【新歓布教blog第1回】『私だって青春したいですよ、本当は。』を今すぐ読んでほしい【通称"だったい"】

※非公式の略称です。


かいたひと: うらん


百合好きの皆さん、Justice for Girls. (流行らせたい挨拶)


新入生の方は合格おめでとうございます。

京大に入学したからには常識にとらわれず自由な学生生活を送っていただきたいですね。様子のおかしいオタサーに入ってみるとか。コワクナイヨ


さて、この記事をお読みになっている方の大半にとって「コミック百合姫」と言われたら説明は不要でしょう。
2005年創刊、百合界の最前線を常に走り続けてきた百合漫画専門誌ですね。

 

20年の歴史の中でも色んなことがありました。ライト層・男性読者層向けだった百合姫Sが統合されたり、月刊化して連載がボリューミーになったり、異世界ブームを受け異世界系百合が量産されたり……。

そんな百合姫でいま何が起こっているのかというと、ずばり20周年イヤーでゲスト読切がムキムキになり新連載ラッシュが発生しています。

 

特別ゲスト読切については『立花館To Lieあんぐる』『全部君のせいだ』のmerryhachi先生、『ハナヤマタ』『おちこぼれフルーツタルト』の浜弓場双先生、『ひまわりさん』の菅野マナミ先生など百合姫初参戦の超豪華執筆陣により百合漫画アベンジャーズと化しているので要チェックです。

そして新連載のほうですが、ゆあま先生やシクシク先生といった百合姫再登場作家陣で土台を固め、うさみみき先生やいくたはな先生、当麻先生など百合作品で名を馳せ満を持して百合姫に上陸してきた作家陣で期待値を底上げし、そのほか新進気鋭の百合作家たちに展望を感じさせられる隙のない布陣が形成されています。

内容についてもラブコメからシリアスまで幅広く網羅的な印象。強いて言うならホラーっぽいのが多いですね。


さてようやく本題。20周年の新連載ラッシュで始まった作品のうち私がイチ推ししているのが、そう。

『私だって青春したいですよ、本当は。』

です。

『私だって青春したいですよ、本当は。』第1話 扉絵

 

いいタイトルですが長くて取り回しが悪いので、以降「だったい」と称することにします。

 

まちがえた
(『ガールズバンドクライ』公式YouTubeチャンネル「視界の隅 朽ちる音」映像より)

作者の尾野凛先生は第23回・24回百合姫コミック大賞で翡翠賞を受賞され、読切掲載などを経て本作の連載に至っています。
2021年11月号の読切『うわさの花子ちゃん!』は、恋に奔走する主人公がかわいい、最後には心が締め付けられながらもあたたかい気持ちになれる良作です。泣ける。

受賞から5年、満を持して始まった「だったい」。
個人的にはここ5,6年の新連載のなかでも一、二を争うお気に入りです。(争っているのは『サルビアのブーケ』)

 

先程も紹介した通り著名な百合作家陣も名を連ねる新連載攻勢のなかで、「だったい」の何が私たちをそこまで惹きつけるのか。
その魅力について語っていきたいと思います。

 

長くなりそうなので先に第1話が読めるリンクを貼っておきますね。こんなblogを読むより自分の目で確かめてもらったほうが早いので。

 

ichicomi.com

 

あらすじ

趣味は読書、勉強も運動も普通。自分はモブだから…とひっそり生きている高校生・乙部紫は、いつもクラスの中心にいる藤見晶子のことが苦手だった。

しかし、そんな晶子と同じ園芸委員になるや否や、気さくに話しかけてくれる彼女のことを、紫はあっという間に好きになってしまった。

どうにかしてお近づきになれないか…?と思っていた矢先、今度は晶子が失恋して泣いている場面に遭遇してしまい…。

ちょろいモブ陰キャとキラキラ女子、前途多難な青春ガールズ・ラブコメ!

(一迅プラスより引用)

 

陰キャ×陽キャの時代

みんな大好き、陰キャ主人公と陽キャヒロインの百合です。最近多いですね。

あらすじにもあるように、主人公の乙部ゆかりさんはモブを自称する生粋の陰キャ。挙動は変だし、脳内はうるさいし、陽キャへの謎の偏見と憧れを持っています。……なんか甘織れな子みたいだな……。

この流行りの脳内うるさ系陰キャ主人公、言ってることにめっちゃ共感できてしまうのでズルいんですよね。一人になりてえ衝動で予定ドタキャンするところとか……。ペアで買う縁結びのお守りに一々「商業主義的!」とか思っちゃうところとか……。

 

挙動が不審すぎる(第1話 p.34~p.35)

 

対する藤見晶子さんは一軍キラキラ陽キャなわけですが、この人があまりにも光の陽キャすぎてあっさり陥落してしまうゆかりさんがちょろ可愛い。呆気なく「私だって青春したかった」とか言い出してしまう。お前……! 陰キャの誇りは……!?

 

でもしょうがないんですよね。藤見晶子というキャラクター、本当にいい味を出している。

話したこともないゆかりさんに屈託のない笑みで喋りかけてくる。その奇行を目にしても、面白がりはすれど馬鹿にする素振りは微塵もなく。一人で昼食をとっているゆかりさんをグループに誘う気遣いをする一方、「なんでいつも一人で行動してるのぉ?」と痛いところを突く質問には「ゆかりってなんでも一人でテキパキできるんだもの」と120点のフォローを入れる。

非の打ち所がないですね。読めばきっとあなたも晶子さんのことが好きになる。あなたもわたしも乙部ゆかり。

 

 

秘密の共有は蜜の味

と、私は百合を読むとき常々思っています。

百合って何? と聞かれたら「女の子同士の、特別な関係性」と答えるようにしているんですが、この「特別」は二人だけの秘密を共有するだけで完璧に達成されます。

 

「だったい」は晶子さんの裏の顔、すなわち失恋しそうで傷ついている本心を、ゆかりさんがひょんなことからただ一人知ることになるところから始まります。晶子さんにとってゆかりさんは、愚痴を聞いてもらえるただ一人の特別な相手になった。いつもグループで明るく振る舞っている晶子さんが、ゆかりさんにしか見せない多様な表情。いいですね。

 

二面性のあるキャラクターっていいですよね(第2話 p.11)

 

ただこの秘密の共有も、まだ不完全なものといえます。ゆかりさんは芽生えてしまった恋心を、そして晶子さんは失恋という言葉の真に指し示すものを……。

いったいここからどうなってしまうんだ……!?

 

 

絵を褒めるゾーン

表情が良すぎる。近年稀にみる刺さり方をしています。

第1話 p.49

すき……………………。

 

 

藤見晶子という少女 ※ネタバレ有

要領を得ない見出しですね。でもなんかそんな感じのことが言いたい。要するに自己満感想垂れ流しタイムです。

最新7話までのネタバレを含むので、回避したい方は「余談」まで飛ばしてください。

 

この作品、言ってしまえば晶子さんの好きな相手に関するミスリードが施されています。従姉妹の天理さんとイケメン先輩を取り合っているのかと思ったら、実は晶子さんが好きなのは天理さんのほうだった……。

恥ずかしながら私は、第5話ラストシーンでこの事実が判明するまでまったくこの可能性を考慮に入れていませんでした。おかげで没入できて、第5話を読了したときの衝撃が最大になったわけですが……。経験が足りないとか言うな

 

なんでこんなに騙されてしまったんだろうと読み返しながら考えたんですが、この「だったい」、当該シーンに至るまで「晶子→天理」の匂わせが徹底的に排除されているんですよ。

ミスリードを利用する作品でしばしば見られるような「読者へのヒント」としての匂わせが、まったくといっていいほどない。

 

じゃあ天理さんに本気で恋しているはずの晶子さんが、一緒にいるときどう振る舞っているのかというと、ちょっとした触れ合いにドギマギしたりせず、普段通りを徹底しているんですね。あるいは三条先輩とのイチャイチャを見せつけられていても、ポーカーフェイス&心の中でブチギレのスタンス。

だから「晶子さんはもしかしたら天理さんのことが好きなのでは」と読者に考えさせる描写が入らず、私はあっさりミスリードに引っ掛かってしまったわけですね。

 

で、読者を騙すほど強固な、晶子さんの本心を隠すこの仮面について、改めて考えさせられます。

それは陽キャ社会のイジりあい文化によって鍛えられたものでもあるのでしょうし、度重なる失恋経験によって培われたものでもあるのでしょう。

「死ぬまでに何度も失恋すると思う」から、一々心を落ち込ませていてもしょうがない。愚痴を言う機会があっても、見せつけられることに怒りはすれど自分がそこに割って入ろうなどとは考えない。

そういう処世術で心を守って生きていく。女の子が好きだと気付いたときから晶子さんはそういう決心をしたのでしょう。

ここまで理解して、ただでさえ光の陽キャとして読者の心を掴んでいた藤見晶子という人物が、複雑で強い情念を内に秘めたキャラクターとして完成するんですね。

キャラが単体で魅力的な百合作品は傑作になりえる。私は「だったい」の大きなポテンシャルを心の底から信じています。

 

本作、記事前半でも言ったような「陰キャが陽キャに心をかき回されるラブコメ」としてある種明るい感じで始まりながらも、晶子さんを取り巻く恋愛の事情についてはかなり悲恋チックなテーマを取り扱ってるんですね。

同性のことが好きな自分について、「変なもの見せられたのはゆかりのほうだし」「気持ち悪いでしょ」「だって怖いでしょ?」と苦悩する等身大の思春期の女の子が描かれている作品は減ってきているように思いますが、こういう要素も個人的に「だったい」をおすすめする理由だったりはします。

 

さてしかし、そんな晶子さんを孤独から救いうる人物がいます。そう、乙部ゆかりさんです。

彼女は物語の序盤で、相手が女の子であることに葛藤する素振りを見せないまま晶子さんに恋してしまっているので、6話で晶子さんの言ったように「気持ち悪い」という感想を抱いて突っぱねたりはおそらくないわけです。

晶子さんの恋心の真相を全て知ってはいなくとも、その恋を諦めなくていいと応援してくれた。

「生まれて初めて味方してもらった」「あんな言葉、一生に一度でももらえると思ってなかった」。ゆかりさんの(誰かの引用ではない、自分の)言葉が彼女自身の想定以上に晶子さんの力になりえたこと、境内までの戻り道を思わず走り出すほどの力になりえたことを想うと、胸が熱くなります。

 

けれど、自分が同性を好きだと知ったらもう同じようにはいかないだろう……。

その期待をいい意味で裏切りうるのが乙部ゆかり、本作の主人公なのです。

 

つまり、自称モブ陰キャの物語はここから。(現在最新第7話)

がんばれ、乙部ゆかり。

 

 

 

余談

もともと平安貴族モノになりそうだったらしい。メイン二人の名前もおそらく紫式部と中宮彰子から来てますね。

平安……すなわち京都……つまり、我々。

京都大学百合文化研究会は、会を上げて「だったい」を応援しています。(非公認)

 

 

さいごに

『私だって青春したいですよ、本当は。』は百合姫20余年にわたる「百合姫」の歴史においても最高傑作クラスとなるポテンシャルを持っている。

これだけ宣言しておきます。

不用意に大げさな言葉を使ってると適当言ってると思われそうですが。

 

たぶんメロンブックス京都店で単行本+最新2話ぶんの掲載されている百合姫はギリ買えると思うので今すぐ購入することをおすすめします。

 

www.melonbooks.co.jp

 

では! よい百合ライフを!

 

 

 

 

 

 

うづりん【デレマス】

 

はじめに

 

アイドルマスターというコンテンツにおいて、百合はサイドメニューにすぎない。

 

アイマスは担当アイドルをプロデューサーになって育成するのが主題のコンテンツ。プロデューサーとアイドルの交流が基本である以上、いわゆる「Pラブ」がメインディッシュをなすのは当然だ。そもそも元はギャルゲーらしい。

わざわざそこに百合を求めるのは寿司屋で「俺は魚アレルギーなんだ!ステーキを出せ!」と言っているようなものだ。お門違いもいいところである。

 

だから後輩に『アイドルマスター シンデレラガールズ』のアニメを勧められたときも、私は正直いって半信半疑だった。百合なんかあるわけねえだろ、と言うつもりはないが、やはりメインはプロデューサー視点でのアイドルとの関係であって、アイドル同士の関係性は百合というよりも、あくまで友情や絆などと呼んだ方がいい程度のものだろうと。

 

まあしかし、せっかく勧めてもらったのに見ないのも勿体ない。そこまで期待はしてないが、たまには百合とは違った種類のアニメを見てみるのもいい経験かもしれないな。ということで、私はしばらく更新していなかったDMM TVに久しぶりに550円を投げ込んだ。

 

 

じゃっ、大将、とりあえずおまかせで。

 

 

 

「あいよッッッ!!!!!

一目惚れ1歳差クール×キュート百合お待ち!!!!!」

 

 

 

 

凛から見た卯月

凛は卯月の笑顔に一目惚れをした。ここまで異論はないと思う。

 

「笑顔」がシンデレラガールズの大きなテーマであることは言うまでもない。

なかでも主人公である島村卯月の笑顔は物語終盤の根幹に関わってくる。

笑顔ただ一つでシンデレラプロジェクトに抜擢された卯月。そこでは同じく笑顔が魅力の個性豊かなアイドル達が切磋琢磨しており、卯月もその中でなんとか頑張ろうとしつつ、そして途中まではうまくいっているようにも見えるのだが、あるときを境にぱったりと笑顔ができなくなる……というのが22話くらいまでの流れである。

 

笑顔、笑顔。とにかく笑顔の力が大事だと、この作品は押し売りさながらに主張してくる。だがしかし、この「笑顔」が「どんな」笑顔を指しているのか、それを直接説明してくれることはほとんどない。

笑顔にも種類がある。微笑、苦笑、嘲笑、爆笑、冷笑、失笑。シチュエーションによって笑顔の意味合いというのは変わってくる。

 

もちろん、島村卯月の笑顔も1つではない。

さて、では凛が一目惚れした卯月の笑顔とは、どのような笑顔であったのだろう?

 

 

島村卯月はよく「頑張ります!」と口にする。もちろん笑顔で言う。最初に出てきたのは第1話が始まって早々、プロデューサーからデビューの話を受けたときである。この笑顔はその後も(終盤になるまでは)頻繁に出続ける。

この笑顔をするときの卯月はこれから成長したいという意思を持っている状態、裏を返せば(そして性格の悪い言い方をすれば)「今はまだ結果が出ていない」状態というようにも捉えられる。

まだ発展途上の状態、要は「アイドルの卵」としての島村卯月がこのセリフ一つに詰め込まれている。

 

デビューを受けた日の夕方、卯月はある花屋に寄る。そこには彼女と同い年くらいの女の子が店番をしている。互いの名前も知らず、ただの客と花屋の店員である二人はそこまで多くを語り合うことはない。それでもデビューが決まってウッキウキの卯月はおかまいなしに終始ニコニコとしながら店内を見て回る。

卯月は最終的に店員にすすめられたアネモネを買い、最後に彼女を見送る彼女に笑顔で告げる。

「私、頑張ります!」

 

 

だが、凛が見惚れたのはこの笑顔ではない。

 

そう、公園で見せた「あの」笑顔に見惚れたのだ。

 

 

凛が恋をしたのは、「アイドルの卵としての島村卯月」ではなく、アイドルに憧れる「一人の普通の女の子としての島村卯月」だ。

 

 

「アイドルの卵としての笑顔」と「普通の女の子としての笑顔」は、一見しただけでは見分けがつきにくい。だが、そのときのコンテキストを考えれば自然と区別はつく。

 

前者の笑顔をするときの卯月はアイドルという概念を「目指すべき目標」だととらえている。対して後者ではアイドルを純粋に「おとぎ話のような夢」として見ている。目指すべき、という接頭語はここでは付かない。その眼に映るのは決意ではなく、童話への純粋な憧れだけである。アイドルが星であるならば、このときの彼女は恒星の光を受けて輝く月であるとも言えるかもしれない。

 

 

 

さて、凛の心に鮮烈に焼き付いた「夢見る女の子としての笑顔」は、しかし卯月が事務所に入り実際にアイドル活動を始めてから急速に鳴りを潜める。

 

なぜか?

当然、「夢見る女の子としての笑顔」をするにはまず夢を見る必要があったからだ。

卯月はプロデューサーと出会い、アイドルになるという夢が現実になった。なってしまった。

叶えた夢は、語れない。

 

 

しかし、誰も卯月が失った笑顔に気がつくことはない。「アイドルの卵」としての笑顔は依然として健在、むしろ空いた穴を塞ぐかのように頻出するようになるからだ。

ぱっと見は何も変わったようには見えない。

 

 

その後も卯月は「頑張ります!」と「笑顔」で口にしつづける。

しかし、その後どれだけ頑張ろうとしても卯月の見つけたいきらきらしたものは見つからない。

「頑張ります!」という言葉は虚しく空回りするだけだ。

その現状を認識してしまったとき、ついに周囲にもはっきりとわかるほど卯月は笑顔ができなくなる。

 

 

24話で卯月はこのときの自分をこう述べている。

「だから、私も頑張っていたつもりだったんですけど……でも、いつのまにか嘘になっていて……」

思うに、「夢」とは卯月にとって前に進むための原動力であったのだろう。それが見えなくなった後、慣性によってしばらくは進んでいられたが、動力がない以上、減速するしかなく、いつしか車輪は完全に止まってしまったのだ。

 

23話、凛は養成所に引きこもってた卯月のところまで押しかけ、彼女を公園まで連れ出す。そして困惑する卯月を前に問いただす。

「今はまだとか、もう一度頑張るとか、そんな嘘の言葉、もう聞きたくない」

『嘘なんて……』

「嘘の笑顔なんて見たくない!私がトライアドやるって言ったとき、賛成してくれた。あの笑顔も嘘だったの……?」

『嘘なんかじゃない……! 私、本当に……』

「信じられない」

『え……?』

「今のあんた見てると……」

あの日あの時、「あの笑顔」に撃ち抜かれた凛は、それが本物であると信じているからこそ、今の卯月の見せる笑顔が耐えられない。

それだけ凛にとってあのときの卯月の笑顔は深く刻み込まれていたのである。

 

 

 

中間休み

ここまでで2600字にもなってしまった。読者諸君においては息も絶え絶え、ベンチでぐったり一休みしていることだろう。

だがしかし。

落ち着いて聞いてほしいのだが、私はこれまで「渋谷凛から見た島村卯月」についてしか説明していない。

良い百合とは相互の特別性が備わっているものだ。つまり、これから「島村卯月から見た渋谷凛」について説明しなければならない。なんと私はまだ「うづりん」を半分しか語れていないのである。

 

では、卯月にとって渋谷凛とはどういう存在なのだろう。

 

 

卯月から見た凛

花屋の店員だと思っていた彼女は、実は同じプロジェクトのアイドルにスカウトされていた。

最初、日陰のベンチから自分を見上げていたその子は、いつしかニュージェネの仲間として隣に並び立っていた。

そして、いつしか気がつくと、その子は既に次のステップへと歩みを進めており、隣にあったはずの顔はいつのまにか自分を見下ろしていた。

 

 

身近な人間の成功ほど嫉妬しやすい。

「あいつは受かったのに」

「あの子は彼氏ができたのに」

テレビやSNSで見る有名人の方が富も名声も持っているというのに、我々が妬むのはいつも自分の近くにいる人間の成功だ。

 

「トライアドプリムス」を経てもなお渋谷凛はアイドルとしてはまだまだ始まったばっかりだ。彼女よりレベルの高いアイドルは、高垣楓をはじめとして346プロダクションにはごまんといる。

ただ、卯月にとって凛だけが違う。ともに同じスタートを切った仲であり、いつもその姿を誰よりも近くで見続けてきた。

 

卯月にとっての凛とは「最も眩しく、痛い光」だった。

 

星は近づくほど明るく見え、近づきすぎると身を焼かれる。

渋谷凛という光は、卯月の心の奥底を、卯月本人も気づかない無意識のうちに焼き続けてきたのだ。

 

テレビに嫌いな芸人が出たとしても、すぐにチャンネルを変えれば済む話だ。SNSについても同じ話だ。ブロック一つで相手は視界から消え去る。

だが、現実だとこうはいかない。どれだけ会いたくなくても、同じコミュニティにいたら嫌でも顔を合わせないといけない。どうしても我慢できないならば、自分からその場を離れるしかない。だが面子や役割、複雑な人間関係によってそこまで実行に移せないのが人間というものである。

 

卯月にとっては、凛はいわずもがな、346に居る全てのアイドルの出す光が苦痛だった。彼女らがどんどんと新しい道を踏み出していくたびに、言いようのない焦りが喉の奥に沈殿していった。

それが限界まで溜まったとき、ついに彼女は城から逃げ出してしまう。

 

基礎をやり直したいという建前で養成所に戻った卯月。未央が会いに行きたいと電話しても、とりつく島もない。

「しばらく会ってないからさ、ちょっと顔見に行こうかなって。しぶりんも誘って――「い、いいです!!」

 

 

346プロダクションから、すべてのアイドルから逃げる選択をした卯月。

しかし、”彼女”はそれを許さなかった。

逃げこもっていた養成所まで追いかけてきた彼女は、よりにもよって一番会いたくなかった人だった。

彼女は卯月の手をとり、薄暗い養成所からあのときの公園へと連れ出した。

 

「あのとき、言ったよね。夢だって。きらきらしたなにかになれる日がくるって。今は?」

『え?』

「逃げないでよ 」

『わ、私、逃げてなんか…… 』

「舞踏会のこと、ニュージェネのこと、どう思ってんの?卯月の答え、私聞いてない」

『私……』

 

卯月は自分の心情をついに語りだす。

『私、舞踏会に向けて頑張って……みんなみたいにきらきらしなきゃって。歌とかダンスとか、皆なにか見つけてて。頑張ったんです、私!レッスン大好きだし、頑張ってたら、もっともっとレッスンしたら……!』

かろうじて作れていた笑顔も、形を保てなくなっていく。

『でも、私の中のきらきらしたもの、なんだかわからなくて。このままだったらどうしよう。もし、このまま時間が来ちゃったら、私だけなんにも見つからなかったら。どうしよう……怖いよ……!』

『笑顔なんて、笑うなんてだれでもできるもん!』

 

これが凛以外だったら、卯月はここまで本心をさらけ出そうとはしなかっただろう。これまでと同じように自分の気持ちを隠し、空っぽの笑顔を浮かべ、「頑張ります!」と言えたはずだ。それを言われたらほとんどの人間は黙るしかない。

 

しかし凛は、卯月にとって顔を見るだけで羨ましくて羨ましくて気が狂いそうになる彼女だけはそれを許さなかった。

凛と向き合うということ、それそのものが卯月にとってなによりも耐えがたい苦痛であり、彼女の感情を決壊させるに十分な一滴だった。

 

「嘘の笑顔」という仮面を取ることができたのは渋谷凛だけだったのだ。

 

 

 

その後

すべてを吐き出した卯月は、ただの女の子に戻ってしまう。 

ギリギリ断崖絶壁に片手でしがみついていた状態であったのが、「私にはなにもない」というその一言でついに手を放してしまったのだ。もはや停滞どころではなく、あとはただ山の麓まで転げ落ちていくだけだった。

 

しかし、山頂からしか見れない景色があるように、麓まで戻らないと見えない景色もまた存在する。

クリスマスライブの日、卯月はかつてスタッフをしていたライブ会場に再訪し、見失っていたステージへの憧れを思い出し始める。

一回アイドルから離れ、「普通の女の子」に戻ってしまったからこそ、新たな「夢」を再び見つけられたのだ。

 

 

クリスマスライブのステージに出る直前、卯月は渡されていたメッセージカードの存在を思い出す。「結局、何も書けなかったな……」

 

しかし凛はその何も書かれていない、まっさらな星を卯月のポケットに入れる。

「卯月が持ってて」と。

 

卯月は、凛から託されたその星をしっかりと握りしめ、再びステージに立ったのだ。



 

 

 

さいごに

全て説明するのに5000字もかかってしまった。まさかこんなに長くなるとは。読書感想文の宿題を真面目にやっておくべきだった。

まさかこんなに古いアイマスアニメにこれほどまでに上質な百合があるとは思ってもいなかったので、勧めてくれた後輩には本当に感謝しかない。

ここまで長々とお付き合いくださり、ありがとうございました。

 

とは言ったものの、5000字ともなると流石にここまで読んでいる人は誰もいないと思うので、ここから勝手に私が作業中に聞いていたデレマスメドレーの中から好きだった曲を紹介していこうと思う。ちなみにゲームは未履修なので歌っているアイドルの8割は知らないキャラである。

 

1. Brand new!

Wow wow wow wow ......

👆もう気持ちいい

とにかくフレッシュというか、みずみずしい一曲だ。前奏のwow wowやサビの   " Hello, brand new days and dreams ! " (歌詞見るまでdays and dreamsがレーザービームって言ってるのかと思った)が気持ちいいのは言わずもがな、bメロの " あふれるドキ↑ドキ↓で、ねぇトキ↑メキ↓で " の小気味よさや最後のstep-step-step,1-2-3の畳みかけが本当に綺麗だと思う。

 

2. メルヘンデビュー!

曲も凄いがこれを歌える声優も凄い。

ウサミンこと安部奈々はアニメでもまるまる一話使って描写されていたアイドルなので元々キャラの認知はしていたが、それでも作業用メドレーを垂れ流している中で明らかに一つだけ異様な曲の入り方をしており一瞬で「これウサミンだ……」となってしまった。

 

3. Yes! Party Time!!

最初の手クルクル🫱♻️🫱 ⬅️これすき。

 

4. Motto!

あまりにも可愛いすぎる、お菓子箱みたいな曲。

サビの " いぇいいぇいいぇい! " や " M・O・T・T・O! " のコールが本当に気持ちいい。歌詞が「おしゃれに貪欲な自分」を肯定する内容なのも良い。「あれもこれも 手に入れちゃおう これから」の無敵さよ。

 

 

 

(我ながら好みがわかりやすすぎる……)

メモリアブレスレット~「秘密」シリーズ3部作の百合的魅力~

クーケン島っていう、なんてことない島の

ラーゼンボーデンっていう、なんてことない村

そこで、なんてことないあたしは暮らしている

……なんてことない日々を変えたい、と焦がれながら

 

はじめに

 お久しぶりです。京都大学百合文化研究会所属のこぅせーと申します。以前台湾の百合漫画『綺譚花物語』を取り上げて以来ですから……半年ぶりですか。本当にお久しぶりです。

 

 なんでこうもいきなりブログを書き始めたのか、実は理由がございます。もう少しで我らが京都大学では11月祭、"NF"と通称される、それはそれはドデカイ学祭が11月の21日(金)~24日(月・祝)までの4日間で開催をされるわけでございます。

 当然わたしたち百合文化研究会も毎度ながらこの学祭に出展予定で、会誌『Liliology』の第7号を作成しているわけです。本号の特集は「ゲーム百合」、各種百合的な関係性が出てくるゲームに注目を当てております。色々な記事が書かれており非常に賑やかな内容になっておるのですが、実は私、言ってしまえば「鉄板ネタ」ともいえるゲーム×百合のネタがあります。私の時間的余裕など色んな理由で今回の会誌への寄稿を見送らざるをえなかったのですが、「記事にはできなくとも、ブログならば書けるんじゃないか?」と思ったわけです。そのゲームこそが……

 

 

 

「ライザのアトリエ」であります

(コーエーテクモゲームス公式サイトより引用)




 コーエーテクモゲームスの「ガスト」ブランドが展開する人気RPG、「アトリエ」シリーズ。素材を集め、錬金術を行い、強いアイテムを精製し、ストーリーを進めていく……このシステムが最大の特徴です。その「アトリエ」シリーズ史上最高の出荷数を誇るのが2019年から23年まで展開された「ライザのアトリエ(無印)」、「ライザのアトリエ2」、「ライザのアトリエ3」からなる「秘密」シリーズでございます。

 私が始めたのは昨年9月末のことです。以前から気になってはいたのですがStealのセールで「1」が67%オフ、「2」が60%オフ、「3」が40%オフ、三作でだいたい6000円ちょっと……「この機を逃す手はない!」私は気づいたらファミリー〇ート田中御蔭通店でSteamギフトカードをしっかと握りしめておりました。そこから、1年以上、ノートパソコンのスペックとカクカクと格闘しながら進めていき、今年の10月半ば、ようやくクリアし終えたわけです。いやぁ……楽しかったぁ……。

 

 確かにライザのアトリエは百合ゲーではありません。女性同士の関係性が主軸であるストーリーではありませんし、どちらかというとライザを始めとする登場人物たちの成長が描かれていきます。

しかし!!!

 物語の中核ではなかったとしても、確かに作品世界に、特別な女性同士の関係性は現れているのであります。「ライザのアトリエ」の百合的な魅力を、一人でも多くの読者に伝えたい!!!なんとかして!!!そのようなアツイ思いをエンジンとして、本稿を書いているわけです。

ライザリン・シュタウトとクラウディア・バレンツ

 ここまで前置きを長々と書いてきたわけですが、それではどういう関係があるのか?手始めにキャラクターを紹介していきましょう!一人目は本作の主人公、彼女がいなければ始まらない!「ライザ」ことライザリン・シュタウトでございます。

ライザリン・シュタウト CV:のぐちえり
(「ライザのアトリエ3」公式サイトより引用)


 彼女こそ「秘密」シリーズの主人公であり、「秘密」シリーズは彼女の成長と共に物語が進んでいきます。

 冒頭の独白は作中で彼女が行うものですが、まさにその通り普通の女の子。湖に浮かぶクーケン島という小島のラーゼン・ボーデンという町の農家に彼女は生まれました。何か冒険をしたい、幼少期からそう思ってきた彼女ですが村社会ではそう気軽にできるはずもなく……。同年代の悪ガキどもとつるんで悪戯をするくらいが関の山です。そして出会ってしまったわけです。錬金術に。「なんてことない日々を変える」魔法を手にした彼女はその出会いをきっかけに、真夏の大冒険へと駆け出していくわけです。

 

 そんな彼女の相棒ともいえる存在、彼女こそが本稿のもう一人の主人公、クラウディア・バレンツです。

クラウディア・バレンツ CV:大和田仁美
(「ライザのアトリエ」3公式
サイトより引用)

 ライザと同い年の彼女は、取引のためにラーゼンボーデンへとやってきたバレンツ商会のご令嬢。名家のお嬢様です。田舎のおてんば娘とおしとやかなお嬢様のやりとりって鉄板ですよね。「1」の序盤で彼女もまたライザと出会い、その後数シリーズに及ぶ交流を彼女と交わしていきます。

 両者の紹介が終わったところで、作中世界で5年間に及ぶ、彼女たちの物語を概観していきましょう。

 

※以下ネタバレ注意※

ネタバレが嫌な方は、「おわりに」まで目を瞑りながら読んでください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

邂逅 『ライザのアトリエ~常闇の女王と秘密の隠れ家~』

 ライザとクラウディア、二人の物語はある森の中から始まります。先述しました通り、ライザは生まれてこの方クーケン島から出たことがありません。しかし冒険盛りのライザは幼馴染のレントとタオを従え、島の対岸へと冒険に向かいます。初めての場所、初めての光景。そして鬱蒼と茂った森の中で、魔物に襲われる一人の少女と出会います。そう、このときライザたちが助けた彼女こそが、隊商の列からはぐれてしまったクラウディアでした。二人はこのとき17歳。この瞬間からライザとクラウディアの数年間に及ぶ関係が始まるのです。

運命の出会い
(「ライザのアトリエ」より引用)

 クラウディアは父・ルベルトの商談の関係で、長期間クーケン島に滞在することに。そしてライザと交流を行い、関係を深めていきます。ライザたちの話を聞き、ライザたちの拠点づくりにも協力し……そうした中で冒険をするライザたちへの憧れが強くなり、自分も冒険に参加したいという思いを強くします。しかし父が許すわけもありません。そんな様子を見たライザはクラウディアが自分たちについて冒険ができるように、自分が彼女を守ることができることを証明するため、ルベルトの出す試練をこなしていき、見事彼女を外の世界へと連れ出すことに成功するわけです。

 

 各地への遠征、次々浮かび上がる謎、強敵との闘い、紆余曲折の末に冒険が終わり、クラウディアはまたもや親の商談の関係で島を離れることに。二人は再会を誓い、真夏の大冒険はいったん幕を下ろします。

二人は再会を誓いあう
(「ライザのアトリエ」より引用)

 

 と、ひとまずここまで「ライザ1」の話をあっさりと書いてきましたが……はっきり言います。「ライザ1」の時点では百合らしい百合はありません。まずここで定義しておきたいのが、私の考える百合というのは「女性同士の強い絆の結びつき」のことであります。その関係となりますと、別に恋愛に限定された話じゃあございません。相棒やライバルなんてのもここに入ってくるわけです。そうやって考えてみると、「1」の時点におけるライザとクラウディアの関係ってどうしても”友達"を越えてこないわけですな。確かにクラウディアが、家族にすら隠しているフルートの演奏をライザにだけ聞かせる、などのシーンはあります。しかし友達を越える重い相手への感情が出てくるか、となるとどうしても疑問符がつかざるをえないわけです。

 「じゃあここまで話を書いてきた必要なんてなかったやんけ!」という声も聞こえてきそうですがまぁそう早とちりなさるな、お兄さんお姉さん方。この「1」のストーリーが後々の「2」、「3」の話をしていく上での前提となってくるわけでございますよ。肝要なのは「クラウディアにとって、ライザは初めてのちゃんとした友達である」という点です。「2」で明らかになるのですが、クラウディアは旅商人の一族である関係で一ヶ所に長く留まる経験をあまりやってきませんでした。現代で考えると転勤族、と言ったところでしょうか?そして長居をしたこの小島で初めてできた同年代の女の子の友達、そして自分を冒険に連れ出してくれた友人、それがライザリン・シュタウトだったわけです。この流れを入れておくと「2」、「3」の話が飲み込みやすくなります。

 

再会、そして葛藤 『ライザのアトリエ2~失われた伝承と秘密の妖精~』

どうも、本編と申します。

 やってまいりました、「ライザのアトリエ2」。「1」と違って「2」の舞台は王都アスラ・アム・バート!その名の通りライザの暮らす国の首都、湖に浮かぶなんてことない小島とは大違いです。当然「1」と比べてCPUの数も段違いで私のノートパソコンはプレイ中、ずっとカクカクと悲鳴を上げていました。「1」の冒険から3年後、ライザは島の権力者の命で王都へ赴くことになり、そこで出会った不思議な生物「フィー」の謎を解き明かすために奔走します。そしてこの「王都」で運命の再開を果たすわけです。誰にかって?ここまで読んできた読者さんならもうお判りでしょう。クラウディア・バレンツ、その人であります。

 ライザと離れていた3年間、クラウディアの彼女に対する思いが驚くほど重くなっている点が注目に値します。

 まず一点目、この3年間、クラウディアは初めての友達の一人であるライザに手紙を出していたことが明かされます。遠く離れた親友との文通。ファンタジー作品あるあるですね。それではクラウディアは一体、どれほどの量の手紙をライザに送っていたのでしょうか?実際のゲーム画面を見てみると……

 

 

 

(「ライザのアトリエ2」より引用)

多くない!?!?!?!?

 『広辞苑』とタメ張れんじゃないかくらいには多いぞ。たった3年間でこの量とは……敏腕商人の矜持といったところか。ただ、よく考えてほしい。この会話がなされているのは王都アスラ・アム・バート。そう、クーケン島からは遥かに離れているのである。ライザもライザでこの量の手紙をクーケン島からわざわざ持ってきたのである。クラウディアと出会えるかどうかもまだわかっていなかったのに。旅先に持っていく程度には手紙がライザの中で意味を確立しているというわけですな。

 

 ライザへの矢印が可視化されるエピソードはこれに留まりません。本作では新規キャラクターとしてパトリツィア・アーベルハイム(通称パティ)という女の子が登場します。パティはライザの妹分のような存在なのですが、ライザがパティと親しげに会話をしている様子を見てこう一言。

クラウディア「……ライザ、なんだか楽しそう。パトリツィアさんが可愛いのかな。って、私ったらなに考えてるの!?」

一番右にいるのがパティ
(「ライザのアトリエ2」より引用)

 

 他にも「女にすぐ手を出す商人」の話題がライザとの間で上がったときには……

クラウディア「ライザも、いい人だからって、簡単に付いていったらダメだよ?」

ライザ「う、うん、わかった」

クラウディア「絶対だよ?ライザは可愛いんだから、本当に気を付けてね?」

 

 何があった、クラウディア・バレンツ。この3年間でライザへの感情がものすごく重くなっているのがこれらの部分からだけでもよく分かります。では一体なぜ?3年間という期間は確かに長いですが、では本当に長期間ライザに会えなかったという理由だけでこのような感情を抱くようになるのでしょうか?その答えは、終盤のライザに吐露した次の台詞に秘められています。

 

クラウディア「私は、そのうち王都を離れなくちゃいけないし、ライザだって、島に帰らなくちゃいけない。どっちが先になるかは分からないけど、私たち、また離れ離れになっちゃうんだよ?そうなったら……今度私たちが会えるのって何年後なの?今回みたいな偶然がなかったら、もしかしたら10年、ううん、それ以上会えないかもしれない……。……私ね、ちょっとだけ怖いの。ライザは私と違って、友達を作るのが上手だから。きっと、これからたくさん友達が増えると思う。でも……私は、友達を作るのって苦手だから……だから、今はライザのことを独り占めして、思いっきり楽しみたいんだ。」

 

 お、重い。ライザへの思いが重すぎる。そうなんです。クラウディアにとってライザは初めての友達です。そんな彼女は前へ前へと進んでいく。新しい人間関係を築きながら。しかし自分は?新しい友達を作れるかどうかわからない。そして親友とはまた会えるのかすら、会えたとしても彼女はまた別の友達と楽しくやっていて自分と仲良くしてくれるかもわからない……。そのようなクラウディアの懊悩がこれでもかと表現された名シーンです。「2」、確かに百合だ。

 

 ではこの告白を受けた主人公は一体なにをやったのか?ライザはお得意の錬金術を使って、色々考えた末にプレゼントを作り上げます。その名も「メモリアブレスレット」。これを2つ、お揃いのものを用意してクラウディアに片方を渡し、我らが錬金術師様はこう言いのけます。

 

ライザ「次に会えるのが、たとえ何年後になったとしても、クラウディアはあたしの、特別な友達。それだけは、絶対に変わらないよ。何があろうと、絶対にね。これは、その約束の証……。だから、不安にならなくても大丈夫だよ。」

クラウディア「ありがとう……。私ね……ライザに、独占欲みたいなの感じちゃってた……そのせいでライザに心配かけちゃった。もう、ほんと恥ずかしい……。」

ライザ「……気にしないで。ずっと色んな所を旅してたクラウディアには、友達を作る余裕なんてなかったの、分かってるから。それでも、あたしと友達になってくれた。あたしはそれがとっても嬉しい。だからね、クラウディアがもう二度とそんな気持ちにならないように、ハッキリ言うよ。あたしは、これからも友達をたくさん作ると思う。クラウディアと、会えない間に……。それでも、クラウディアがあたしの大親友であることは何も変わらない。だから、もう二度とクラウディアが不安な気持ちになったりしないように……こっちにいる間に、あたしのクラウディアの気持ち、しっかり伝えるよ!」

よう言うた!!!!!!!!!

 それでこそシリーズ歴代最多出荷数や。ライザリン・シュタウト、恐ろしい女……。いやもう流石としか言いようがない。最善手をしっかり指してくれる安心感よ。そしてこれを受けた後日の様子、ライザとクラウディアとの最後のキャラクエストの様子がこちら

↓↓↓

(「ライザのアトリエ2」より引用)

いい笑顔!!!

 いい話すぎる。両者は二人の世界に入っており、パティに呆れられております。まさに阿吽の呼吸。ツーと言えばカーと応ず。意気投合ここに極まれり。わだかまりも解け『ライザのアトリエ2~失われた伝承と秘密の妖精~』、これにて完結です。フィー?そんなものは知りません。このスチルがEDです。ちなみにここで作成したメモリアブレスレット、ちゃんと装備品です。私はしっかり二人に装備させてラスボスと戦ってやりました。本当に勝てなくて8回くらいやり直したけど……。強すぎるんだよ。

 

 ここまでの流れを見てきたら、「2」におけるクラウディアがライザに向ける関係は恋情なんじゃないかという意見も出てくることでしょう。確かにその解釈は否定できません。先述の通りライザのことを「可愛い」と言及している部分もあり、嫉妬の炎を燃え滾らせている部分もあったわけですから。ただ、私はライザとクラウディアの関係を恋愛関係と見なすのは少し短絡的ではないかとも同時に思うのです。

 何度も繰り返しています通り、クラウディアはライザにとって初めての友達。友達との距離感がどういうものかもわかっていない。親友に対して羨望嫉妬入り混じった思いを抱く経験は多くの人が経験したことがあるのではないでしょうか。特にクラウディアとの最後のキャラクタークエスト(ライザとクラウディアが談笑をしているイラストのアレ)が以心伝心の友人という形で決着したところから見ても、両者の関係は恋愛の延長線上ではなく友情の延長線上として見るのが正しいんじゃないかなぁというのが個人的見解です。はい。異論は認めます。解釈バトルをやりましょう。受けて立ちます。

成長、自立、そして…… 『ライザのアトリエ3~終わりの錬金術師と秘密の鍵~』

 最終作「ライザのアトリエ3」の話をするとしましょう。本作は「2」から二年後、王都アスラ・アム・バートから再びクーケン島に舞台を移します。クーケン島の隣に突如として現れた謎の島々「カーク群島」の謎を解き明かすライザ最後の冒険です。そして今回も当然、ライザとクラウディアの両者が登場するわけです。初めて会ったときは17歳だった二人はもう22歳です。時の流れとは早いものだなぁ。私としてはシリーズ三部作のライザとクラウディアの関係性の中でも一番好きなのが「3」です。

 「2」のクラウディアはライザに対して、「依存」とも表現できるものすごく重い感情を抱いていました。一方、「3」のクラウディアは違います。「2」のライザとの対話を通じて、そしてそこから2年の時を経て、自立する一方で確固とした信頼を持っています。それはライザも同様です。お互いがお互いに対して揺るぐことのない強い絆を持っているのです。「3」中に見えるいくつかのエピソードを紹介していきましょう。

 

 「3」のあるシーンで縁談の話題が二人の間で出ました。クラウディア曰く、まだ結婚をするつもりはないと。というのも彼女は現在、仕事の方が楽しくて結婚などを考える余裕がないからだと述べます。しかし、それだけが全てではありません。クラウディアから、真の理由が述べられます。

(「ライザのアトリエ3」より引用)

「……でも、本当はね。まだライザとこうして一緒に冒険したかったからだよ。」

 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!言ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 結婚というのは人生の一大イベントであり、その後の自分の人生を決定づけてしまいます。加えて「ライザのアトリエ」のようなファンタジー世界、多少なりとも封建的な部分もストーリーから感じ取れるこの世界観ならば、結婚というイベントは我々の想像より遥かに重大なことと捉えられているでしょう。実際、先述のパティやボオスという他のキャラも、名家の出身ということで結婚や縁談がストーリー中でしばしばまとわりついてきます。しかしクラウディア・バレンツはそのような一大事をいとも容易くはねのけるのです。今この瞬間で家庭に縛られるなんてまっぴらごめんだ。親友であり相棒でもある、一人の錬金術師との冒険のために。個人的にシリーズ三部作の中で一番百合を感じたシーンはさらりと表明されたこの決意に他なりません。

 

 他にも、ライザと共に外出したときのこと。クラウディアはいつもライザと出かけるときに準備を一瞬で終わらせます。いいとこのお嬢様だし、身なりも結構ちゃんとしている。普通に考えると田舎っ娘のライザと比べて外出の準備時間は比べものにならないはずです。ライザに「なぜそれほど準備に時間がかからないのか」と問われると……

(「ライザのアトリエ3」より引用)

 このような「1」から脈々と続く「一番の友達」という面もまだ有しているわけです。これを聞いたライザも(そういうことだったんだ……。もう、クラウディアったら。)とまんざらでもないご様子。いい話です。

 

 では、核心に入っていきましょう。「お互いがお互いに対して揺るぐことのない強い絆を持っている」とはどういうことなんでしょうか。これがよく分かるのが物語最終盤、ED直前の二人の会話です。本作のラスボスを倒した後、ライザは冒険を終わらせることを決断します。5年間(現実時間だと「秘密」シリーズの開始から4年)に及ぶライザの戦いが終わりを迎えようとしているのです。共に一つの目的のために行動するということはなくなり、それぞれが元の生活、あるいは新たなる旅路へと戻っていきます。

 

クラウディア「お互い様で、自分の道を進む……だから、なのかな?」

ライザ 「何が?」
クラウディア「解散宣言の時…… 自分でも不思議だったんだけどライザに『一緒に旅をしよう』 って言わなかったなって」
ライザ「そういや、あたしも思いつかなかったな......でも、きっとそれって」
クラウディア「うん」

(「ライザのアトリエ3」より引用)

二人「もう一緒に旅をしているようなものだから!!」

ライザ「だね!まあ本当に困ったら、やっぱり集まってもらうんだけど」
クラウディア「頼るのに遠慮はいらない、 だよ。そうやって、時には離れて、時には一緒になって、ライザも私も他のみんなも、 自分の道を旅していく。 そういうものなんじゃないかな」

 

 この部分だけでも凄く良い関係ですよね?で、このシーンは先述の「2」のクラウディアの葛藤とライザの思いを考えてみると、さらに味わい深くなります。「2」の依存から脱却し、「俺は俺の道を往く、だからお前はお前の道を往け」と言いのけてしまう覚悟を有した二人。自分たちの間には、絆という決して切れることがない糸が、見えないにしても確実に存在しているのですから。互いを一個の独立した存在として尊重し、その上で片方が存在を脅かされるようなときだけはすぐに駆け付けるという約束をする。ピンチのとき以外は別々の場所にいることでしょう。ライザは錬金術師の、クラウディアは旅商人の道を進み続け、もしかしたらその道が交わることは今後ないのかもしれない。しかし、それでいいのです。二人は二人への思いを胸に、前へ前へと自分の冒険をやり続けるのですから。

 こういう「普段は別々の行動を取っているかもしれないけれど相手を確実に信頼し、何かあったら駆け付け一緒に戦う」という関係が私は大好きです。「共闘」とか「連帯」とかって本当にいいですよね。恋愛とは質の異なる絆というのもあるんじゃないかと私は思うんです。ライザ、そしてクラウディア、本当にありがとう。ガストブランドよ、永遠に。

 

※以上ネタバレ注意※

ここから先は大丈夫でっせ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おわりに

 いかがでしたでしょうか?今回ブログを書いてみてよく分かったのですが、想像以上に百合でした。いわゆるシスターフッドとか女性同士の連帯のようなジャンルが大好きなので(「リコリコ」、「アクアトープ」、「リボンの武者」などなど)二人の関係も非常に良いものだったなぁという所感です。本当に良かった……。「秘密」シリーズの魅力は上記のようなライザとクラウディアの物語だけでなく、いろいろあります。まさに総合芸術です。この1年間、色々ありましたけど確実に心の癒しの一部分になっておりました。

 最後に、この記事を読んで「ライザのアトリエ」に興味を抱いた人がいるかもしれませんので、いくつかの紹介をしておきましょう。

 まず「ゲーム本編やりたい!」という方には『ライザのアトリエ~秘密トリロジー~DX』をオススメ致します。実は2025年11月13日、この記事が書かれているまさにそのタイミングでガストによって発売されます。「ライザ1」、「ライザ2」、「ライザ3」がそれぞれ追加ストーリー、新機能、さらに新規プレイアブルキャラを引っ提げてswitch2やPS、Steamに帰ってくるわけです。まさに「秘密」シリーズが盛り上がるこのタイミングですよ。始めるなら今です。ちなみにオリジナル版からのアップグレード、追加シナリオのDLC販売はありません。私は先月「3」をクリアしたばかりですが、DX版を買うか真剣にお財布と相談する状況に陥っています。畜生。ありがとうガストブランド。

とても欲しいです
(ガストショップより引用)

 「まだゲームは始めなくていいかなぁ」という方にはぜひぜひアニメ版を見ていただきたい。こちら、2023年夏クールに放映されました全12話の作品です。製作はライデンフィルム、だいたい「1」の中盤くらいまでがアニメ化範囲です。私は浪人期間、河合塾のリフレッシュルームにて毎週、ニコ動のコメント付きで視聴しながら昼飯を食べるモンスターになっていました。はい。だいたいどういうストーリーなのかを知るにはうってつけです。「これを見て続きが気になる!」というのであればゲーム本編に進むのがいいかもしれません。ライザとクラウディアの交流も、あります。

もう2年前ってマジ???
(アニメ「ライザのアトリエ」公式サイトより引用)

 で、「アニメもゲームもまだどうだろう」というそこのあなた!このツイートの漫画を読みなさい。こちら、歴代「アトリエ」シリーズのキャラクターが出てくる『レスレリアーナのアトリエ』の公式Twitterなのですが、これまた本稿の執筆中、公式にライザとクラウディアの4コマ漫画が投下されました。「秘密」シリーズ界隈のTLが少しざわつきましたことは言うまでもありません。ここに紹介しておきます。

 

 以上の紹介を以て本稿を終わらせたいと思います。今回ブログを通しで書いてみることで二人の関係性への理解というのがかなり深まったように思います。NF直前という時期にブログを書くことを許してくださった百合文研の皆様には感謝しかありません。次にいつ現れるかは分かりませんが、またどこかでお会いしましょう。

読者のみなさんも良き錬金術&百合ライフを!!

 

 

C106@南2-b26a 百合文研の頒布物を大紹介!!

夏真っ盛り、百合真っ盛り。

例年より一週間遅い夏コミ、今回も百合文研参加いたします!

今回の百合研スペースは過去最大のボリュームでお届けしますので、気になった方、新刊も引き続きという方、ぜひお立ち寄りください。

それでは頒布物の紹介、いってみよう!

Liliology vol.6

今年5月発行の会誌第6号がついにコミケに登場。表紙と恒例のインタビューは『デミライフ!』「はやてら」などでお馴染みの黄井ぴかち先生に担当していただきました!

会員による創作・評論に加え、企画「上伊那ぼたんの酒全部飲む」のレポートも収録しております。

 

Liliology vol.6グッズ

ぴかち先生のご厚意により、表紙イラストを使用したグッズ制作が実現!

今回は「アクリルキーホルダー」「A4クリアファイル」を頒布、さらにvol.6購入特典としてポストカードを配布予定です。

 

Liliology バックナンバー

以前より頒布していた「vol.4」「vol.5」に加えて、長らく在庫切れとなっていた「vol.1」「vol.2」「vol.3」が復活。これにより、会誌の既刊すべてが揃いました!セットならお得にコンプリートも可能ですので、百合文研の歩みにご興味あればぜひどうぞ。

以上、頒布物紹介でした。会員一同、「2日目南2-b26a」でお待ちしております!

【百合の日】箱 -ファミリーマート麻田東一条店-【1分リレー小説】

最近、我が家のわんこが愛おしすぎて、噛んで咀嚼して私の一部にしたい衝動に駆られるの。/そんな普遍的立法に一致しないことをいいながら私の友人である裕美はファミリーマートに入った。/

「私はあんたのこと食べてみたいって思うこと、たまにあるけどね」
そんな言葉がついこぼれて、/誰にも聞かれないままに夏の空に吸い込まれていった。

「それ、本当?」

一瞬の涼気をまといながら裕美が視界に顔を覗かせた。/彼女の手には138番のショートピースと、炭酸水。いつも通りの日常を噛みしめて、つい顔がほころぶ。明日も晴れますように、そう夜空に願った。/

「まあ……暑いし」

私は何を言っているのだろう。

暑いならファミマでアイスでも買えばいいのに。

「じゃあ……食べてみる?」

そう言うとおもむろに彼女は、その程よく肉づいた右腕を取り外した。/

「え、いいの?では、遠慮なく……」
やわらかな二の腕の質感を両手の指で確かめるように逆手でつかんだ。口を開けてかじろうと思ったその瞬間、/

「あれ?」

私は白い箱の中に座り込んでいた。

多分、体育座りで眠っていたのだろう。

「どこ、ここ?裕美は?」/

「何言ってんの、今あなたのまわりを囲っているじゃない」
あ、そうか、彼女箱だったか。
見渡すと、箱の中には1匹のケルベロスがいた。
あー、あれが例のわんこかぁ。/

そう、彼女は箱になった。

理化学技術の発達による人体改造術によって。

被検体19-xv7号、それが今の彼女の名前、実験者は私。

このケルベロスはイレギュラーだが、彼女の心象なのだろう。/

その飢えたケルベロスが今まさに私に噛みつかんとする。

私は目を瞑る。しかし私に痛みは訪れない。

目を開けると、目の前にはやや小ぶりな箱があった。白い箱。

そして裕美が私の横に立っていた。

「君が食べたいって言ったから、この犬と私の存在が重なったんじゃない?」/

ちょっと何言ってるのかわかんない。

とにかく、今目の前にいるのは裕美という肉塊、私に語りかけている。でも、どうしてだろう、とっても、とってもおいしそうに見えてたまらない。

 

ごくり/

 

しかしながらわたくしといふ現象は仮定された有機交流電燈のひとつの青い照明にすぎないのですから、/無我夢中に彼女らしき肉塊に舌を這わせてみる。

「うそ……」

およそ人間とは思えない感触だった。目の前にいる「彼女」は、やはり箱だったのだ。/

裕美ーー箱が、今度はぱかりと空いて……私を食べたいのだろうか。/

箱の口が閉じて、差し入れた指がのみこまれる。

そして、彼女の記憶、彼女が生きた証が、私の頭に流れ込んだ。/

それは鋭い牙のように私の思考を侵食する。この奇妙な空間、ケルベロス、箱、箱、彼女、箱、彼女……彼女と箱とこの世界、私はその全てを覚った。/

そうか、これが貴女との同一化という一つの志向。
貴女は私、私は貴女、私も貴女、貴女も私
私は私が誰であるかを貴女によって悟った。
そして/私は…

この小さな箱と私を囲う大きな箱、これらが位相的に繋がることでこの宇宙が出来上がっている。この箱は悠久の昔から存在しているのだろう。
彼女は宇宙の真理とでもいうべきもので、私はその中の一部なのだ。

 

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6月25日、本日は百合の日。百合の日当日、例会ですることと言えばそう

「1分リレー小説」!!

 

なんて?

 

☆レギュレーション

・参加者9名で、書き出し担当と執筆順をルーレット

・ターンが来たら30秒で構想を練り、1分で執筆

↓順番

 

終わってみれば、程よくカオスで、考察の余地も残る小説に纏まったのではないでしょうか。というか、果たしてこれは百合なんでしょうか。

もう参加者の私もわけがわかりませんが、楽しかったのでよしとしましょう。

考察は皆様にお任せします。

ではみなさま、よき百合を。

文責:りんどう

【新歓布教blog 第8回】新生活にオススメな百合音声作品5選

 はじめまして。最近読んだオススメの百合漫画は『たゆたうふたり』、月海です。

medu.gotbb.jp

穏やかな空気感で、読んでいてとても心地良い作品だったので、ぜひ……

 

 春、新生活の季節。新たな物事に挑戦するのにうってつけなこの時期に、何か新たなメディアの百合作品を開拓してみませんか?

 ということで、今回はいわゆる「バイノーラル音声作品」をご紹介したいと思います。

 いわゆるASMRがYouTubeなどのネット配信メディアの一大コンテンツとして確立された昨今ですが、実はそれを利用した百合作品もあります。

 バイノーラル音声によって表現されるのは、聞こえてくる音声の遠近や息遣い一つ一つの違いによって演出される、文字列やイラストでは表現し得ない非視覚的な「2人の距離」。アニメや小説ともまた異なる、耳朶を通して得られる百合を楽しんでいきましょう。
※記事後半ではR15作品、成人向け作品も紹介していますので、苦手な方はご注意ください!

 

一般向け作品

『しまこい。〜姉妹で恋するヒミツの時間〜』

【百合体験】しまこい。〜 姉妹で恋するヒミツの時間 〜【CV:優木かな】 [SukeraSono]

 百合音声といえば、な大人気サークルSukeraSonoさんの手がけた一作。『ささやくように恋を唄う』や「わたなれ」でお馴染みの竹嶋えく先生によるパッケージが目を引く本作は、いわゆる姉妹百合を描いたものになります。

 この作品で表現されるのは、姉の視点からの「声」と「音」。奔放で真っ直ぐに好意を伝えてくる妹の「るりこ」さんとの日常が描かれます。何より嬉しいのはそのシチュエーションの豊富さ!総再生時間1時間ほどの中に寝室から学校、雨の中から浴室まで、色々な状況を、都度変わる音の響き方の違いによる臨場感と共に描いていきます。個人的にお気に入りなのはEP03『こんなに嬉しい雨の日』ですね。傘をさした前と後の雨粒の跳ねる音の違い、相合傘の中のるりこさんの接近の表現は秀逸です。

 ......なんてことを考えなくても、本作は姉妹のイチャイチャを姉の視点を通して楽しむことができる、とコンセプトの時点で非常に楽しいものとなっています。ASMRらしくいろんな音を楽しみたい、姉妹のヒミツな関係を「音で」眺めたい、という方はぜひ!

www.dlsite.com

 

『花様年華 -少女に飼われるペットな私- 』

【百合体験】花様年華 -少女に飼われるペットな私-【CV:高田憂希】 [SukeraSono]

 こちらもSukeraSonoさんの作品になります。

 記憶を喪失し、声も失った1人の女性が、屋敷暮らしの少女「雪音」に拾われるところからはじまる作品。プロローグの雨の中の激しさから一転、雪音さんに拾われてから向かう屋敷の中の静けさにグッと惹きつけられます。

 しかし、やはり特筆すべきはそのストーリーそのもの。拾った相手のことを「ペット」として愛玩する少女の、耳朶に感じる慈しみに溢れる声。そして、少女の歪んだ好意に従順に従う女性。脆さ、危うさを伴いながらも鋭い光のような無二の美しさを放つ二人の関係のなんと眩しいことか。往年の文学作品に覚える耽美的な雰囲気を音声という媒体で表現した、非常に特徴的な1作です。

www.dlsite.com

 

 という感じでSukeraSonoさんの作品を2作品紹介したわけですが、正直なところ...... 「SukeraSonoさんの音声作品にハズレなし!!!!」

 なのでよろしければ、一度公式サイトや販売サイトの方でパッケージを眺めてみて、気になった作品を聞いてみる、という形で全然良いと思います。いわゆる体験型のバイノーラル音声作品の入り口としてどれも良いかと思うので、是非!

sukerasparo.com

(やっぱり「終末百合音声」のインタラクティブなギミックを備えた音声作品という唯一無二性とそこに没入させるための音造りが素晴らしくて......最新作の「百合怪談」もバイノーラルサウンド版ジャンプスケア的な演出を、二人の間のやわらかな雰囲気を削ぐことのない塩梅でやっているところが絶妙でえ......)

 

R15作品

『北の大地と放浪姉妹』

北の大地と放浪姉妹[野上菜月さん/天知遥さん/本編2時間10分/作品おまけ合計5時間30分] [チームランドセル]

 戦争で両親と死別した姉妹が雪原の大地から安住の場所を目指す旅路。その間にあったインモラルな一幕を切り取った作品。

 先ほどはポップで明るい姉妹百合を紹介しましたが、打って変わってこちらは少し暗めな姉妹百合。姉に対して無垢な愛情を抱く妹と、妹に対して庇護心、そしてそれとは相反するような背徳感を抱く姉が、旅の合間に静かに言葉を、体を交わらせる様子を描きます。

 こちらは先ほどまでの体験型とは異なり、いわゆる「壁百合系」と呼ばれる、音声が一人の視点に縛られないような作品となっています。壁百合系の良い点はボイスドラマの延長線として、素直に聴きやすいところでしょう。加えて、この作品ならではの特徴としてトラック中にアンビエントミュージックがBGMとして流れており、作品全体の空気感を一層幻想的に演出します。

 仄暗さと静謐とした雰囲気が同居した一作。百合作品としてだけでなく、バイノーラル音声を聴いてリラックスをしたい、という方にもオススメです。

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成人向け作品

『とーかの秘密』

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 学校でも評判の先輩から告白された「とーか」さん。しかし、男性に触れられることに抵抗があり、返事に悩んで友人に相談したところ、彼女は「じゃあさ、ふれられるの、女の子から慣らしていこうか。」と言ってきて......。というふうにはじまる作品。2時間越えという長い時間をかけてゆっくり、じっくりととーかさんが友人に籠絡されていく様が描かれていきます。

 こちらはいわゆる体験型の百合音声ですが、特筆すべきは聴き手の視点が「とーか」さんであること、そして聴き手には耳元に響く声の主、とーかさんの友人の名前が一切分からないことにあります。

 つまりこの音声作品は、「友人は目の前の相手を『とーか』と呼ぶこと」「とーかさんであれば当然知っている情報が聴き手には一切持っていないこと」によって、体験型でありながら、決してとーかさん=「聴き手」とならない、百合に挟まらない構造になっているわけです。

 蠱惑的で、しかし時折臆病な一面を垣間見せる「友人」さんと、彼女に誘われるまま落ちてゆくとーかさんとの、甘美なひととき。「百合音声作品について調べたけど『百合体験』という文言にしっくり来ないなあ……」という方は、試しに一度この作品を手に取ってみていただきたいと思います。50%オフセールなども頻繁にやっていますので、何卒......!

 

『彩純ちゃんはレズ風俗に興味があります!』

www.dlsite.com こちらは、現在コミック百合姫で大人気連載中の同名作のメディアミックス作品になります。(コミック百合姫さん!?

 ちなみに最近第2弾も発売されました。(コミック百合姫さん!!??

 第1弾はさやかさん編。抱擁感がありつつもちょっぴりいじわるなさやかさんに翻弄され、蕩けていく彩純さんの様子をたっぷり描きます。

 こちらの作品、基本的には彩純さんの視点で楽しむ作品となっているのですが、面白いのが彩純さんの声やモノローグもしっかり収録されていること。普段、彩純さんが味わっているアレコレを追体験しつつ、ボイスドラマとしても楽しむことのできる構成で聴いていてとても嬉しい。浴室での水音や声の反響など、音造りにも凝っていて満足感のある一作に仕上がっています。

 さらに、伊月クロ先生による描きおろし漫画も同梱!(コミック百合姫さん!!!!????

 記事執筆中の現在、第2弾発売記念として4月24日まで50%オフセールも行っていますので、ぜひ!

 ......コミック百合姫さん、もしもよければ『【フォーリー】グッバイ・ディストピア【廃墟探索・水の音】』とか唐突に発売しても、良いんですよ......?

 

 

終わりに

 というわけで、ここまで5つのバイノーラル百合音声作品について紹介させていただきました。どれも入門としてほどよい作品かと思いますので、もしも気になる作品などありましたらまずはサイトにあります体験版を、そしてあわよくば(クーポン発行期間中やセールのタイミングにでも)ご購入いただけますと非常に嬉しいです! 

 それでは、ここまで読んでいただきありがとうございました。皆さん、素敵な百合ライフを! 

【新歓布教blog 第7回】えぇ!?時代を越えるオムニバス形式台湾百合漫画の紹介を!?

 

できらぁ!!!!!!!!!

 

はじめに

というわけでいきなり大声挙げて申し訳ございません。京大新一回生の方々は本当にご入学おめでとうございます。あっしはこぅせーと申しまして、しがねぇ百合文研の平会員でげす。

好きな百合(?)作品は「東方」、「ゾンサガ」、「ヨルクラ」、「ガルクラ」、『白い砂のアクアトープ』、『トラペジウム』あたりでございます。「東方」は誰がなんと言おうと百合でございます。えぇ、誰が何と言おうと。あと「ガルパン」も好きでございます。最終章第5話、一体いつなんでしょうね。まぁ兎にも角にもどうぞよしなに。


というわけで新入生布教企画ですけれど……どの作品で書けばいいものかと思い悩みました。実は私、「東方」とかはずっと昔から好きですけど“百合”というジャンル自体に触れ始めたのは大学入ってから、それこそこの会への入会をきっかけとして触れ始めたわけです。なんと「百合読もう!」と思ってから1年も経っていないというわけですから驚いたったらありゃしない(そんな私の百合遍歴は弊会会誌vol.5に収録の定番企画、「あなたの百合はどこから」の私の記事に書いてありますので機会があれば)。

 

そうやってあれこれ考えた末に決めた作品こそが、今回紹介します、星期一回収日先生の『奇譚花物語』でございます。

基本情報

題名:奇譚花物語
作者:星期一回収日(原作:楊双子 訳:黒木夏兒)
発行:2022年
出版:サウザンブックス

書影

あらすじ

ふたりの関係は姉妹あるいは親友、それとも恋人? 昭和11年。「高等女学校」「日本への進学」「職業婦人」といった“新しい未来”が少女たちの前に輝かしく提示されるも、選択は本人の意思には委ねられていなかった時代。そこにひっそりと咲く少女たちの恋があった。日本時代と現代のふたつの時代を描く、台湾の漫画賞「金漫奨 2021年度漫画奨」を受賞した台湾発の百合コミック(ダ・ヴィンチwebより)

 

魅力紹介

いや、めっちゃよくない???

あらすじの時点でなんかこう、なんとも言えない妖しさといいますか美しさと言いますか、えもいえぬ良さが伝わってくるといいますか……。

 

舞台は台湾第二の都市として知られる台中。そしてここからが特徴的なのですがオムニバス形式で4つの物語が収録されております。そのうち1つは現代が舞台なのですが、それ以外の3つの舞台はなんと昭和11年(1936年)!!日本だと2・26事件が勃発して軍靴の音が少しずつ、けれども確実に大きくなっていった時代でございます。この時代の台湾は日清戦争以来日本の統治下にあったわけですね。物語の世界観でもそういった要素をひしひしと感じることができ、とても面白い。

日本統治下という文脈が歴史の浪漫を作品に与えている(P63,227)

 

そして物語の内容に触れていきたいのですが、一言で表すなら「幻想的」とでも言いましょうか。ここで4つの物語がどういう話なのかを軽めに触れておきますと……

1話:祖父が冥婚をしたことにより、同い年で幽霊の大叔母ができた少女の物語
2話:折れば願いが叶うという水鹿の角を折ったばかりに報いを受けた少女たちの物語
3話:呪われし名家の妾と、その家に生まれた天才少女の物語
4話:虎爺巡りでつながる本名も知らない二人の物語

どれも”良い”んですよね。現代が舞台の4話でも、「虎爺」というのはお守りですし妖怪とかの民俗学的な要素が多分に含まれているのでなんとなくどこか「現世とは少し異なる不思議な感じ」はあるわけです。個人的なイチオシは1話です。実はこの話、詠恩という幽霊の少女とそんな彼女とコミュニケーションをとることができる霊感の強い女の子・英子の物語です。台湾には「冥婚」という、ざっくり言うとすでに死んだ人と結婚をすることができるという風習があるのですが、英子の祖父が英恩と冥婚をしたばかりに英子は同い年かつ死人の大叔母を突如持つようになったというわけであります。英恩と英子、二人は交流を深める中で自分たちがなぜ出会うことになったのかという運命的な因果を発見するわけですが……生き死にを超越した女同士の絆というものをぜひ味わっていただきたい。

黒髪が英子、浮いてる方が英恩(P7)

 

そういえばこの漫画を知った経緯なのですが、京都大学で菊地暁という教員が行っている「民俗学II」という講義で“参考文献として”挙げられたのがきっかけであります。元々わたしは「東方」が昔っから大好きなように妖怪や神話にも強い興味を惹かれていたので読むことを決めたわけですが……例えば上で挙げた「冥婚」といった民俗事象に、ストーリーを楽しみつつ触れられるわけです。こういった台湾という土地に根差した伝承や超自然的なならわしが物語に絡みつくことで味わい深さが増幅されていてとてもいい。
※ちなみにこの菊地先生が担当されている「民俗学I・II」という授業は得られるものが非常に多い名講義なので受講を強くオススメします。完全な余談ですが。


あと単純なことですが、とても絵が上手い。海外の百合漫画……に限らず海外の漫画自体、アメコミ以外私はほとんど触れたことすらなかったのですけど、日本の漫画と比べても全く遜色ない。いやぁ本当に上手い。どうやら台湾では戒厳令が敷かれていた時に漫画が非常に厳しく取り締まられていたようで、海賊版として日本の漫画が流入して人気を博していたようです。その都合で特に少女漫画なんかはジャパニーズ・コミックの影響を顕著に受けている、なんて裏事情があるそうですね。
その一方で擬音?効果音?オノマトペとかは全部漢字で表記されているのが面白い。表音文字でなくて表意文字で描くとこんな感じになるんですね。私知りませんでした。

ふふんー(P215)

おわりに

最後にはなりますが、機会があったらぜひ『奇譚花物語』をよろしくお願いします。またこの作品が好きだったらおそらく!たぶん!!いいや確実に!!!同じく妖怪や伝承が主題となる「東方」も好きだと思いますので、ぜひ始めてみませんか!?!?!?