。日本時代と現代のふたつの時代を描く、台湾の漫画賞「金漫奨 2021年度漫画奨」を受賞した台湾発の百合コミック(ダ・ヴィンチwebより)

 

魅力紹介

いや、めっちゃよくない???

あらすじの時点でなんかこう、なんとも言えない妖しさといいますか美しさと言いますか、えもいえぬ良さが伝わってくるといいますか……。

 

舞台は台湾第二の都市として知られる台中。そしてここからが特徴的なのですがオムニバス形式で4つの物語が収録されております。そのうち1つは現代が舞台なのですが、それ以外の3つの舞台はなんと昭和11年(1936年)!!日本だと2・26事件が勃発して軍靴の音が少しずつ、けれども確実に大きくなっていった時代でございます。この時代の台湾は日清戦争以来日本の統治下にあったわけですね。物語の世界観でもそういった要素をひしひしと感じることができ、とても面白い。

日本統治下という文脈が歴史の浪漫を作品に与えている(P63,227)

 

そして物語の内容に触れていきたいのですが、一言で表すなら「幻想的」とでも言いましょうか。ここで4つの物語がどういう話なのかを軽めに触れておきますと……

1話:祖父が冥婚をしたことにより、同い年で幽霊の大叔母ができた少女の物語
2話:折れば願いが叶うという水鹿の角を折ったばかりに報いを受けた少女たちの物語
3話:呪われし名家の妾と、その家に生まれた天才少女の物語
4話:虎爺巡りでつながる本名も知らない二人の物語

どれも”良い”んですよね。現代が舞台の4話でも、「虎爺」というのはお守りですし妖怪とかの民俗学的な要素が多分に含まれているのでなんとなくどこか「現世とは少し異なる不思議な感じ」はあるわけです。個人的なイチオシは1話です。実はこの話、詠恩という幽霊の少女とそんな彼女とコミュニケーションをとることができる霊感の強い女の子・英子の物語です。台湾には「冥婚」という、ざっくり言うとすでに死んだ人と結婚をすることができるという風習があるのですが、英子の祖父が英恩と冥婚をしたばかりに英子は同い年かつ死人の大叔母を突如持つようになったというわけであります。英恩と英子、二人は交流を深める中で自分たちがなぜ出会うことになったのかという運命的な因果を発見するわけですが……生き死にを超越した女同士の絆というものをぜひ味わっていただきたい。

黒髪が英子、浮いてる方が英恩(P7)

 

そういえばこの漫画を知った経緯なのですが、京都大学で菊地暁という教員が行っている「民俗学II」という講義で“参考文献として”挙げられたのがきっかけであります。元々わたしは「東方」が昔っから大好きなように妖怪や神話にも強い興味を惹かれていたので読むことを決めたわけですが……例えば上で挙げた「冥婚」といった民俗事象に、ストーリーを楽しみつつ触れられるわけです。こういった台湾という土地に根差した伝承や超自然的なならわしが物語に絡みつくことで味わい深さが増幅されていてとてもいい。
※ちなみにこの菊地先生が担当されている「民俗学I・II」という授業は得られるものが非常に多い名講義なので受講を強くオススメします。完全な余談ですが。


あと単純なことですが、とても絵が上手い。海外の百合漫画……に限らず海外の漫画自体、アメコミ以外私はほとんど触れたことすらなかったのですけど、日本の漫画と比べても全く遜色ない。いやぁ本当に上手い。どうやら台湾では戒厳令が敷かれていた時に漫画が非常に厳しく取り締まられていたようで、海賊版として日本の漫画が流入して人気を博していたようです。その都合で特に少女漫画なんかはジャパニーズ・コミックの影響を顕著に受けている、なんて裏事情があるそうですね。
その一方で擬音?効果音?オノマトペとかは全部漢字で表記されているのが面白い。表音文字でなくて表意文字で描くとこんな感じになるんですね。私知りませんでした。

ふふんー(P215)

おわりに

最後にはなりますが、機会があったらぜひ『奇譚花物語』をよろしくお願いします。またこの作品が好きだったらおそらく!たぶん!!いいや確実に!!!同じく妖怪や伝承が主題となる「東方」も好きだと思いますので、ぜひ始めてみませんか!?!?!?